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現実主義者と3人の被害者

「貴様の首を今すぐ胴からおさらばさせてやる」

誰をも凍らす、殺気と声音。

ウィロアイドの体も、さらに大きくなったその殺気にビクッとなる。

その時にまた私のわき腹にも触れる。

「ひゃぁ…っいっ、ぁ…待…って、ヴォイド、待って」

ただいま腹筋に力が入らないため、いつもより声が出ておらず、なんとも気の抜けた声音になる。

ヴォイドを見上げると、今まさに剣を振り下ろそうとする姿があった。

本気だったのか。

ヴォイドの目線とかちあう。

彼の瞳が揺れた。

「ヴォイド、その物騒なのを鞘に入れて?」

ヴォイドにそう言うと、纏っていた殺気が霧散した。

そのおかげでやっと動けるようになったのか、もぞもぞとウィロアイドが体を起しにかかる。

再びわき腹攻撃。

又ビクッとなる。

「…ぃあ…ぁ早…く…」

もう言葉が続けられません、力が入らずぐてーっとなる。

早く上からどいてほしい。

何でもしますから。

「っ!!やべぇ!俺便所行ってくる!!」

今まで鳴りを潜めていた、ジェイがトイレに駆け込んでいった。

よっぽどヴォイドが怖かったらしい。

私も怖かった。

急に体重がなくなったと思ったら、ドスンと言う音が聞こえた。

ヴォイドがどうやら、強制的にウィロアイドをどかしてくれたらしい。

凄く乱暴だったのが気になったが、私はほっとした。

ヴォイドが私の体を起こしてくれる。

「いっ」

左の肩が痛む。

「まさかどこか怪我でも?」

さっきから左肩が痛む。

ブラーンとなった左腕を見て、ため息をつく。

やはり、脱臼をしていたようだ。

さっきのくすぐり攻撃は、私にとって実は波状攻撃だった。

弱点攻撃と脱臼に伴う鈍痛の2重苦。

左腕に負荷がかかる度に痛むものだから、くすぐったいわ痛いわで頭の中が大混乱だった。

「ちょっと、脱臼をね」

「な!?やはり塵にしてやる」

ヴォイドが再び剣を抜こうとしたので止める。

「ヴォイド、軽々しく抜いちゃだめだよ。いざという時に使い物にならなくなるよ?」

なんだか疲れて声に力が出ない。

ヴォイドは、しぶしぶといった態で柄から手を放す。

私はベッド角を使ったりして、脱臼を元に戻した。

ヴォイドとウィロアイドが、その様子を見て唖然としていた。

その顔がちょっと面白くて、笑ってしまった。

笑顔を見たためか、ヴォイドがほっとした顔をする。

なぜかウィロアイドも顔に緊張が取れている。

「脱臼ぐらいで大げさすぎなんだよ、ヴォイド。これから怪我とか一杯するんだから、その度に殺気立ってたら身が持たないよ」

「え?いや、それは…いえ、もう、慣れましたからいいです。ええ」

なんだかため息をつき、遠い目をし始めたヴォイド。

幸せ逃げるよ。

「それより君、こんな狭いところで暴れたら危ないだろ」

私は、ウィロアイドに一応注意をしておく。

「怪我人が出なかったからよかったけど、もし今度私を殴りたくなったら口で言え。もっと広いところで相手になるから」

ヴォイドが思いっきり納得いかないというような顔をしている。

間違ったこと言ってないよな?

「お前は、男なんだよな」

ウィロアイドが確認してきた。

「・・・・・・」

あれだけの事されて、正直ばれたかな?と思ったのだが、どうやら私の体は女の範疇に入らないらしい。

ものすごーく複雑だ。

本当に複雑だ。

団長の呪いか?

まぁ、男だと思われなきゃならないんで、誤解は解かないままのほうが都合がいいのではあるが。

「何?私に惚れたか?」

ちょっとからかうぐらいは許されるかな?

「そう、惚れ…いや、違う。断じて違う。誰が」

「そうか…残念だ。」

間髪入れず、心底傷ついたという顔を作って言ってみた。

「いや、違うんだ、今のは…」

ウィロアイドが、これ以上ないというぐらい複雑な表情を浮かべている。

人って、こういう表情もできるんだなぁ。

じーっと見ていると目が合う。

目が合った途端、ウィロアイドの顔が赤くなり、ふいと顔を逸らされる。

え?

ちょっとやり過ぎて怒らしてしまったようだ。

「まぁ、男同士だ。惚れるなんてありえないか。すまなかった、からかいが過ぎたようだ。それから、さっき君が倒れたのも、元を糺せば私のせいで起きた事態だ。全面的に謝罪しよう。申し訳なかった」

私は頭を下げた。

ウィロアイドが困惑している。

「いや、構わない。こちらも少々頭に血が上っていたようだ」

ウィロアイドって、プライドは高いけど、非を認める事はできるのか。

「じゃあ、お互い様だな」

にっこり笑うと、ウィロアイドが固まって動かなくなった。

「それはそうとヴォイド、ジェイ遅くないか?先程便所に行ったきり戻らないんだが」

トイレに籠ったままのジェイがふと気になった。

いくらなんでも遅い。

何かあったのだろうか?

「そうですね、覗いてきましょう」

ヴォイドがそう言って、トイレを覗きに行こうとする。

あ、トイレの原因が行ったら不味くない?

トラウマになったり?

あの、殺気は恐怖だもんな。

多感な年ごろだし、ありえるかも。

「ヴォイド、私が行く」

慌てて私はヴォイドを止める。

「え?あ、いえ、ルイ様はよした方がいいかもしれません」

「レイだよ。なんで?」

「ああ、すみません。それには…い…いろいろ複雑な事情がありまして…とにかくレイはここに」

そんな事を言われたら、行けない。

出てこない理由とかヴォイド知ってるのかな?

「何だろう、複雑な事情って」

ウィロアイドが微妙な視線をトイレに送っていた。

ヴォイドがトイレに着く。

扉を開けたと思うと、ジェイと何かを話し始めた。

聞き取りにくい。

「ジョアーグ。す…て終わり…した。出て…もだい…ですよ」

「か…してほ…よ。…じき、理性…飛んだ。あの…ょうと…えが、やべぇ」

「もう、ああいう事態には…りま…んよ、というかさせません。ええ、断じて」

「お、おう。ルイがお…こでよかったよ。おん…だったら洒落にならねぇ」

「思い…ら腹がた…てきた。俺でさえ、まだ…までしていないのに、くそっ」

「ヴォイド、洒落にならん…をサラっと言うのはよしてくれ。正直どう反応…いのか判らん」

「しまった、最近感情の制御ができなくて困る。とりあえず、先程のような事態にはもうならないとは思う」

「度々あってたまるか」

どうやら、会話が終わったらしい。

2人がトイレから出てくる、そして同時にため息をついた。

私の顔を見ながら。

何だろう、腹が立つなぁ。

「人の顔を見て、ため息つくって、失礼だと思わないか?」

ウィロアイドに同意を求める。

が、返ってきたのはつれない返事だった。

「今ならあの2人の気持ちが解りそうだ」

まぁ、これから一緒に暮らすんだし、歩み寄ってくれるんなら問題ないんだけど、なんだか疎外感。

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