僕に策あり
大陸北西部・ミールトア公国中央街道
「停まれっ! 停止だっ! 聞こえないのかっ!」
聞こえてはいます。ただに荷車を牽くゴーレムは急には止まれません。
何故ならば彼は未来の猫型ロボットだからです!
「と~ま~れ~!」
両腕を大きく振って停止を命じていた男性が寸前で横に飛んで回避した。
実に素晴らしい動きだ。このままスカウトしてハリウッドに連れて行きたい。
「ぼくドラ〇もん」
あっようやくゴーレムが停止してくれた。
「これこれゴーレムよ。もう少しで事故るところだったぞ?」
「ぼくドラ〇もん」
「そうかなら仕方ない。そんな訳でゴーレムも謝っていますし通過しても良いでしょうか?」
「良いわけあるかっ!」
街道沿いの枯れた雑草に飛び込んだ男性が大激怒している。
何故だ? ゴーレムはこうして謝っておろう?
「そうか。声が小さかった?」
「音量の問題ではないっ!」
立ち上がった彼がズカズカと歩いて来た。
「何だそれはっ!」
それですか? ウチの可愛い猫型ロボットのことですか?
「こっちは飼い葉に困ると聞いたので荷運び用のゴーレムです」
「ぼくドラ〇もん」
実に素晴らしい相打ちである。
ただ問題はこのゴーレムは製作者の強いこだわりがあってその発声が『大山ドラ〇もん』である。
ウチの実母年代にはストライクかもしれないが、僕らの年代だと若干違和感を覚える喋り方だ。
「今度家族会議を開催するから覚悟しなさいって御前が」
マジで?
突如として流ちょうに語るゴーレムにギョッとした男性が、怖いモノを見たかのようにゴーレムから離れた。
「まあ荷物を運ぶことしかできない石のゴーレムです」
「……その様だな」
怯えつつも彼は認めてくれた。
「ぼくドラ〇もん」
「ゴーレムも『自分、荷物しか運べない』と言っています」
「う、うむ」
そんな訳で通っても良いですか? 良いですよね?
「否、これの安全性が……安全なのかは少し疑問があるが」
なに? 受け流さないだと?
咳払いをして彼はゴーレムが牽いている荷車に目を向けた。
「荷物は?」
「え~。言わないとダメですか?」
「当たり前であろうっ!」
何故か怒られた。どうしてだろうドラ〇もん?
こんな時にゴーレムは反応しない。というか段々と声を出すのが辛そうになっていたから慣れないモノマネが辛くなっているのかもしれない。こういう時にエプロンからモノマネ用の魔道具を取り出さない悪魔さんである。
詰めが甘いのだよ君は? それとも自分のモノマネで押し通せると信じていたのか?
怒れる彼の声に反応してゾロゾロと武装した兵士さんたちがこちらへ。
うむ。悪目立ちしてしまったな。何故だ?
「このに馬車の荷はなんだ?」
「あれです。一部のマニアックな人が喜ぶ商品です」
「何を言っている?」
間違っていませんよ?
「荷を改める」
僕との会話ではらちが明かないとばかりに彼は集まった兵士さんたちに命じた。
荷車を覆う布製のシートが退けられ……荷物を見た兵士たちが一応にフリーズする。
『あれ? これは……ちょっと待て?』とかそんな感じで顔を見合わせ、無言のままでシートを戻した。
「これはなんだっ!」
集まった兵士たちと男性が話し合い、代表して今まで僕と会話していた彼が何故かお怒りに?
「だから言ったじゃないですか? 一部のモノ好きな人が大興奮する荷物だって」
言いながら今度は僕がシートを捲る。
一般的な広さの荷車の上には半裸の……というかビキニアーマーってそもそも半裸以上に際どくないか? 布の面積狭いし少ないしさ?
まあ良い。そんな養豚場から持ち出したようなプリップリのテレサさんが後ろ手で縛られ鎮座している。もちろん猿轡も忘れない。そして一緒に置かれているのは『痴女です。お好きにどうぞ』と書かれた看板を首からぶら下げたコロネだ。こっちはちゃんとメイド服を脱がせて下着姿である。
「どうです? 好きな人にはたまらないでしょう?」
「「……」」
何故か彼らが全員して顔を見合わせブルブルと震えだした。
「公国では奴隷の販売は重罪だっ!」
「否! 断じて否!」
この僕をただの奴隷商と思っているのかこの愚か者たちめがっ!
「これは一部の有志が集まり自分たちの自慢の一品を持ち寄り優劣を決める素晴らしい行為だっ! 売買などしない!」
「ならこの娘たちはどうしたっ! どのようにして連れてきたっ!」
「決まっている! 落ちてたから拾いましたが何か?」
「落ちているものか~!」
絶叫して相手が怒るのです。
おかしいな? 良く落ちていますけどね?
