ノイエが満足するまでだと?
ユニバンス王国・王都北部ドラグナイト邸
困った事態が発生した。
職人気質の人あるあるとも言えるが、エウリンカが『普通に直すのも面白くない』と言い出した。
これは良くない。何故なら僕の周りにはこの手の人種が多い。だからこそ分かる。この後の展開をだ。
「エウリンカ? 今回は修理するってことでどうでしょう?」
「ん~」
僕の言葉に彼女は腕を組んで首を捻る。
それに釣られてノイエも腕を組んで首を捻った。
「まず確実にね? それから新しいのとかを……どうでしょう?」
「ん~」
必死に商品の売り込みをする商人のように頑張ってみる。
「……面白くないんだよな」
知ってる。貴女たち職人気質の人は必ずそのフレーズを口にするのです。
ですが忘れてはいけない。ノイエのアホ毛が今のままだと問題あるでしょう?
とにかく見た目が悪い。何より触り心地が悪い。そして動きがぎこちなくて、そのせいでノイエの心理状況が伝わってこない。
「封印としての機能は果たしているからね」
「ダメです。見た目は大事です」
「そうか?」
そうです。良いですか?
「エウリンカは美人だから自覚が無いんだろうけど、美人で巨乳で黒い艶やかな髪を持つ貴女は世の男性からしたら羨望の的なのです。それは何故か? 容姿です。その容姿が優れているからこそです。まあ僕は容姿以外の過去や性格や性癖まで把握していますので、その辺の野郎共よりも深く貴女のことを理解していると自負していますが」
「えっあっおぅ」
顔を真っ赤にしたエウリンカが救いを求めるように隣に居るノイエを抱きしめた。
「つまりエウリンカの容姿と同様にノイエのアホ毛も美しくなければいけないのです!」
ここが大切です。たぶんテストに出ます。
何のテストかは僕も知らないけど、必ず出るので暗記してください!
「あっはい」
ノイエを抱きしめたままでエウリンカは頷いた。
「そんな訳で今回は修復という方向で、どうでしょう?」
「……」
抱きしめているノイエを撫でてエウリンカはしばらく考える。
と、妹を離して彼女は立ち上がった。
「分かった」
分かってくれたか!
「見た目と触り心地を重視に機能性に優れた魔剣を作り出せば良いのだな?」
はい?
「ちょっと、」
「方向性が決まれば後は作るだけだ。大丈夫。完璧なモノを作ってみせよう」
「……」
ヤバい方向にエウリンカのスイッチが入ってしまったのか? 悪いのは僕なのか?
セシリーン先生。判定を!
僕の視線に気づいた彼女は黙って首を左右に振った。つまり僕が悪いというのか?
「何故だっ!」
なぜこんな展開になる?
しかし止める間もなくエウリンカは適当に確保してきた鉱物などを手にしてその能力を発動する。
『魔剣工房』と呼ばれる彼女のその姿は本当に奇麗だと思う。
キラキラと輝いていて……決して僕が自分の口が招いた災いに対して涙目になっているからとかでは無い。無いったら無い。そう信じてことの推移を見守るしかない。
「うむ。完璧だな」
「「……」」
仕事を果たしたエウリンカはその大きな胸を張ってふんぞり返っている。
何故かポーラがノイエの直ったアホ毛を撫で回しているが、あれ? 前のノイエはアホ毛に触られると感じ入っていたのに今はそんな素振りを見せない。もしや不感症に?
その様子を僕はコロネと2人で眺めていた。
セシリーンは起きたセシルのオムツを交換していて……オムツ当番コロネくん? セシリーンが持っているオムツの処理は君の仕事だったよね? ノイエのアホ毛に対するツッコミは僕の仕事だから君は自分の仕事であるオムツをどうにかしなさい。
そんな訳でコロネはオムツを持って部屋を出た。
「あ~エウリンカ?」
「何かね」
何処か満足げにキラキラと表情を輝かせたエウリンカの様子がぶっちゃけエロい。
物凄く美味しい料理を口にした感じのエロさだ。思ってて自分でどんな表情かとツッコミを入れたくなるけどそんな感じだ。たぶん頭の中で現実逃避をしているのだろう。
「どうしてああなったの?」
「ん? 不満かね?」
ちょっと『意外だ』と言いたげな感じでエウリンカが僕を見る。
「不満というか何と言うか」
今一度ノイエのアホ毛を見る。
ずっと触っていたポーラが手を離し少し離れて腕を組んで考え込んでいる。多分あれは悪魔の類だろう。
それは良い。それは良いんだけど、
「何故に二股に分かれたのかと?」
「うむ。そんな気分だった」
「おひ」
「冗談だ」
今のその手の冗談は正直笑えません。
「真面目に答えなさい。もし次に嘘を言ったら全裸に剥いてからメイドさんたちを集めてその中で激しく胸を揉んでやる」
「なっ!」
慌てた彼女が顔を真っ赤にして両手で自分の胸をガードする。
「……分かった。真面目に答える」
軽く咳払いをしてエウリンカは改めて口を開いた。
「そもそも自分としては新しい魔剣を作り入れ替える予定だった。でも旦那殿がそれを拒絶した」
拒絶というかリスク回避と言って欲しい。
「でも自分としては新しい魔剣を作りたい。でも前の魔剣を残さないといけない」
何だろう? この若干解釈違いを起こしているような言葉は?
