あれでも一国の王女なんだ
大陸北西部・ユーファミラ王国内
「息子~! 私の息子が~! おぉ~!」
解放されたユーファミラ王国の王様が股間を押さえ泣き叫んでいる。
失ったか? まあ彼ももう十二分に活躍したさ。たぶん?
何故か悪魔が王妃様のスイングにダメ出しをしている。軽く力んで地面を叩いてしまったのだ。あの時の『ボクッ』と響いた鈍い音はしばらく忘れないかもしれない。代わりに娘さんである王女様のスイングは大変素晴らしかった。迷うことなく全力で大きな円を描いて振り抜いた。
あの瞬間、国王様の息子がたぶんナイスショットしたのだろう。
「で、フランクさん?」
「……」
慟哭……たぶんそんな言葉があっていそうな国王様の腰を叩いていたフランクさんがその大役を部下に譲って僕の元へと来た。
大丈夫? 切り替えは終わった?
「んん。失礼」
軽く咳払いをして彼は切り替えた。色々何かを切り替えた。
「王妃様」
「分かりました。この部分でつい相手への恨みが出て力んだようで……失礼」
何やら悪魔を相手にスイングの確認をしていた王妃様が僕らの視線に気づいてくれた。
大丈夫です。失礼なのはウチの悪魔なので。後で捕まえてお仕置きしておきますので。
「お初にお目にかかります。わたくしはユーファミラ王国の王妃カローラと申します。そしてこちらに控えているのが娘のカレンです」
その娘さんは会心のスイングが忘れられないようであちらでゴボウを振るっていますが?
「ゴホン。本当に失礼を」
「大丈夫です」
ぶっちゃけ僕としてはこっちのノリの方が好きなので。
「改めて挨拶を。ユニバンス王国から来ましたアルグスタと申します。それであちらで呆けているのが妻のノイエ。それと現在物陰で何かしているであろうチビがノイエの妹のコロネで、そこで場を混沌にした罪で後で折檻が確定しているのがウチのメイドのポーラです」
『ブー。ブー』と悪魔がプラカードを持って抗議している。
とりあえずそのプラカードを略奪し、相手の尻に数回叩き込んでおく。
「ぬぅおおおおぉ~」
流れるような動作で悪魔が国王陛下の横で尻を抱えて蹲る。
「このように容赦しません」
「そのようですね」
おほほと笑っている王妃さまも中々の人物だろう。
で、だ。そろそろツッコミを入れた方が良いのか? 何故にこの王妃様はビキニアーマーなの? この国の地位ある女性はそれが通常装備なの? あっちに居る王女様もビキニアーマーだよね?
「このような格好は珍しいでしょうか?」
気を付けていたつもりだが王妃様に気づかれてしまった。
女性は男性の視線に敏感で良く気づくという噂は事実か?
「これは我が国の伝統衣装で、初代魔剣の使い手が……アルグスタ様?」
犯人が分かったので成敗しに行こうとしたらフランクさんに止められた。
何故止める? あの馬鹿な魔剣が余計な文化をだな、はい? 今テレサさんの元に行くとこっちに来る可能性が高い? あの人は国王陛下を崇拝しているからあの姿を見せるのは忍びない?
僕としてはあの手の変態は本性をちゃんと晒しておいて注意を促した方が良いと思うタイプの人間なのですが、まあ仕方ない。
王妃様との話し合いに戻る。
「正直寒い時期には辛いのですが」
「心中お察しします」
これ以上の返事を僕は知らない。
と言うかテレサさんのあれは肉を抑え込んでいるような感じにしか見えないけど、王妃様や王女様は大変スレンダーな女性なのでビキニアーマーが貧相を通り越して色んな意味で痛々しい。
ある程度のスタイルを持つ女性が着ないとビキニは映えないのだな。
あれ? ノイエに着せた時は物凄く似合っていたけど? つまり僕はノイエの服装を間違えている?
一度お嫁さんを確認する。ある意味で完全武装だ。
ワンピースの上から鎧を着こんでいる格好である。ブーツも特注品です。
「奥さまにこの衣装を?」
「……ちょっと考えさせてください」
知ってる。似合っていると知っている。だから王妃様の申し出を断れない僕なのです。
それは良いんだけど、気づくと復活した悪魔が何故か王女様の元へ。
邪悪な笑みを浮かべているから悪だくみを考えているな。
どうせ返り討ちに遭うのに失礼な馬鹿である。
「失礼します」
ツカツカと歩いて来た王女様が僕らの話し合いに混ざって来た。
こちらは母親似の大変スレンダーな女性だ。決して細すぎるということではない。母親同様にちゃんと鍛えられている感じが伝わる素晴らしい肉体だろう。胸とかお尻にもっとボリュームがあればだけど。
「わたしはユーファミラ王国の王女カレン」
「どうも」
あれ? 何だろう? この高圧的な感じ……何故か懐かしさを覚えるこの高圧的な空気はなんだ?