「あっそっちのふっくらは餌に釣られて向こうから来ました」
「む~!」
何故かテレサさんからのクレームが? でも事実でしょう?
『ちょっと相手の意表を突きたいから手伝って。ここの焼き菓子を箱であげるから』と言ったら内容も確認しないで頷いたくせに。
「そっちのチビはあれです。色々あり過ぎまして……」
自然と僕の視線が遠く流れる。
そうだ。気づけばお馬鹿なキャラだったコロネさんもきっと自分で色々とキャラ立ちを模索したのだろう。
「お尻への刺激に喜びを感じるように成長しました」
「もっが~!」
テレサさん以上にコロネからのクレームが凄い凄い。
「そんな訳で荷物を見せましたから通過しても良いですか?」
こんな恥ずかしいモノを見せてしまったんですから良いですよね?
「良いわけあるかっ!」
「何故っ!」
「驚くお前にこっちが驚くわ!」
まさかの正統派ツッコミだと?
「でも~」
「でもも何もない! お前たち早くコイツを捕縛しろ!」
彼の命令に誰も動かない。
不審に思い自身の背後を確認した彼が見たのは、フランクさんたちの働きで無力化された兵士たちだ。
「なにっ! 何が、」
ガツッと一撃を食らった彼が卒倒して倒れる。
意外とあの一撃を入れて気絶させるのって難しいらしい。現にフランクさんの部下は鞘ごと剣で全力で殴り飛ばしているしね。
「で、ここからどうする?」
いつものように疲れ顔でフランクさんが声をかけてきた。
兵士たちを無力化したが多分これは序盤である。このまま進めばまた検問があるのは確定だ。
「ノイエ~」
「ん」
返事をした彼女がゴーレムの頭の上で姿を見せる。悪魔が持つ光学迷彩の魔道具で姿を消していただけだ。
ついでにノイエの足元で座っていた悪魔の姿も見えるようになった。
「やっぱり嫌な感じはあっち?」
「はい」
僕らが向かう進行方向を指さすとノイエがコクンと頷いた。確定らしい。
「ならこんな場所で検問を張るなと言いたい」
「あ~。多分あれだろうな」
ここは経験豊富なユーファミラ王国の近衛団長様が口を開いた。
「自軍の真ん中で敵に暴れられることを嫌がったのだろうな」
「そうなの?」
「ああ」
何でもここから先は丁度街道の合流地点なのだとか。
その為引き込んで暴れられると面倒だから先に検問を張ってこうして敵の存在を明るみにしているのだろうというのが彼の主張だ。
「なるほど」
それが分かれば作戦も立てやすいよね?
「そこの養豚場から引き取って来たテレサさんがピカッとしてドカンすれば良いわけ?」
「もが~!」
先ほどのコロネ以上のクレームが聞こえてきたがスルーである。
というか君たち? こんな寒空の下でそんな姿をして足ら風邪ひくよ?
「「もっが~!」」
2人揃って本日最大級のクレームが聞こえてきたがやっぱりスルーする。
「で、この養豚が使えない理由は?」
「あ~なんだ。まあ言いたいことは分かるが年頃の女性に豚は言いすぎじゃないか?」
保護者のフランクさんが優しいのである。
「そう言って甘やかすからこの豚は豚街道を驀進して豚らしい豚になるのです」
「ぶた~!」
何故かテレサさんのクレームが『ぶた』と聞こえたのは気のせいだ。
「まあそれは帰国してからあれするとしてだな……」
頭を掻いたフランクさんが色々と切り替えた。
「ここでテレサが魔剣を使うと間違いなく戦争になる」
「はい?」
戦争ですか?
「ああ。公国は『辺境国のドラゴンスレイヤーが自国内で戦闘行為を働き自国兵を傷つけた』と言って国境沿いの兵士に攻撃命令を出す可能性が高い」
何て面倒な。展開としては悪くは無いんだけど。
「と言うか今まで公国内で暴れてましたけど?」
「それはまだ言い訳が成り立つ。ただここは場所が悪い」
とにかく公国兵がたくさん居るここでのピカッとからのドカンはダメらしい。
「ふむ。なら方法を変えましょう」
「何かあるのか?」
ほい。
「つまり街道上で通せん坊をしている公国兵を蹴散らせば良いんでしょう?」
「ああ。だが」
大丈夫です。僕のプランは完璧さ!
「良く分からない何かが大暴れすれば良いんでしょう?」
ならば僕に策ありである。
© 2025 甲斐八雲
はい。主人公が久しぶりにあれを使います。
問題はノイエが警戒しているというのに…本当に大丈夫ですか? 向こうには間違いなく“あれ”が居ますよ?
そんな訳で公国最強とのバトルフラグが




