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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 29

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2319/2360

その思想の先にあるのは魔王よ

 大陸北西部・ミールトア公国街道



 パチリと脇に抱えている悪魔が指を鳴らす。


 僕らの会話が外に漏れないように手配したのだ。もちろん幻術で普通に妹をお仕置きする兄の様子が見えるそうだ……それはそれで大丈夫か?

 まあ良い。それよりもだ。結構前からずっと泳がせてきたがそろそろツッコミを入れてやろうか?


「それって某大佐のマネ?」

「イエスっ!」

「あっそう」


 ヤバい。オタクに燃料を投入したか? 異様に元気になったぞ?


「わたしがこっちの世界に来てから一生懸命研究したのは魔法では無くてあの錬金術だったのよ。『それって基本、等価交換じゃなくない?』と周りからツッコミを受けることになっても発動させると誓い一生懸命に!」

「あ~はいはい」

「そして大半の錬金術を実行したわ」

「したんだ」

「うん」


 何故に今脱力した? 尻を叩かれる前に白状しなさい。


「あはは~。人間調子に乗っちゃダメよね?」

「まあね」


 異世界から来た人は原則自重を求められるものです。


「犯罪者……特に殺人を犯した罪人だからってわたしは調子に乗ってしまったのよ」

「つまり?」

「キメラの実験をした」

「……」


 何となく知っている。というか分かっているという方が正しいのかな?


「首を刎ねるくらいなら後世の役に立つ実験の材料にと……わたしは自分の可能性と好奇心を抑えられなかったのよ」

「それで?」

「色々としたわよ。本当に色々とね」


 だらりと四肢を伸ばし悪魔が脱力している。


「今なら罪悪感とか半端ないわよ。きっともうあんな実験はできないと思う。でも最初の頃はやってしまったの……分かる? あれはとても危険なの。人の心を狂わせる麻薬なのよ」

「ふ~ん」


 相槌を打ちながら僕は悪魔の尻を撫で回す。


「結構真面目に聞いて欲しいんだけど?」

「知ってる」

「兄さま?」

「でも無理じゃないかな~」


 知った所でたぶん止まらないよ?


「お前が今言ったろう? それはとても危ない麻薬なんだって」

「だから、」

「だからその中毒から抜け出せたお前は危なさを知っている。でも危なさを知らない好奇心の塊は……まあ先生なら性格的にブレーキを踏むだろうけど、あのホライゾン馬鹿はアクセルを踏む」

「でも」

「分かってる。でもあの馬鹿は間違いなくアクセルを踏むんだよ」


 相手の言いたいことは分かっている。

 たぶん経験則から現在あのホライゾン馬鹿が考えているであろう魔法を恐れているのだ。


「悪魔よ」

「なに?」

「時に僕は思うわけです。偉大なる中毒者はその経験を今後のために若者に伝える必要があるのではないかと」


 その昔、交通事故を起こした人の手記を授業の一環で学んだことがある。


『自分がどうして事故を起こしてしまったのか?』とか『そのあと自分を含め周りの環境がどう変化したのか?』とか『刑に服してどんな生活を送っているのか』とか、たぶんそんな感じのモノだ。


「まあぶっちゃけ真面目ではない僕としてはその手の話は右から左です」


 半分寝ながら話を聞いていて、最後の最後で5分程度で今学んだことの感想文を書くようにと言われた瞬間の冷や汗ばかりが印象に残っています。


「それってわたしがあの王女に経験談を語る意味を全否定してない?」


 してる。


 まあ少なくともあれはやらかした経験があるから多少は聞くだろうけどね。


「僕は真面目に聞かなかった。何故なら僕はその時失敗していないからね。だから『はいはい。普段から真面目に運転してれば事故なんて起きません。起こしません』としか思わないわけです」


 たぶんあの授業を受けていた大半がそれだろう。


「でも一度でも事故を起こした人は多分違う。自分にも経験があるからそれを聞く。それをちゃんと聞いて学べる人は次に大きな事故を起こさないと思う」

「ならあの王女に失敗させろと?」

「違うね。成功させれば良いんです」

「はい?」


 間の抜けた声を悪魔があげる。君は馬鹿かね?


「君が最初に言ったでしょう? 後世のためになる実験をってね。スタートは間違っていても後にそれを改良して良いモノにすれば良い」

「命を奪い魂を回収する魔法を?」

「苦痛なく自分のタイミングで安楽死できる魔法とかあったら、地球でも喜ぶ人は居るでしょう?」


 どこかの国で安楽死を認めている国があるとかテレビニュースで見ました。


「僕は結構間抜けな原因で死んじゃったけど、でも母さんは日々瘦せ細って結構苦しみながら死んだからね。誰にも迷惑をかけて死にたいと思う人は居るんじゃないの?」

「知ってる? 道徳観って言葉?」

「あはは。道徳の授業を子供から奪ったのは、偉い大人たちだと記憶していますが?」

「まあね」


 それで若者に道徳がなっていないとか文句を言うのは間違いなのです。


「何より僕って昔から自殺肯定派だしね」

「はい?」


 あれ? 知らなかった?


「周りに迷惑を掛けないならOKかな?」

「お~。世の宗教家を敵に回しそうな言葉だこと。ここに暴君が居ま~す」

「煩いよ」


 尻を叩いて相手の口を閉じさせた。


「悪魔よ悪魔」

「何でしょう?」


 神をも殺めた君に問おうか?


