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現実主義者の感傷気味な心情

やはりというかなんというか、部屋を出るとウィオディーク教官が壁にもたれて待っていた。

それはそうだ。

新兵の説明会のはずなのに、同じようにかつての先輩が座っていたらびっくりする。

なぜいるんだ?と、思わずにはいられないだろう。

「ヴォイド、話していく?」

こっそりと、ヴォイドに訊ねてみた。

「そうですね…やはり会っておきます。レイ、ここでしばらく待っていて下さい」

ヴォイドは少し考えていたが、結局教官に会っていく事にしたようだ。

その間、私たちは話が届かない程度の距離で待っている事にした。

「ヴォイドと教官って知り合いなのかな?」

ジョアーグが聞いてきた。

どうやら2人が気になるようだ。

「さぁ?どうだろ?そんなことより寄宿舎ってさ、部屋割どうなってるんだろうね?」

あまり突っ込まれてもあれなので、話題転換しておく。

「ああ、それは俺も知りたい」

話にのってくれたので、私はほっとした。

ジョアーグは、新たな生活に思いを馳せているようだ。

目がきらきらしている。

その様子が何とも犬っぽい。

思わず手が頭に伸びそうだったけど、我慢。

子供扱いされるのが嫌みたいだし。

してるつもりはないんだけどね。

それはそうと、寄宿舎だ。

寄宿舎。

私の場合は、二つ道がある。

申請を出して今の部屋で生活するか、寄宿舎に入るか。

希望としては、なるだけ早く寄宿舎に生活基盤を移しておきたい。

この1月ほどあのファンタジー部屋で過ごしてきたが、どうも私にはあのピンク色が馴染まなかった。

ナリアッテという精神安定剤がなければ、もしかすると脱走していたかもしれない。

ああ、そうか。

寄宿舎に移るという事は、ナリアッテとの生活も終わるという事なんだ。

意識したくない事だったが、目を向けなくてはならない事実がそこにある。

一抹の寂しさと一緒に、今までナリアッテと過ごした月日を振りかえる。

始めて会った時から、今朝までを。

本当に色々彼女には世話になった。

文字やここでの生活基準、その他必要な情報を教えてもらった。

業務外な事なのにも関わらず嫌な顔ひとつせず、私を常にサポートしてくれた。

この世界に来て、一番支えになってくれたのはきっとナリアッテだろう。

私の事情を知っている彼女だからこそ、精神状態には気を使ってくれた。

寂しい思いをしないように、疎外感を感じさせないように。

彼女は、優しくそして温かい。

凍った心も融かしてしまえる、そんな人だ。

ささくれ立っている私には、それが少しだけ眩しい。

しかし、そんな私に彼女は安らぎという掛け替えのないものを提供してくれた。

それは、この異世界で生活していく上でとても大切な事だったのではないかと思う。

いや、それは異世界だろうと地球だろうと関係なく、とても大切な事なのかもしれない。

彼女は私に、それを教えてくれた。

それは、私がずっと探し求めてきた答えの一部なのかもしれない。

そう思えた。

少し感傷気味になってきたな。

死ぬわけではないし、同じ敷地にいるので、会おうと努力すれば会えるはずだ。

それに、ナリアッテの性格だから、私がどこにいようと探し出して会いに来そうだ。

今は手放せない娯楽もできたようだしね。

「おーい、聞いてるかー」

とと、ジョアーグがしゃべりかけていたらしい。

「悪い。何だっけ?」

とりあえず謝って聞き返す。

「部屋4人部屋だったらいいのにな、って言ったんだよ」

「え?そうか?」

私は思わず眉根を寄せてしまった。

いかん。

皺になる。

1週間くらいならありかもしれないけど、1月も4人部屋って普通嫌だと思うものだが…

体臭・整髪料・香水系のあらゆる臭いが混在して、耐えられない位部屋の臭いがヤバいとか。

誰も片付けないせいで、結局倉庫か寝床か判らなくなる部屋になるとか。

同室者2人が喧嘩しだした時は、残された者たちがフォローとかしなきゃいけないとか。

そんな時に部屋チェンジできないシステムだったら、暗黒部屋というカオス空間ができあがるとか。

ただでさえ訓練で疲れてる時に、部屋に入ってみたら暗黒部屋になっている時の苦痛とか。

同室者のいびきで寝れないとか、歯ぎしりで寝れないとか、寝言で寝れないとか、寝れないからって話しかけられて寝れないとか、彼女ができないどうしようとか悩み相談に徹夜で付き合わされて寝れないとか、奇襲訓練で寝れないとか。

「君は、それでも4人部屋がいいか?」

若干げっそりして、言ってみる。

「い…いや、それは確かに嫌だな。ただせっかく知り合いになったのに、どうせなら同じ部屋だったら楽しいだろうなぁって思っただけなんだが…」

私は、耳もしっぽもしゅんと垂れ下がった犬の幻覚を見たような気がした。

ちょっ、何この素直系癒し動物。

16歳でこの素直さ。

希少種ここにあり。

この先、この騎士団という荒波でジョアーグはやっていけるのだろうか?

非常に余計な心配をしてしまう。

だが、その前に自分の理性の心配もしなくてはならない。

頭を撫でるか、撫でるまいか。

私はこの先この衝動と戦わなくてはならないのか。

思わず上がる右手、それを抑える左手。

禁断の癒し系動物が目の前にいる。

触りたい。

駄目だ、もう、我慢できない。

おもいっきりワシャワシャしてしまった。


なんだか負けた気がする。

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