また妹を増やすの?
大陸北西部・ユーファミラ王国の街
街に着いた。名は無いらしい。しいて言うと最前線の街だとか。
何故街に名前が無いのかは簡単な理由だった。
何かあると直ぐに無くなるので都度名前を付けるのが面倒らしい。そう考えると最前線である。
城壁には焼かれたような跡とか何かで抉られたような跡がある。それらを見つめた悪魔が『この手の傷跡って残したくなるのよね~』と呟いていた。
理由は格好良いからだ。何となく分かってしまった僕も悪魔の領域の住人なのだろうか?
ただ最前線なだけに入国というかその手の手続きとか面倒なのかとも思ったが、街の前でテレサさんが魔剣を掲げてピカッとしたら門が開いた。
これが出来るのは魔剣に認められた人物、つまりテレサさんのみだ。そして中に入れば同伴しているフランクさんの存在が大きい。あっという間に僕らは『国賓』として迎え入れられた。
代表はドラグナイト家の当主である僕、アルグスタ・フォン・ドラグナイト。妻でユニバンス王国のドラゴンスレイヤーであるノイエ・フォン・ドラグナイト。
ただノイエは自分のフルネームを言えなかった。忘れていた。もう完璧にスコンとね。
で、もう1人がノイエの義理の妹である“コロネ”だ。
フルネーム? この子はノイエの妹ですよ? そっくりでしょう? 髪とか瞳の色とか?
強引に誤魔化した。コロネに我が家の家名を名乗らせるのは何か嫌だ。その正体はお尻っ子だしね。
ただそんなお尻っ子はこの度の旅で色々と反抗期を披露したため現在猿轡を噛ませて上半身蓑虫状態であります。全く……兄に逆らいゴボウしばき合い対決を挑むなど千年早い。
返り討ちにして塩もみキュウリが大豊作の刑を再び実行してやった。
おかげでシクシクと泣きながら縛られた状態で尻を振っている。
どこでも発情して、なんて淫らな妹かと思うわけです。
「そんな訳でポーラ」
「はい」
“メイド”のポーラが恭しく頭を下げた。
「この馬鹿がまた変なことを口走ったら今度は塩もみナスで大豊作してやれ」
「それは長ナスですか? 京ナスですか?」
悩むところである。ただ京ナスってあれで大豊作したら人生終わらないか?
「でしたら水ナスですね。畏まりました」
「うむ。任せた」
ところで水ナスってどんなナスだっけ? 京ナスぐらい丸っこくってちょっと長さがあるの? それって京ナス以上にコロネのお尻に終止符を打つ凶器なのでは?
何故か笑いながらウチのメイドはコロネの目の前に丸いナスを取り出して置いた。
あれは京ナスだ。京ナスだよね? 水ナスってそれよりも凶悪なの?
どうやらそうらしい。そしてエプロンの裏からわざわざ取り出す必要はない。京ナスを見たコロネが真っ青な顔してこちらに全面降伏を示している。
分かる。あれは無理だな。前でも後ろでも入れたら死ぬ。
ただ子供の頭ってあれぐらいの大きさとかあるのかな? つまりセシリーンはあれを産んだと?
世のお母さま方へ。大変ありがとうございます。
痛い思いをして生んでくれてありがとうございます。
「アルグスタ殿」
「ほい?」
入国に関しての手続きはスムーズに進んでいたはずだった。
けれど何故か街に居る守備兵の人たちと話していたフランクさんがこっちに飛んできた。
「済まない。このままこの街は通過することになる」
「……別に良いけど?」
そもそも結構な強行軍でこの街に来たのでそれが延長されることぐらい問題はない。
はい?
クイクイと妹さんでは無くてメイドが僕の裾を引っ張ってきた。
「兄さま。普通立ち寄った街で1泊が常識」
「そうなの?」
「まあわたしたちの場合立ち寄った街で1戦が普通だけど」
確かに。だから立ち寄ってしっかり休むことの方が圧倒的に少ないから印象が無いのだよ。
「このまま通過する理由は?」
「あ~」
困った様子でフランクさんが頭を掻く。
「ウチの国王陛下がアルグスタ殿たちを出迎えるためにこっちに向かっている」
「……なるほど」
つまり国王陛下が出張ってきているから急いで合流したいと? 違うの? 止まるようなタイプじゃないので急いで向かわないと最前線まで来てしまう? あ~我慢のできないタイプなのね? 違うの? 異国から来た美人を見たくて暴走している?
「なるほどなるほど」
一歩間違えたらどうやら血の雨が降る案件だったようだな?
