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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 29

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2312/2360

入れ食い状態ですよね?

 ユニバンス王国・王都王城内国王執務室



「それで、アルグスタよ?」

「何でしょうか?」


 登城すると同時に左右を馬鹿兄貴と叔母さまに挟まれた状態で僕はお兄さまの元へ運ばれてきた。

 昨夜は屋敷の人たちと食べて飲んでと楽しんでいたはずなのに、一夜明けたら罪人のような扱いだ。


 起伏が激しすぎないか? 良いのか? こんな人生で?


「こっちを見ろ」


 馬鹿兄貴から顔を背けていたらグリッと力づくで回された。折れる砕ける頭がもげる。


「何を企んでいる?」

「何のことでしょうか?」


 僕が企んでいると? 何を?


「キシャーラの所からオーガを呼び寄せたのはお前だろう?」

「そんな事実はございません」


 声を大にして言いたい。あれは勝手に来たのである。


 テレサさんと戦ってみたいという理由だけでやって来ました。ただノイエ戦で魔剣に蓄えられていた魔力の大半を吐き出していたキラーは全力を出すことができない。故にあっさりと負けましたけどね?


「呼べよ」

「そっちかよ」

「……」


 何故か隣に居る叔母様まで無言の圧を放ってくる。見たかったのね?


 あれは強制イベントであって誰もあの展開を想像していなかったのです。


「で、どうしてオーガを呼んだ?」

「だから呼んでませんって」


 ただテレサさんの存在を知ったら来るかとは思いましたが。


「まあ隠していても仕方がないので」


 ここで誤魔化し続けても仕方がない。

 はいはい。ちゃんと説明しますからその手を離してくださいな。


 沈黙してこちらを見ている兄さまの前で軽く準備を進める。

 壁にこの世界……大陸の地図を張り付けただけだ。


「では説明を始めます」


 地図の前に立ち僕はまずユニバンスに指を向ける。


「ノイエが言うには最近この地域のドラゴンの数が極端に減っています」

「極端に?」

「はい」


 お兄さまの声に頷き返す。


「去年の今頃と比べると半分以下だそうです」

「……」

「で」


 次はキシャーラのオッサンが支配しているエリアを指さす。


「オーガさんが言うにはこの辺りのドラゴンの数が極端に減っているそうです」

「そちらもか?」


 ですね。故に暇を持て余しているオーガさんは、刺激を求めてこちらに走って来たのです。


「そして叔母さまに頼んで調べて貰いましたが」


 誰だっけ? 名前忘れた。


 あの共和国から流れてきた欲だけ強い人の支配エリアを指さす。


「ここなんてドラゴンがほとんど見られないとか。で、共和国の方も商人から聞く限りドラゴンの数が減っています」


 続けて僕の指が動く。変態女王こと変態女王が支配する神聖国にだ。


「こちらは解き放たれたドラゴンがある程度暴れていましたが今は数が減っているとか」


 おかげであの変態は最近ペットボトル君と会う時間が増えたとか言って喜んでいる。

『どうしたらアルグスタ様のように自然な流れで我が騎士をわたしのベッドに誘うことができるのでしょうか?』とか恥じらいも何も存在しない文章を手紙に綴っている。


 そんなことは知らん。酒の力でも借りてどうにかしろと投げやりに返事をしておいた。


「サツキ村の方もドラゴンの数が減っているそうです」


 この時点で大陸の約半数の地域でドラゴンが減っていることになる。そして今回新しい情報が届いた。

 指を動かし北西部……ユーファミラ王国の辺りを示す。


「フランクさんが言うには確実に去年よりドラゴンの数が減少しているとか」


 告げて僕は改めて陛下を見た。


「情報が得られない旧帝国領と大陸北部もドラゴンが減っている可能性があるとお前は言いたいのか?」

「いいえ」


 陛下の問いに僕は指さす。大陸中央部の旧帝国領だ。


「こちらはマツバさんに頼んでキシャーラのオッサンに探って貰いました。確実に減っているそうです」

「なら」


 陛下は口を閉じた。僕の言いたいことに気づいたのだろう。


「アルグスタ」

「はい叔母さま」


 沈黙した陛下に変わり質問してきたのは叔母さまだ。


 彼女は支配下にあるメイドさんが運んできた椅子に腰かけ地図に目を向けている。


「その地域は商人も足を向けない不毛の土地。故に情報をどうやって得たかわたくしとしては知りたいところです」

「簡単です」


 僕はそっと地図に向けていた指を天井……つまり空へと向ける。


「普段ノイエがどうして上空で待機しているか知っていますか?」

「……上空から獲物を探しているのかと思いました」


 ウチのお嫁さんを旋回する大型の猛禽類か何かかと思っていますか?


