この国は美人が多過ぎるだろう?
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「護衛ですか?」
「護衛です」
「はぁ」
何となく困った感じでテレサさんが自身の背後に居るフランクさんへと視線を向ける。
ただ彼は基本テレサさんの護衛であって上司として振舞っていない。正式な場所であればちゃんとそれらしく振舞っているが、今回のような場合はテレサさんの自主性に任せている。平民の出である彼女に対しての教育の一環とかだろう。人を育てるのって大変なのね。
よって振り向いて来たテレサさんにフランクさんは何も答えを示さない。
自分で考えろと言わんばかりに正面を見ている感じだ。
「それってお2人のですか?」
「僕ら家族とお付きのメイドって感じですね」
大陸北西部への遠征部隊は僕を含めドラグナイト家である。
ポーラを『連れて行かないで。置いて行って欲しい』という声はよく聞くが、ノイエは1人にしておくと危ない場合が多々ある。特に男子禁制の場所で彼女を1人にするとか……想像するだけで怖い。ポーラの存在は大切です。
何よりあれが黙って留守番とかするタイプではない。『兄さまのバナナはおやつに含まれますね。姉さまの。だからわたしは普通のバナナをおやつにしようと思います』と置手紙があった。
参戦希望で良いはずだが……これほど皮肉の効いた下ネタが存在するとは思わなかった。下ネタではないが、事実である。
「えっと」
本当に困った様子でテレサさんが首を傾げる。
自分の胸に肘を置いて頬杖する人を僕は初めて見ました。これこれクレアさん。絶望の余り膝から崩れて床を叩くではない。チビ姫も黙って壁を殴るな。床さんや壁さんが可哀そうだろう?
「アルグスタ様たちに護衛って必要なんですか?」
「あっはは」
何を言い出すかと思えば貴女は馬鹿ですか? 全ての栄養が胸と脂肪に回っている感じですか?
「僕らの護衛はぶっちゃけ必要としません」
「ですよね?」
「でも僕らが運ぶ荷物には護衛が必要でしょう?」
「あ~」
大きな声を出してポンと彼女は手を叩く。
ボインと揺れた魔乳にクレアとチビ姫が黙って抱き合い涙する。
もう君たちはそろそろその胸への何かを断ち切った方が良いと思うよ? 今度貧乳の王たるグローディアを呼んであげるから、底辺を見ることで自分たちのモチベーションを高めなさい。
それはさておき仕事の話です。
今回僕らはユニバンスで大変なもてなしを受けたテレサさんの勧めでユーファミラ王国へ遊びに行くという形で話を進めている。
外交です。特使です。ついでに何度目かの新婚旅行です。
行った先々でその国が大変な事態に陥りますが仕様です。仕様だから仕方がないのです。
そこで今回は友好の形と言うことで例の塩を荷車一台分ほど運んで行きます。その荷車と僕らの護衛をテレサさんたちにお願いしているのです。
「そもそもお誘いしたのはわたしたちですし護衛はしますけど……お誘いしましたっけ?」
「あっはは」
世の中誘っていなくても誘ったことになる話なんてたくさんあるのですよ。
何より僕らと一緒に移動する荷車の荷である塩は普通の塩である。
事前に西回りでサツキ村の脳筋ヒャッハーな護衛が付いた馬車がユーファミラ王国に向かい走っている。ただそれはあくまで食料を扱う隊商としてではあるが。
小麦などの中に塩が混ざっていても怪しまれない。本当に完璧な薬である。
「僕らはゆっくりとゲートを通過して正規ルートを通ってユーファミラ王国へと向かいます。まあほぼ確実に公国の人たちに襲撃されるでしょうけどね」
「はぁ……しゅうげき?」
頷いたテレサさんがその声に目を剥いた。
「襲撃って何ですかっ!」
「言葉の通りです」
公国が大金を積んで欲している呪いの特効薬を運ぶ荷車が自国のど真ん中を通過するんです。普通に考えて襲うでしょう?
「そして捕まったテレサさんは公国の飢えた野郎共に囲まれて、もうとてもこの場では言葉を伏せるしかないような酷いことをされてしまうのです」
「酷いことっ!」
「もうドロドロのドロドロです」
「ドロドロっ!」
確実に拷問を受けてからの処刑じゃないかな? その過程でドロッドロの展開は薄い本では良くあることです。
印刷技術が今以上に確りしていれば悪魔に描かせるのも悪くは無いんだけど、あれはあれで変なモノを描きそうで怖い。よってこの世界の薄い本は異世界召喚で呼び寄せてしまったモノしか存在しない。
「でもテレサさんたちって公国の近くにあるゲートを通過したんでしょう? どうにかなるのかな?」
「それは、」
「あ~」
何かを話そうとしたテレサさんをフランクさんが遮った。国家機密か?
