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現実主義者の引越し準備(所要時間2分)

しばらくすると、ウィロアイドの荷物群が続々と届く。

だが、はっきり言って置き場所がない。

つまり、私たちの居場所もないわけで、ウィロアイドの荷物に追い出される形となった。

ウィロアイドに、明日までに荷物の整理を頼んで、私はいったんファンタンジー部屋まで戻る事にした。

ジェイも、今日の夜は帰らないらしい。

彼も一旦荷物を取りに行くのかもしれない。

ジェイは去り際にこちらを一瞥してから、なぜかため息をついて去って行った。

廊下でヴォイドと話していると、ウィロアイドの侍従が荷物を持ってやってくる。

私に気付くと、一瞬固まり目を伏せる。

荷物が重かったせいか、顔が若干赤い。

入口からこの奥までは結構距離があるので、あれだけの荷物を運ぶのは大変だった事だろう。

自分の荷物ぐらい自分で運べばいいと思うのだが、貴族社会とはそういうものなんだろうな。

侍従の仕事も結構大変だ。

「扉、あけましょうか?」

両手の塞がっている侍従に、声をかけてみる。

「…!あ、いえ。お手を煩わすわけにはまいりません。どうか、お気遣いなく」

いやいや、両手に荷物を抱えていてはこの扉は開けにくいだろうに。

断られたが、それを無視して扉を開けた

「もしまだ運ぶものがあるんなら、扉に何か挟んで閉まらないようにしておくといい」

「あ、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ。ヴォイドそろそろ行こうか」

ヴォイドを促して、寄宿舎を出た。

ファンタジー部屋に着くと、ヴォイドが私に声をかける。

「ルイ様、少し寄宿舎に忘れ物をして来まして、取りに行ってもかまわないでしょうか?」

忘れ物?

ヴォイドって何か持っていたっけ?

「う、うん。別にかまわないけど?」

「ありがとうございます。すぐに戻ります。戻るまで部屋から出ぬようお願いいたします」

そう言うと、走って去って行った。

ヴォイドらしくないなぁ。

何だろう?

考えても仕方がないので、部屋に入る事にする。

部屋に入るとナリアッテがいた。

ちょっとした罪悪感を感じながら、寄宿舎の方に移る旨を報告した。

怒るかな?

詰られるだろうか?

と、びくびくしていたのだが、返答は意外にもあっさりしたものだった。

「解りました。では、お荷物を今からお纏めしますわね」

拍子抜けをしていると、ナリアッテがくすくすと笑う。

「ふふ、ルイ様の考えておられる事、私は結構把握していましてよ」

ちょこんと小首を傾げる様は、とても可愛らしい。

ナリアッテだから似合う仕草だな。

「騎士試験に合格されたらきっとこの部屋から寄宿舎へ生活を移されるだろうと、私予測しておりましたの。合格おめでとうございます。ルイ様」

ナリアッテが微笑む。

きれいに笑うものだから、つい見とれてしまった。

「ありがとう、ナリアッテ」

素直にうれしい。

「もしかしたら怒られるんじゃないかと思って、ちょっと報告するのが怖かったんだよね」

「まぁ、私そんなに怒りっぽくありませんわ」

あはは、ちょっと拗ねてるところが、また可愛い。

「ごめんごめん。それはそうと、この部屋ってこの後どうなるの?」

「こちらの部屋は、ルイ様用に確保しておりますので、いつ戻っていらしてもご使用になれますわ。もちろん使用許可もとっておりますのでご安心ください」

さすがナリアッテ、御見それいたしました。

この部屋の事まで対処済みとは…

ふむ、もしかしたらお風呂問題はこれで解決するかもしれない。

風呂の時だけここに借りに来るとかできないかな?

後で副団長に相談して、許可をもらっておこう。

「それより、ルイ様。その肩はどうされましたの?」

きれいな眉を顰めているナリアッテ。

そんなに顰めても、皺にならないなんてうらやましい。

「ああ、さっき寄宿舎で肩をぶつけた時に破いてしまったんだ。ナリアッテごめんね。せっかく貸してくれたのに。縫って元に戻すから、後で裁縫道具貸してくれる?」

「レイ様、その必要はございませんわ。代えならいくらでもご用意できますもの」

笑って恐ろしい事を言う。

よく考えたら、ナリアッテも貴族なんだなぁ。

シャツの1枚や2枚どうという事でもないのだろう。

今回は言葉に甘えて、次回から自分で何とかしよう。

「そっか。でも裁縫道具は宿舎に持っていっておきたいかも」

金の持ち合わせがない分、支給された服が破れた時はできるだけ自分で何とかしたい。

「では、お荷物の中に入れておきますわね」

「助かる」

「ではルイ様、御昼食はいかがなさいますか?」

「もらっていいかな?それと、今日はここで泊るから夕食もあるとうれしい」

「畏まりました。ご用意してまいりますので、しばらくお待ちくださいね」

そう言って、ナリアッテが出て行った。

いつの間にか扉の外に、人の気配がした。

兵が立っているのだろう。

ヴォイドが用意したのかもしれない。

とりあえず、自分の持ち物をまとめる準備をした。

と言っても、この世界に来た時の持ち物だけなので、2分とかからなかったが。

そこへ、外から声がかかった。

「ルイ様、陛下からの使いが来られました。入っていただいてもかまわないでしょうか?」

陛下から?

何だろう?

「どうぞ、お入りください」

外の衛兵が扉をあける。

「お寛ぎのところ失礼します」

完璧な礼をして使いが入ってくる。

「どうぞこちらへ、おかけください」

私が使いに席を勧めると、少し困惑していた。

あれ?また間違えた?

「あ、いえ。伝言をお伝えしに参っただけですので、立ったままで結構です」

「そう?で、陛下のお託とは一体」

「はい、申し上げます。"昨晩の約束通り、酒の席を設けよう。そなた等の話を楽しみにしている"との事です。御夕食後を見計らって、こちらから使いを出しますゆえそのお心づもりで」

ああ、そう言えば夜会でそのような事を言っていた。

まさか、昨日の今日だとは思わなかったが。

「解りました。お会いできるのを私も楽しみにしております。と陛下にお伝え願いますか?」

「承りました。では、私はこれにて失礼いたします」

私が頷くと、使者が出て言った。

それと入れ替わるようにナリアッテが戻ってくる。

「今のはもしかして、陛下の侍従長では?」

「へぇ、あの人侍従長なんだ。陛下からの伝言で、今晩、晩酌につきあえってさ」

「まぁ、それは大変」

ナリアッテの目がキラーンと光った。

うっ。

又ですか?

又何かされるんですか?

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