「どうして自殺ってダメなことだと思う?」


 たぶんどんな世界でもその言葉は聞かれると思う。


「それはあれでしょう? 人は生まれた以上その生を全うしなければいけないって感じでしょう?」

「ふむ」


 なるほど。


「なら近代より前に生きていた人たちは、さぞ不満たらたらで死んだんだろうね」

「……」


 戦争中なんてまさに該当しまくりだろうね。国を守るためと称して国が国民に対し、特攻という手段を用いて『自殺』を強要していたんでしょ?


「何よりその考えって突き詰めると、生まれた以上は老衰で亡くなれってことでしょう? 途中病死したら『与えられた生を十二分に全うしていなかったから病気になった』ってことじゃないの?」

「飛躍しすぎじゃない?」

「そうかな?」


 まあ田舎暮らしが長くて爺さん婆さんたちの昔話ばかり聞いて育ったからね。

 意外とものの考え方が屈折しているのは理解しています。


「僕はどんなに短くとも全力で生きて何かをすればそれで良いと思うわけです。例えそれが理由で処刑されたり切腹したりしてもその人は全力で生きた訳でしょう?」

「まあね」

「だから僕は人の最後は死に方じゃないと思う。その死を迎えるまでにどれほど必死に足掻いたかが重要だと思うんだよね」


 そうでなければ戦時中に国のために戦い亡くなった人たち、特に特攻を強いられた人たちは『自殺』をしたということで某宗教だと地獄落ち確定である。そんなふざけた話は無いと思います。


「聞く相手によっては敵を作りそうな発言よ。兄さま」

「知ってる」


 現に僕は倒れた線香が原因で死んでいるわけです。

 事故死だけど、自分の不注意だからある種の自爆であり自殺とも言えなくもない。


「だから現在の僕は、今の人生は全てロスタイムだと思って必死に足掻こうかと」

「なるほどね」


 暴れる悪魔を地面に下す。


「で、これって何の話をしてたんだっけ?」

「あはは」


 嫌な笑みを浮かべて突っついて来るなって。


「グローディアの魔法作りを止めないで欲しいって話かな?」

「それが非人道的な魔法になる可能性があっても?」

「その時はあれです」


 全部僕が悪いってことで良いです。


「主犯は僕で良いよ。僕がそうなるように仕向けた訳だしね」

「それで良いの?」

「物の見方によっては良くはないのかもしれないけど、でも僕にとって一番大事なのはノイエを守ることだからね」


 彼女がこれ以上心を壊すことの無いようにするのが僕の足掻きです。


「たとえ世界を敵に回したとしても僕はノイエを守ってみせる……どんな手段を使ってもね」

「あはは」


 わざとらしく悪魔が声を出して笑った。


「その思想の先にあるのは魔王よ兄さま?」

「必要であるなら魔の王でも、魔の神にでも僕はなりましょう」


 それでノイエが救えるのであれば僕はこのロスタイムな人生の全てを賭けて挑みましょう。


 僕の反応に悪魔はバリバリと頭を掻いた。


「分かった。分かりました。わたしも魔王の領域に片足どころか両足を突っ込んで腰まで浸かった経験のある女よ。兄さまがそこまで覚悟を決めているなら、この件に関してはもう何も言わない。あの王女様が助言を求めて来るなら求めて来た以上の経験を語ってあげる」


 ゆっくりと顔を上げて悪魔は真っすぐ僕を見つめた。


「ただ一つだけ約束をして。兄さま」

「何でしょう?」


 今一度彼女は小さく息を吐いた。


「悪役になるのは良い。悪を演じているだけだから……でも決して『悪』に染まらないで。それに染まれば演者じゃなくなる。存在そのものが悪になってしまうから」


 どこか泣いてしまいそうな顔で悪魔は僕を見上げて来る。


「分かった。気を付けるけど、」


 でも約束できる事柄じゃない。


「もし僕が悪に染まりそうになったら、お前に背後からハリセンチョップの大役は任せる」

「はい?」


 だからお前に最後のストッパーを任せる。


「その時は遠慮など要らん。全力で僕のことを殴り飛ばして止めてくれ給えよ悪魔くん」

「うわ~。最後にこの糞兄さまが妹にとんでもない役目を丸投げして来たわ~」


 言うな。あくまで最終手段だ。




© 2025 甲斐八雲

 自殺、安楽死、自然死、尊厳死などなど人それぞれ思う部分があると思います。


 数多くの人の死を見てきた作者さん的にはそれらは等しく『死』でしかありません。

 ただ周りに迷惑をかける死に方だけはできるだけ避けて欲しいかな? 結構本心です。


 とある駅で線路に降りたお婆さんが『孫の体がまだ残っているはずなのよ! 全然足らないのよ!』と半狂乱で騒いでいる姿を見た時は流石に何も言えませんでした。


 自分も過去に何度か死のうとしたことがあるので『自殺はダメ』とは言いませんが、周りを不幸にし過ぎる死に方だけは避けて欲しいと願うばかりです。


 ただ自殺だけは衝動的なものなので止めようがないと誰もが言いますが…で、今回って何の話?

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― 新着の感想 ―
更新乙 自殺だろうが他殺だろうが老衰怪我病気 何であれ事切れる直前にやりきったと笑えるなら死因は何でも良いとしてます ただ後始末だけは申し訳ないと思う
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