しかしフランクさんはポリポリと頭を掻いてテレサさんを見る。頭の上から爪先まで視線を上下させ……本当に諦めた感じで口を開いた。
「誰もこんな恥ずかしい格好をしたのがユーファミラのドラゴンスレイヤーだとは思わずにな」
「ああ。そっち」
「恥ずかしいっ!」
顔を真っ赤にしたテレサさんが両腕で自分の体を隠そうとする。
そのわがままボディはそんな2本の腕で隠せません。腕からこぼれた魔乳が大暴れしてあっちでそれを目撃したチビ姫とクレアが自分の胸を押さえて動かなくなった。
圧倒的な戦力差とは戦いすら生まないモノなのだね。
「隠してはいるがテレサと言う名前は公国でも知られているが、まさかこんな恥ずかしい格好をした女がそれも1人でゲートを使用するとは思わなかったのだろうな……簡単な手続きでその場を通過してしまってな」
「あ~」
何となく分かってきた。
「もしかしてフランクさんたちは当初そこでテレサさんが身元の確認が始まって騒ぎになると思っていた感じ?」
「まあな」
何気にこの人たちの教育はスパルタ寄りである。
きっとテレサさんにもゲートで自分の名前が知られることで騒ぎが起きることを学ばせ、勝手な行動を慎むように促す予定が……その格好から『あっこの人ヤバい人だ』と思われさっさと許可が出てしまったのだろう。
「それって後で現場の人が職務怠慢で上の人たちから物凄い注意を受ける展開になるんだよね」
「事実その日ゲートに張り付いていた公国の役人は全員姿を消したそうだ」
やっぱりね~。
僕とフランクさんの視線を受けたテレサさんが暴れる魔乳を隠そうとしながらこっちを見て来る。
「でもわたしはちゃんと手続きをして」
「時にはそれがとんでもない大事件や事故に繋がるのです」
少なくともその役人さんたちは粛清という名の処罰を受けているかもしれません。
「それでゲートを通過したこれを慌てて追ってフランクさんたちはこっちに?」
「そう言うことだ」
監視のはずがそのまま護衛となってしまった理由が良く分かった。
「天然って本当に怖いっすね」
「本人は本当に無自覚だからな」
「わたしが全て悪いんですかっ!」
遠回しにそう言っているのです。
「で、事実を知った公国は慌てて『犬』でしたっけ? それを派遣して僕らとの接触を断とうとした」
「怪しんで上に報告した真面目な役人も居たのだろうな」
その真面目さんが仇となりってパターンだけどね。ただ確認は大切なのですよ。本当に。
「この辺まで計算しての行動だったらフランクさんへの警戒を数段上げないと危なく思える僕が居るんですが?」
「おいおい。これでもそれなりの地位を預かってはいる身だ。少しは考える」
「なるほどね」
考えて自国が最も良い展開になる様に模索した結果だと?
「今回はその言葉をその額面で受け取っておきましょう。ですが余りに計算しすぎると、僕らはその計算の斜め上をあっさりと突き進みますのでご注意ください」
「分かった分かった」
彼は両腕を上げて敵意は無いと示してくる。
「何よりあのメイド長の親戚を敵に回すのは俺の本意ではない。先代からも『絶対に敵に回すな』ときつく言われていたからな」
「あっはは」
それは良く分かる。本当にあの叔母さまは恐ろしい女性ですからね。
「ただ死ぬまで『あれほどの美女は居なかった。1回とは言わん。何回でもしたかった』とも言っていたがな」
「あっはは」
本当に命知らずな先代様ですね?
「まあここに来て先代の言葉の意味が良く分かったがな」
「はい?」
言葉の意味? 貴方は何を言ってますか?
「この国は美人が多過ぎるだろう? これが普通なのか?」
フランクさんの問いに僕は答えを持ち合わせていなかった。
© 2025 甲斐八雲
実はユニバンス王国は大陸きっての美人率の高い国です。その理由は?
ヒントは本編でちょいちょい出ていますが…最後にこの場所を住処にしていた三大魔女は誰かってことかな?
問題はこの辺を深く掘り下げるとパンドラな箱がオープンしちゃうんですけどね!