 否定はできないです。叔母さま。


「ノイエはああしてドラゴンが湧いている場所を探しているんです。そして彼女ははっきりと断言しました」

「北に居るってか?」


 その通り。


 呆れた感じで言ってくる馬鹿兄貴に肩を竦めて僕は肯定する。


「つまり現在ドラゴンは北に集まっていると?」

「それか北で湧いているかですね」


 その辺のメカニズムは分かりません。

 詳しいであろう悪魔ですら『ごめん。マジで分かんないんだわ』と言い出す始末である。

 ただアイツは基本嘘つきだから、ちゃんと正直に口の動きが滑らかになるような状況で聞き出した。


 ノイエが彼女の脇を掴み発射準備が完了した状態での聴取だ。ノイエが『嘘』と判断したら発射される。それを踏まえて聞いた限りではどうやら本当らしい。

『ほんどうにじらないがらぁ~!』とボロボロ泣きながら言っていたあの様子が演技とは思えなかったしな。


「理由や原因は不明ですが現在ドラゴンは大陸の北で異常に発生していると思われます」

「ふむ」


 陛下が一度考えこんだ。


 ただこの言葉は嘘である。何故なら僕らは原因を知っている。

 大陸の北にはグローディアの馬鹿が呼び出した魔竜が居るのだ。たぶんそれが悪さをしているのだろう。で、最悪なのは大陸の北には『始祖の魔女』も居る。もうこの足し算で絶対に厄介な状況が起きているであろうフラグを世の中から消して欲しい。僕は切にそれを望みます。


「で、丁度良い機会なので最前線まで行ってみようかと」

「「……」」


 僕の言葉に全員がこっちを見た。


「お前、正気か?」


 失敬だな馬鹿兄貴よ?


「行く理由は今なら何でも作れますしね」


 当初は大陸の北西部にコロネの落とし前を付けに殴り込みに行こうツアーだったけど、ユーファミラ王国の有力者であるフランクさんやテレサさんとも仲良くなった。

 つまりこれを理由に遊びに行けばいいのだ。


「問題はユーファミラ王国が西寄りなんですよね」


 地図を見る限り辺境国は大陸の北西部だ。最前線で考えるなら公国の方が都合が良い。


「で、叔母さま」

「何か?」


 静かに僕の話を聞いていた叔母さまが静かに視線を向けて来る。


「正しい公国への喧嘩の売り方などございましたらご教授願いたいのですが?」

「……アルグスタ? 貴方はわたくしを何だと思っていますか?」


 あはは。冗談ですよ?


「あの国は元々腐っていますから行けば喧嘩を売るネタなどに困りませんが」


 それでも教えてくれるのね。


「ですが今の貴方なら恰好な餌があるでしょう?」

「ですか」

「ええ。それをゲート街で噂話として話を流しておけば」

「んんっ!」


 僕と叔母さまがとってもフレンドリーな会話をしていただけなのに陛下が咳払いをしてきた。


 この時期に喉風邪とかすると大変ですよ?


 視線を向ければ陛下は頭を抱え馬鹿兄貴は声を出さずに笑っている。

 弟の図太さを陛下が受け継いでいればこの国は……うん。下手をすると何年後かに破綻するかもしれない。ギャンブル過ぎるな。


「それでアルグスタはユーファミラ王国の使節団と一緒に大陸北西部へ行きたいと?」

「ですね」

「……」


 抱えていた頭を解放した陛下が真っすぐ僕を見つめて来る。


「何を企んでいる?」

「まあ色々と理由はあるんですけどね」


 一番の問題はノイエの“魂の回収”だ。ドラゴンがこのまま北で湧き続け冬眠でもしたら来年の春まで身動きが取れなくなる。つまりノイエは姉たちの魂を消費するリスクを背負い生活することになる。


 ダメだ。あの優しいノイエがそんなリスクを背負い続けているとたぶんパンクする。どんなに僕が頑張ってもその前に僕もパンクする。


「ノイエがドラゴン狩りをしたがっているんですよ」

「「……」」


 僕の言葉に何故か全員が額に手を当てた。


 待って。せめて全てを言い切ってからそのリアクションをして。


「行けば大量のドラゴンが居るんですよ? もう入れ食い状態ですよね?」

「皆まで言うな……この馬鹿者が」


 代表して陛下が至極冷静に叱ってきました。




© 2025 甲斐八雲

 理由は色々ありますが第一希望はやっぱりそれかな?

 きっとノイエがそれを知ったら大喜びでアホ毛をフリフリするでしょう。


 問題は…屋敷の守りをどうするのですか?

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― 新着の感想 ―
更新乙 今だ見ぬ新種のドラゴン狩りツアーの参加者しだいで屋敷の守りが弱くなるのか~ ユニバンスメイド隊をマシマシで固めたら人が相手なら鏖殺だろうけどな~ ノイエ超特急航空便で右側にアルグスタ、左側…
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