「そこで自分は双剣にすることにした」
「おひ」
ただ自身の成果を語るエウリンカの饒舌な口は止まらない。
「素晴らしいでろう? 見たまえよ旦那殿。この艶やかで滑らかで美しいノイエの魔剣をっ!」
2本に分かれ、触角のようと言っていたノイエのアホ毛がもう本当に触角に見える。
左右の触角がぴょこぴょこと動いていてちょっと可愛い。
「双剣にしたことでその封印能力は今までの倍。そして何よりその機能が素晴らしい!」
「機能?」
ちょっと待て? もしかして前回ノイエのアホ毛が色々とあれ~していったのは?
「あれは自分の魔剣がノイエの魔力に侵食されて変化していっただけだ。だが今回は違う!」
つまりあのような暴走は無いということですか?
「違うのだよ旦那殿!」
もう大変嬉しそうにエウリンカが身振り手振りを加えて口を動かす。
バルンバルンと弾む乳が凄いな~。あはは~。このまま現実逃避したいっす。
「今回は率先してノイエの魔力を吸収するようにした!」
「おひ」
「きっと自分の考えの範囲の外の変化を見せてくれるに違いない」
「……」
マッドだ。僕の目の前にマッドな職人が居る。
知ってた。だってノイエの姉たちで製造業の人たちってば基本マッド気質だもんね。
「ああ! どんな変化を見せてくれるのか楽しみで楽しみで……くうぅ」
何故かエウリンカが自分のお腹を押さえてその場で蹲った。
「大丈夫か?」
「……興奮しすぎた」
顔を上げた彼女はトロンとした表情を向けて来る。良い感じで発情したエロい表情だ。
「できればこの後旦那殿に、」
ゴトッと音がした。
話していたエウリンカが消えて彼女が居た場所に、床の上に宝玉が転がる。
帰ったよ。あんなエロい表情を向けておいて帰ったよ!
「これが据え膳かっ!」
発情したエウリンカを楽しむ機会を失ったよ!
「する?」
「……」
瞬間移動で僕の前にやって来たノイエが後ろ手に腕を組んで自身の胸を強調してくる。
「わたしの胸は小さい?」
小さくはないです。僕からしたら丁度良い大きさです。パーフェクトです。実に素晴らしい逸品です。
「良かった」
言ってノイエが僕に抱き着いてきて頬をスリスリと擦り付けて来る。
うん。本当にノイエが可愛い。
「ただな~」
「なに?」
ノイエのアホ毛がGの触角のように見えて来る。それが何とも残念だ。
「分かれているのは嫌?」
嫌というか生理的にちょっと?
「分かった」
はい?
ノイエが自分のアホ毛に触れると軽く撫でる。
2つに分かれていたアホ毛が合体して元の感じに変化した。
「これで良い?」
「……うん」
「ん」
触ってとばかりにノイエが頭を差し出してくる。
手を伸ばし軽く撫でると……めっちゃ滑らかで滑々なんですけど。
「アルグ様」
「はい?」
アホ毛ごとノイエの頭を撫でていると彼女がその目を光らせた。
「する」
それは質問ではなく確定の言葉だった。
あ~ノイエさん? まだセシリーンとかがですね、裏切るのか歌姫っ!
セシルとノワールを抱えたセシリーンがポーラに先導されて部屋を出て行く。
と、ポーラが足を止めた。
「兄さま。とりあえず色々と調べたいから姉さまが満足するまで頑張って」
言うことを言って立ち去って行く。
ノイエが満足するまでだと? それは僕に死ねと言っているのか?
「良し分かった! やってやんよ!」
ノイエを抱え僕はベッドへ向かった。
今から僕の本気を見せてやるぅ~!
© 2025 甲斐八雲
アホ毛が戻りましたw
そしてエウリンカがまた余計なことをしたので…どうなることやら。
そろそろ北西部への移動とかを考えないとな~