「何でも貴方の奥方はドラゴンスレイヤーだとか?」
分かった。思い出した。お嬢様ムーブだ。
悪役令嬢とかがヒロインに対して上からの感じで話しかけてくる感じだ。
そうだ。僕は異世界に来てからこの手の人種と出会っていない。何故だ!
それか僕が王子であり、自国では僕より偉い人が僅かだ。地位だと数人だけど立場だと結構いるような気はするが、それでも僕に対して頭ごなしに強気の言葉を投げかけて来る人は居なかった。
何故ならユニバンスは言葉を投げかけるくらいなら拳で殴りかかる国だからかっ!
「ウチのテレサほど強いとは思えませんが、どれほど強いのかこの目で確かめてみたいと思いまして」
うん。良い感じで上からだ。上から過ぎる。そしてプチっと僕をキレさせる程度に失礼である。
この王女……ゴボウでしばき倒してやろうか? あん?
「分かりました」
相手の申し出を僕は受け入れる。
これでもかと笑顔で受け入れる。
条件は簡単です。ええ本当に簡単です。
決着は僅か数秒でした。
片手にベーコンを持った王女様に対し、離れた場所で呆けているノイエが攻撃をする。その攻撃を逃れることができれば王女様の勝ちだ。
特別に別途呪いを解く塩をプレゼントしよう。代わりにノイエは王女様を任せて椅子にして腰かけてベーコンを食べたら今夜は焼きベーコン祭りである。
その申し出に王女様は乗った。離れたノイエの攻撃など回避できると高を括ったのだ。
結果は解説する必要もない。審判はフランクさんで良い。そんなフランクさんは最後まで王女様に『止めましょう』と提案していたが却下され、仕方なく開始の合図を送ったのだ。
北を向いたままでノイエのアホ毛が王女を襲った。
フックからのボディーブローで前のめりに蹲った王女様の背に瞬間移動してきたノイエが腰かけもきゅもきゅとベーコンを食べていた。
実に呆気ない。そして余計なことをさせた悪魔は尻叩きの刑を追加して実施した。
『何か出ちゃうから~』と泣き叫び逃げて行った悪魔と入れ替わってコロネが戻ってきた。
ドレスを着替え何故か全体的に内ももをこすり合わせる感じで静々と歩いて来る。
「漏らしたか?」
「ちがうもんっ!」
顔を真っ赤にしてコロネが吠える。そのリアクションはもう全ての答えだと思うぞ?
だからちゃんとした下着をだな……しゃがんでコロネのスカートの中身を確認したら、慌てた彼女が片手で捲り上がったスカートを抑えた。
うむ。そうかそうか。お兄さん理解した。
「紐は早いかな? それならまだノーパンの方が良い気がするぞ?」
「しないから! 下着をはかないのはユリアぐらいだからっ!」
そうなの? うわ~。ユリアの知りたくもなかった性癖を知ってしまったよ。
帰ったらユリアのノーパンネタでしばらく遊んでやろう。
「何故にそんな攻めた下着を?」
「……替えがなかっただけだもん!」
泣きながらコロネは悪魔を追うように走って行った。
若い子の思考は良く分からんな。
「あ~アルグスタ殿」
「はい?」
気づくとフランクさんが大変申し訳なさそうな感じで僕のことを伺っていた。
「負けを認めるので王女様を許していただけないだろうか?」
「はい?」
彼に促されて視線を向けると、ノイエがまだ王女様を椅子にしていた。
彼女が抵抗して立ち上がろうとするとアホ毛が自動で迎撃して……うむ。エウリンカよ。君が適当に作ったアホ毛は今日も元気です。
「躾って徹底的にしないとダメだと僕は思うわけでして」
「……あれでも一国の王女なんだ」
なるほどなるほど。ならば仕方ない。
「ノイエ~。そのベーコンを食べ終えたら退いてあげなさい」
「もきゅ」
半分ほどベーコンを食べていたノイエが可愛らしく『もきゅ』ってくれた。
© 2025 甲斐八雲
ユリア あの事を言ったらわたしは男性の前で恥ずかしい姿を…どうすれば恥ずかしい思いをしないで
済むの? ちゃんとお手入れをして奇麗に座れば良いのかしら? 普段から気を付けないと。気を付けないと。気を付けないと。
メイド ミネルバさま。またユリアが下着をはかないであちらで座り込んでいますが?
ミネルバ (理解できず黙って壁を殴りだす)
コロネ どっちかな? もしご主人さまが求めてきたときにカボチャパンツは…ならこっち? こっちのセクシー系? でもほとんどヒモだし…どっちがせいかいなの?
たまにはあとがきで遊びましたw




