現実主義者の初任務
「さて、先輩。副団長にどんな命令されましたか?」
私がそう質問すると、引きつっていた顔をさらに引きつらせた。
「何の事だかわかんねーな」
あくまで先輩は、バッくれるつもりだ。
「では、いいです。ヴォイドに聞きますから」
ちらっと隣のヴォイドを見ると、先輩と何やらアイコンタクトをとっている。
てことは、ヴォイドと先輩はやはり知り合いか。
あ!
ヴォイドの賭けって、もしかして今回の件と関係あったりするのかな?
からかうと面白いので、つい調子に乗って「賭けでお金使い切ったの?」とか言ってしまったが、恐らく金使いに関してヴォイドはクリーンだ。
まじめ人間だから、彼。
性格的に賭け事にお金を使うぐらいなら、恐らく何かに投資をしていそうだ。
この国には株の概念がないから、鉱物とか土地とか食物等を投資対象にしているだろう。
賭けなんかよりは、よほど堅実的ではある。
つまり、夜会の時の言い訳通り、ヴォイドの賭けは誰かに一枚かまされた線が大きい。
まぁ、誰かは判らないが。
「あの、レイ?口に全部出てます。確かに俺は土地は持っていますが、トウシってなんですか?」
投資の概念なかったっけ。
そう言えば国王がそんな事言っていたな。
「え?あ、ごめん。投資についてはまた今度。で、関係あるんじゃないのか?ヴォイドが全財産はたいた賭けと今回の件」
「使ったのは小遣い程度です」
そこ、こだわるなぁ。
ヴォイドの金銭感覚が正しい事を祈ろう。
「はいはい。で?関係あるんだろ?」
賭け金が小遣いかどうかはこの際おいておいて、先輩の話との関連性が聞きたい。
ヴォイドを見ると、こくりと頷く。
あれ?
そんなにあっさり?。
「ウソだろ?なんでそこで頷くんだ、お前」
先輩が頭を抱えている。
あらら、やっぱり秘密だったんだ。
「納得がいかないからだ」
ヴォイドが少しムッとして、先輩に答えている。
「納得いかないも何も、お前…」
呆れた様な声音で、先輩はぽつりと呟く。
ヴォイドの不機嫌度が、徐々に下降線をたどっているようだ。
「別にレイを使う必要はない。他の女を使っても問題ないはずだ」
お?本題?
「ああ、俺も反対したよ。別に女の子を使っても問題ないだろうって。女の子の格好は女の子の特権だ!男が女装をするなんて世も末だって思ったさ」
アイオン先輩、反対理由がなんだかおかしいです。
似合っていたら、性別なんてどちらでもいいと私なんかは思うけど、ここ最近。
「だけどな?副団長に、女だと万が一危険な目に遭った時に困るとか言われた時に、俺は納得したよ?やっぱり、俺たちが原因で女の子の髪の毛一本傷ついても、後味悪ぃし。嫌だしさ。お前もそう思うだろ?」
「それは、そうだが」
歯切れの悪い返事だ。
性別知っているヴォイドとしては、複雑なんだろうなぁ。
「だから絶対条件付けただろ?やるなら、女装しても女の子に見えるやつって。それで、副団長も許可してくれたし。で該当しそうな奴物色してたんだけど、いないもんだな女装に耐えうる容姿持った奴ってさ。年増女になりそうな奴ばっかりだ。いよいよ時間が迫ってきて、最悪ヴォイドにしようか?とか、いっそのこと副団長に、とまで思いつめた時にレイを思い出してさ、こいつしかいないって、思ったんだよ」
どこか誇らしげに言う、先輩。
一応ヴォイドも候補にあがっていたんだ。
思わず注視すると、嫌そうな表情と安堵の表情を交互にしていた。
「俺、見る目あるだろ?レイほど女装の似合う、…男はいないって…」
どこか得意げに言った後、項垂れるアイオン先輩。
女装しても、男は男だということに気づいたんだろうか?
少しだけ罪悪感を感じる。
「だが、レイはお…新人だ」
ポツリとこぼすヴォイド。
「ヴォイド、命令は絶対だ。お前も諦めろ」
「だが…」
まだ何か言いそうだったが、それきりヴォイドは黙ってしまった。
「さて、新人君。よろこべ君に初任務だ。事情は聞いていた通り。本当は、副団長からの命令とかそういったものを隠した上で、依頼するつもりだったんだが、ヴォイドのせいでばれてしまった」
そこで先輩は言葉を切り、チラッとヴォイドを見る。
ヴォイドは罰の悪そうな顔を一瞬するが、すぐに表情を元に戻した。
「でだ、君をある人物に引き合わせねばならない。ただその人物に会って、そいつの行動を観察してほしいんだ。そいつに声を掛ける人物。そいつが声を掛けた人物。金回りなんかを探ってほしいんだ。どんな些細なことでもいい。子供に小銭をあげたとかそいう小さなことでも構わないから、報告してくれ」
まぁ、要するに人物相関なんかの観察と、情報の引き出し、金銭の流れなんかを掴めばいいのか。
「了解しました。報告方法は?」
「ヴォイドに直接報告しろ」
「情報が少ないので、探るのに時間かかりそうですが」
相手の個人情報ぐらいは教えておしいが、それは駄目なのかな?
「すまない、これ以上は言えない。ただありのまま報告してくれ」
私は頷いた。
食事を終え、細かい調整をし、一旦お開きになった。
その人物との待ち合わせが、1時間後らしい。
時計を見たら8:00だったので、9:00位か。
それまで好きにしていいという事なので、一旦自室に戻る事にした。
「ヴォイド、何も言うなよ?危険が及ぶかもしれない」
去り際、先輩がヴォイドに耳打ちするのを聞いてしまった。
危険なんだ。
そうなんだ。
副団長は、女の私に危険な事やらせるつもりなんだ。
ふーん、へー、後で給料の交渉してやる。
危険手当くらい付けてもらっていいよね。