「つまり適度な平原でその国王とやらを迎え撃ってやってしまえと言うことか?」
「言ってない。言ってない」
そんな否定しなくても良いんだよ?
「まあ陛下はそれを理由に……その~あれだ」
チラチラとフランクさんがテレサさんに視線を向けている。
彼女は今、ニクが持つビスケットを奪おうとして前後左右に手を伸ばしている。
完全にペットに弄ばれている構図であるが……何故だろう? 普通ペットが主人にあれをされるのではないか? 完全に逆だよね?
「陛下はあれを実の娘のように可愛がっているからな」
「あ~」
納得した。
つまり自分エロ国王なんでひと目ノイエが見たいんです。という名目で城を飛び出し、手頃なテレサさんを手懐けようとしていると?
「人聞きの悪い言葉だが、まあ陛下の場合はその気があるな」
「末は側室?」
「させんがな」
何故かフランクさんが今までで一番のやる気を見せている。まるで悪い男に掴まった娘を守る父親の雰囲気だ。
うむ。ユーファミラ王国って僕が思っている以上に平和なのかもしれない。
「まあ陛下が飛び出した以上王妃様と姫様も追いかけているはずだ。上手くいけば途中であの2人に掴まっているだろうが、逃げられているとそれはそれで面倒臭い。だからできればこのまま進んで陛下をこちらで捕縛して王妃様に引き渡した方が色々と助かる」
「まあそんな理由があるのなら」
僕としてはこのままスルーでも構わないし、ぶっちゃけノイエの食料を少しでも補充できれば問題ない。
ただこちらの肉は基本燻製肉らしい。それはそれで美味しいのだが、干し肉とかを飲むように食べ出すノイエとか見ててちょっと怖いんだよね。
「ベーコンとかを仕入れてくれたら嬉しいかな?」
「大丈夫だ。その交渉で時間を食っているがどうにかする」
つまりそっちの交渉で時間がかかっているので僕らは現在待ちの状態なのですか?
「ポーラくん」
「はい」
コロネの目の前に置いた京ナスを転がしていた悪魔がその声に反応する。
シュッと悪魔が素早い動きでこっちに来た。
「ドラグナイト流の交渉術で必要なモノを仕入れてきなさい」
「畏まりました」
頷きフランクさんから交渉を引き継いでいた部下の元へ悪魔が向かう。
行ってエプロンの裏から小袋を取り出し、交渉相手の掌に金貨を置き始めた。
買収ではありません。あれは決して買収ではありません。こちらからのせめてもの誠意です。
ニコリと笑って何枚か相手の掌に金貨を置いた悪魔が握手を交わして戻ってきた。
「終わりました」
「うむ。ご苦労」
「……」
ただフランクさんが顔に手を当てて上を向いている。
だからあれは買収ではありません。円滑に会話を進めるためにすっ飛ばした飲みにケーションの代金を先払いしただけです。こちらからの誠意です。
「何も見てない。見てないが、」
ガクッと彼は肩を落とした。
「俺もあれをしていたと思われて後で調査を受けそうだな」
「あはは」
それは仕方がないことです。
文官も武官も清廉潔白な人なんて基本居ないのです。誰しも叩けば埃が出るモノです。
「気にしない気にしない」
「やった人間がそれを言うのか?」
「だからあくまで誠意です」
あれは悪魔による誠意です。
フランクさんの部下たちが運ばれてきた荷物を、こちらを見て『どうしましょう?』と目配せしてくる。そのままゴーレムが背負っているカゴの中に入れて貰えますか?
それも簡単な魔道具になってて容量は五倍ほど大きくなってますから。そうでなければ常に尻の終わったメイドを入れておけません。違った。今のあれは尻の終わった義理の妹である。
「尻が終わってなかったらコロネを妹として引き取るのもありだったかもなんだけどな~」
「あら兄さま? また妹を増やすの?」
僕の呟きにメイドが反応した。
「あれって一応祝福持ちだしね。性能的には優れてるのよ? 世間一般的な認識だと」
「あはは。そうね」
確かにと言いたげに悪魔が笑う。
「でもあの子はメイドのままで良いわよ」
「その心は?」
「だってわたしが兄さまと姉さまの『妹』の地位を独占したいから」
無い胸を張って悪魔がそんなことを言うのです。
「あっそう」
まあそう言うなら今のままでも良いのかな。
© 2025 甲斐八雲
ユーファミラ王国の王様が現在向かってきています。
そしてコロネが妹になるルートは悪魔の一声で潰えましたw




