ゴボウで人を殴ってはいけません!
大陸北西部・ユーファミラ王国内
気づけば無事にユーファミラ王国に入国していた。
入国しているのにどうしてそんなに曖昧なのか? 理由は国境と言っても線が引かれているわけではなく、また関所も存在していなかったからだ。
でも僕らが現在移動しているのはユーファミラ王国内である。
何故ならフランクさんがそう言っているから間違いない。ついでに彼が言うにはもう半日も進むと国境沿いに存在する都市にたどり着くとか。
だからどうして国境近くにその都市を置かないのかってツッコミもありそうだが、普通最前線に街なんて作らない。作るのは砦か要塞だ。戦場から離れた場所に街を作らないと何かある度に戦渦に巻き込まれてしまう。納得の説明であった。
「ニク。重い」
「?」
僕の声に腹の上に乗っているニクが首を傾げる。
ウチのペットは良く気配を消して行動しているが、こんな感じに平和だと姿を現してのんびりしている。ただ本日の休憩場所が僕の腹の上なだけだ。そして現在の僕はゴーレムの頭の上で横になっている。
さっきまで座っていたのだけどバランスを崩して横になった。
地面に落ちなかったのは彼が背負っているカゴのおかげだろう。
カゴと言うとニクも背負っている。ただこちらはボストンバック風の鞄をランドセルのような感じでだ。コイツのことだから木の実でも保管しているのかと思ったら、どうやら2個の宝珠と撮影道具一式がしまわれているのだとか。
ぶっちゃけ国宝級を飛び越えて神器レベルの逸品らしいが、ユニバンスのメイドさんならエプロンの裏にそれぐらい仕舞えるので僕は全然驚かない。
立ち聞きしていたフランクさんが何も言えない表情を浮かべ、『わたしにもできますか?』と言い出したテレサさんが悪魔の手により股の間に箒の柄をグリグリされてマジ泣きしていたぐらいだな。
グリグリの向こう側にメイド道の真髄があるとかなんとか。たぶん嘘だ。
「ん」
不意にお腹の上のニクが消えた。
どうやらノイエが掴んでゴーレムが背負っているカゴの中に落としたらしい。
中からコロネの『リスのお尻がかおにっ!』というクレームが聞こえてきたが気のせいだ。
「アルグ様」
「はい」
のんびりした感じで歩いているノイエが僕の顔を覗き込んできた。
「次は勝てる」
「……」
「大丈夫」
変にやる気を見せているお嫁さんがとても怖いです。
一昨日ノイエは悪魔に負けたそうだ。ただ僕はその結果を知らないし、どんな競技が行われたのかも知らない。だがノイエは悪魔に圧倒的大差で負けたそうだ。
軽く仮死っていた僕が目覚めたら、超ご機嫌斜めなノイエのアホ毛がペシペシと僕のことを叩いて来た。それぐらいノイエは負けたことにお怒りだった。
それよりも軽く仮死っていた僕の身を案じて欲しい。今だってノイエの加護があるのに足腰がガクガクで立って歩くことができないのである。だからゴーレムの頭の上に座っている。
「ノイエ? 本当に何したの?」
「……」
彼女は後ろ手に手を組みながらのんびりとした感じで僕を見る。
無表情だがなんて愛らしい仕草なのだろうか? 神だ。ここに女神が居る。
「指でグリッとして擦る?」
「……」
何処で何をグリッとした感じですか? そして何を擦ったのでしょうか?
「アルグ様が悪い」
この件で僕の何処が悪いのでしょうか?
しかしノイエのアホ毛が伸びて来てまた僕の頭をペシペシする。
「次は我慢して」
何をでしょうか?
「遠くに飛ばすのもダメ」
だから何をでしょうか?
「急にされると受け止められない」
僕は貴女たちに何をされたのでしょうか?
知ってる。前立腺をあれしてこれしたら凄いことになったって知ってる。
でも認めたくない! ウチのお嫁さんはそんなことをするエッチな子ではありません!
「だから今夜も頑張る」
エッチな子でした!
「お腹空いてるの?」
「はい」
コクンと僕の言葉にノイエが頷く。
食欲の方の空腹ではない。それだったらコロネと一緒にカゴの中に入っている残り少ない腸詰を完全制覇するはずだからだ。ちなみにコロネは現在自力歩行ができない。
同志を求めた僕の八つ当たり……勧誘の結果、お尻に塩もみキュウリが大豊作したのだ。
ただこのチビは前回使用した軟膏の残りを持参していたらしく今はそれを塗って誤魔化している。
「アルグスタ様」
ん?
