現実主義者はハイピッチ
国王と話していると、やはり国政に携わるだけあるのか、地球の政治や経済の話に興味を示す。
すると話題は、おのずとそっち寄りになってくる。
その手の専門はやはり隣の男なので、、もっぱら宗谷英規に話を振っていった。
てっきり、宗谷英規の独壇場だろうと思って聞いていたら、出るわ出るわ経済用語。
あまりにも専門用語を連発するので、聞きかねてその度に国王に噛み砕いて説明するはめになった。
専門家が隣にいるのに、なんで私が説明しているんだ。
私は通訳か。
それともワザとなんだろうか?
やっとお酒が飲めて上機嫌だったのに、またもやお預け状態。
とほほ。
「なるほどなぁ、シホン主義か。今の体制のままで移行するのには、まだまだ問題が山積みだな。ああ、また小難しい話になってしまった。それはそうと」
国王が急に話題転換しようとする。
そしてこちらをじっと見つめた。
ん?
何だ?急に。
「えーと、陛下どうされましたか?」
「あ、いや、ルイに少し聞きたい事があるんだが」
何やら言いにくそうに、そわそわし出した。
「はい、何でしょう?」
なかなか言い出さないので、こちらから促す。
「率直に聞く」
と国王がいうので、私は頷いた。
「君は、男なのか?」
もう、これくらいでは感情を出さない。
流石に私も学習するさ。
今回も、もしかしてこの質問されるかもしれないと、きちんと予測を立てていました。
結構がんばったのに。とか、やっぱりファンデをケチったのが敗因か。とか、それとももう顔がヤバいくらいに男にしか見えないのかもしれない。などと色々思ったけど、もう顔には出ません。
予測済みなのでダメージはない。
なかったはず。
ないはずなのに、ヤケ酒したくなる。
「どう見たら、男に見えるんだ」
ぼそっと、宗谷英規が言う。
そうだそうだ、もっと言ってやれ。
「あ、いや、確かに女性にしか見えんが、アレイが男と言っていたので気になってな。もしそれが本当ならすっかり騙されたなぁ、と思ってな」
こめかみをかく国王。
ちょっと、国王まで迷わないでください。
「アレイ?」
宗谷英規が国王に聞く。
「ああ、我が国の騎士団団長の事だ」
「ああ、アナレイ王子殿下の事でしたか」
国王が頷く。
そしてこちらを向いて、再度確認してきた。
「で、本当のところは女性なんだろ?」
聞かなくても女なんですってば。
「陛下、それについてお話があるのですが」
酒の席でするようなものではないのだが、話題が出ている今しか言うチャンスがないだろう。
うう、当初国王には黙っておく予定だったのに。
何がどうなって話す羽目になったんだか。
「改まって、何だ?」
「まず私の性別ですが、女です。男ではありません」
その言葉を聞いて安堵する国王。
「男装していようが、女装をしていようが、誰が何と言おうとも私は女です」
思わず力をこめて説明してしまう。
国王が少しだけばつの悪そうな顔をした。
「あ、ああ、解った。アレイに女だと伝えておこう。その上で謝罪を入れさせよう」
「あ、それは少し待って下さい。まず誤解を与えたのは私です」
「どういう事だ?」
よく解らないという顔を国王がする。
「私が男装をして、騎士試験を受験したからです」
「何だって!?」
心底驚いた顔をし、こちらをまじまじ見る国王。
この国の常識外の行動なので、国王が驚くのも無理はないだろう。
前例もなさそうだし。
「申し訳ありません。いつまでも居候するのは性分ではありませんので、何か働き口がないか探していた時に騎士試験の事を知って応募しました」
「あ、いや謝らなくてもいいのだが、信じられん」
「俺は聞いていない」
宗谷英規が、ぼそっという。
「言ってませんし?」
報告義務ってあったっけ?
それに最近会ってなかったし。
とか、心の中で言い訳してみる。
「女性なのに、またなぜ騎士団に」
国王陛下、ごもっともな質問です。
「ちょうどいい働き口が騎士団しかなかったからですよ」
あの時考えられる就職の選択肢が、少なかったっていうのもあるんだけど、状況的に自立する為の準備をしておかないといけない様な気がして、慌てて就職先を探したんだよなぁ。
で、見つかったのが侍女職と騎士職。
条件的に騎士しか選べなかったんだった。
「ふむ、騎士団の中に紅一点か」
国王がじっとこちらを見る。
よく人の顔を見る人だな。
「危険だな、色々と」
言わんとするところが判ったので、2名の協力者がいる事を私は伝えた。
副団長とヴォイドの事だ。
「うむ。まぁ、いいか。騎士団に属する事を余は反対せん。これもまた一興だろう。なんなら協力してもよい。ル・レイ会とかいったか?」
恐るべしル・レイ会。
国王にまで、存在を把握されている。
王女殿下経由だろうか?
そしてハッとする。
「まさか、陛下も入るつもりでは…」
恐る恐る国王を見ると、ニヤッと笑われた。
やけ酒だー。
やけ酒決定!
侍従さん、エウェジーク、エウェジークのストレートのおかわり持ってきてー!
いろんなタイプの嫌な予感を抱えつつ、侍従さんが持ってきてくれたエウェジークの杯を一気にあおる。
行儀が悪いが、知ったこっちゃない。
「ル・レイ会ってなんだ?」
隣でぼそっと呟きが聞こえたが、世の中には知らない方がいい事もあるって事で私は無視した。
ガンガン飲むぞ。
それにしても副団長の言ってた通り、性別がばれても国王は反対しなかったな。




