現実主義者と癒し系
ヴォイドの面談が終わるまで待っていようと思って待っていると、数分足らずでヴォイドが出てきた。
なんだか事務連絡で終わったという感じの長さで出て来た。
「副団長はなんて言ってた?」
気になったのでヴォイドに尋ねる。
「引き続き頼むとおっしゃっていました」
どうやら副団長に、一通りの説明を受けたらしい。
つくづくヴォイドには申し訳ないなぁと思う。
というのは、本来なら近衛として王族の警護とかしなくてはならないはずの人なのに、こんな一般人の護衛なんて小さいことさせているからだ。
ただ大人しくしていればいいものを就活まで始めたのだから、ヴォイドにとっては始末に負えないというかなんというか。
さらに、巻き込まれて再受験までやらされるとか、彼にどれだけ迷惑をかけているかと考えると、胃が心配になるほどだ。
それにしても、彼の一般業務からかなりかけ離れている仕事内容だと思うのだが、契約内容とかどうなっているんだろうか?
労務に関する法律とか、色々無視されている様な気がするのだけど。
今度それ関係を確認してみるべきだな。
どうもそういう法律は整備はされていない感じがするのだが…
まぁ、王政だし異議申し立てる権利は、騎士団に所属した時点で奪われるのかもしれないなぁ。
一度ファインさんか、宗谷英規に相談してみるか。
脳内メモにメモっておく。
それはともかく、ヴォイドは上司にやれと言われて渋々、全く関係の無い仕事を引き受けたのだろうと思う。
上官命令は絶対とかなんとか、逆らうと軍規がどうとか。
ヴォイド、こんな仕事させて、本当に申し訳ない。
そういった思いを込めて、私は頭を下げた。
「ヴォイド、色々迷惑かけてごめん」
「いきなり何を言うかと思えば…」
少し呆れ顔で言うヴォイド。
「ルイ様が気にかける事ではありませんよ。こう見えて、結構楽しんで護衛してますから」
と、笑顔で言いきるヴォイド。
その雰囲気から渋々しているわけではなさそうな事が窺えた。
少しだけ気分が軽くなる。
「今はレイだよ、ヴォイド。そうか、そう言ってもらえると助かるな。じゃあ私は、御免ではなく有難うと言うべきか。これからも宜しく」
そう言いながら手を差し出すと、ヴォイドはすごく照れた顔して私の手を握り返した。
「ああー!!ちょっ、俺も俺も、俺も宜しくしたい」
突然、どたどたという足音が聞こえた為そちらを見ると、突進してくるジョアーグがいた。
「わかったから、廊下を走るな。それから叫ぶな」
ヴォイドがジョアーグを叱る。
ジョアーグが、ちょっとしゅんとなっている。
その姿が一瞬犬みたいに見え、思わずジョアーグの頭をワシャワシャと撫でまわしてしまった。
ちょっと癒される。
「お、おい。何するんだ、よっ」
"よ"と言ったところで、両手で私の肩を突き飛ばしジョアーグが離れる。
うーん結構病みつきになる毛質だったが、今回はあきらめる。
残念。
セットが思いっきり崩れていたので、直してあげるべきか否か…悩む。
弟がいたらこんな感じ?
「あ、悪い。ついジョアーグ見てたら、イヌ…癒し系動物みたいだと思ってしまって無意識に」
「なッ。動物扱いしやがって。それに俺はこう見えても16だ。お前より年上だ」
「…え?」
何々?今嬉しい事言わなかった?
「なんだよ。どうせ俺は背低いし16には見えねーよ。悪かったな。そういうレイは何才なんだよ」
どうやら、背の高さと16に見えない事がコンプレックスらしい。
16だったらこれから伸びるし、気にしなくてもいいと思うのだが、悩みは人それぞれなんだな。
それはそうと、年齢。
なんて言おう。
「16?」
あ、しまった口に出してた。
「なんで疑問形?16じゃないのか?」
訳がわからないという顔をする、ジョアーグ。
ははは。
ちょっとサバを読み過ぎたかもしれない。
意図せず口に出していたが、これはばれた時が恥ずかしい。
「というのは冗d…」
訂正を入れようとしたらヴォイドがジョアーグに何か耳打ちをする。
「16。とい事にしておいてくれ。見えなくてもそいうことにしておけ、ジョアーグ。歳の事は触れるな。頼むから。禁忌だから」
ヴォイドがジョアーグにこそっと言っていたが、まる聞こえだよ。
それにヴォイド、見えなくてもってなーに?
ふふふ。
見えなくてもって?
ヴォイドがうっと言う顔をして後ずさる。
なんだか2人のただならぬ雰囲気を感じ取ってか、ジョアーグは「お、おう」と一言だけ返事を返しただけだった。
気を取り直して、私はジョアーグに向かい合った。
「そんなことはともかく、ジョアーグ、これから宜しく」
ジョアーグに手を差し出した。
「おう!」
そういうと、ジョアーグも握り返してくれた。
その上にヴォイドも手をのせ「宜しく」と言う。
三人はしばらくその雰囲気を楽しんだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
と私がいうと、ジョアーグが変な顔をする。
「おいおい、何を言ってんだ。この後、合格者だけ集まるように言われてるだろう?」
思わず、ヴォイドを見る。
ヴォイドは首を振る。
私は肩をすくめた。
その件は聞いていない。
もしかして、入団後のオリエンテーションでも始まるんではなかろうか?
「もしかして、その為に戻ってきてくれたのか?」
「お前ら降りてこないし、合否が気になったし」
照れている姿がまた、初々しい。
何だこの癒し系動物は。
「そうか。悪いな、遅くなって」
とか言って、私はジョアーグの頭をまたワシャワシャとした。
やば、これ止められないわ。
「それでは行きましょうか」
と言って、ヴォイドがジョアーグを促す。
「そうだな」
なんだか疲れた様子のジョアーグの後について、私たちは合格者部屋に行くことにした。
あ、結局年齢訂正できなかった。
ま、いいか、いいよね、このままで。
だって、若く見られたいのは女の子の三大欲求の一つだもんね?
ワカイ・カワイイ・胸デカイ。
はんっ、どうせどれも持ってませんよ私は。