声に反応して視線を動かすと、バインバインという効果音が正しくない動きを見せる魔を動かすテレサさんが駆けてきた。軟乳なんだけど……まだ若いから誤魔化しが効いている感じだな。
あと数年で重力に負けそうな気がする。その前に減量して適正体重にしてももう遅いか?
「もう少ししたら高台の頂上に差し掛かるのでそこからなら目的地の街が見えますよ」
「へ~」
適当な感じで返事をする。ぶっちゃけ興味はない。だけど相手は『ここからの景色が奇麗なんです』とお国自慢をしているので失礼にならない程度で頷くのが優しさだろう。
「でも普通標高の低い場所に街とか作ると攻められた時に守れなくない?」
「あ~」
僕の真面目なツッコミにテレサさんの目が泳ぐ。
彼女は近くもなく遠くもない場所を進むフランクさんに救いを求めた。
「守るなら高所が良いが、水の問題が生じるからな」
「納得」
確か『泣いて馬謖の首ちょんぱ』の原因になったのがそれだっけ?
「包囲されて水を得られず全滅する的な?」
「主にそれだな」
「でも魔法があるなら水を作れば?」
「それだって限りはある」
魔法使いが頑張って作れる水の量はたかが知れている。それにユーファミラ王国はその手の魔法使いの数が圧倒的に少ないらしい。
「魔法大国なら魔道具なんかで水が湧き出るモノとか作って高所に陣を張れるのだろうがな」
つまり馬謖君は魔法使いを集められなかったから首が飛んだのだね?
「ユニバンスにはその手の魔道具がたくさんありそうだが?」
「水ですか」
落ち着いて考えてみる。水を生み出す魔道具ですか?
「そんな大掛かりの物は無いですね」
「そうか」
「お湯を大量に作り出す魔道具でしたらありますけど」
「……」
フランクさんが何故か泣きそうな顔をして僕から離れて行った。
何故だ? 水が無ければお湯を飲めばいいのだよ?
まあウチの王城内の大浴場に設置されていますけどね。
「あれですよね? 騎士団の大浴場とかに置かれたヤツですよね?」
代わりに何故かテレサさんのテンションが上がった。
「あれは水をお湯にする魔道具だね」
それで良ければウチにもあります。何気にセシリーンがお風呂好きで、のんびり入浴しているあの姿に人妻の色香を感じて大興奮します。
ノイエのアホ毛が伸びて来て、僕の股間をコンコンとノックした。
大丈夫。それぐらいで硬化を増すほ今の僕は中坊のような元気さを持ち余していませんので! 賢者タイム継続中ですので!
「王城に置かれているんだけど……そう考えると籠城した時の飲み水確保のためとかっていう理由がありそうだね」
無駄に高価な物を置いてるな~と思っていたけど、それがそこに置かれる理由って存在する訳だね。
「いいな~。ユニバンスのお風呂、本当に良かったな~」
そう呟きながらテレサさんはまた歩いて行く。一応彼女は警備の1人だからそれが正しい。
あれ? まだノイエの塩って残ってたよね? ついキュウリを塩もみする時に使っちゃったけど……これこれコロネくん? カゴから這い出てきたと思ったら何故尻を押さえて泣きそうな顔で僕を見る?
大丈夫。君の義腕はちゃんとポーラが修理しに行ってるからね? 違うの? 尻への恨みは忘れない? あはは……今度は塩もみ大根で大豊作してやろうか?
うんうん。メイドたるもの従順な犬のようにご主人様に尻尾を振るスタイルの人が1人ぐらい居た方が喜ばれると僕は思うぞ?
だからって尻を振るな。違う。痛痒いの?
その歳でお尻遊びを覚えると人生の終着駅だとお兄さんは君の未来を案ずるのです。
うわ~。怒るなって! ゴボウはダメっ! ゴボウは僕らの世界だと打撃武器指定されているのです!
怒れるコロネの相手をしていたそれに気づいた。というか視界の隅に入ってきた。
箒に跨り悪魔がこちらへと降りて来る。
常々思う。
あれってお尻とか痛くならないのかね? 今のコロネがしたら痛みで悶絶するか、刺激で悶絶するだろうな。どっちにしろ人として終わっているな。
だから怒るな! ゴボウで人を殴ってはいけません!
© 2025 甲斐八雲
ゴボウしばき合い対決…とかはもうコンプラ的に無理なんだろうなw
ネットとかでやってくれないかな?
有料でも良い。R指定が入ってても良い。作者は見たいのです!
飛距離と尻の話だったので、最後はゴボウでまとめてみました




