現実主義者と謎の会
あれから、なんとなく気まずくなったので、早々に会場を後にした。
道に迷うかとも思ったが、意外と体は覚えていたらしく、自分の部屋にすんなりと戻れた。
それにしても、と思う。
宗谷英規に何故身の上話なんかをしたのだろうか?
やはり、飲みすぎだったからだろうか?
それとも、異世界という特殊な状況だったからか?
それか、何年かぶりに味わう、誰かに心配されるという感覚に酔ったとでもいうのだろうか?
敵から奪ったナイフを弄びながら、ベッドに腰掛けてぐるぐると考え続ける。
ああ、やめやめ。
これ以上は考えても答えは出ない。
きっとどれも正解で、どれも不正解だ。
そんなこと考えるより、メイク落として風呂入って寝よう。
悩んでも仕方のない時は、そうするに限る。
ナイフをいじりながら洗面台に向かっていたら、ノックがなる。
近場の台にいじっていたナイフを置き、返事をしようとしたらこちらの返事も待たず凄い勢いで扉が開き、ナリアッテが入ってきた。
思わず私は動きを止める。
「な、ナリアッテ?」
なんだか怒ってる?
「ナリアッテ?ではありません!信じられませんわ。あの男!何なんですの?あの男。ルイ様に傷を負わせるなんて!!返す返すも腹立たしい」
えらくご立腹のようだ。
ナリアッテも今回の夜会に呼ばれていて、あの場にいたらしい。
今日の装いはいつもの服に比べて随分と華やかで、彼女によく似合っていた。
怒り顔でなければ。
お怒りモードに気圧されて、私は思わず一歩下がる。
「ああ、うん。そだね」
ギンッと睨まれて、思わず同意してしまった。
素直に同意したからか、ナリアッテが少し落ち着いたようだ。
「医者をお呼びしたので、今すぐその首の手当てを受けていただきます。…あの医者、少しでもルイ様に傷を残そうものなら社会的に抹殺してやる」
い、今、最後の方が非常に聞き取りにくかったのですが…
ナリアッテの口から、抹殺とかあり得ない単語が聞こえたような気がするのですが…
そうする内に、医者が到着した。
大した傷でもないので、医者はササっと消毒をし塗り薬を塗ってから包帯らしきものを巻き、そのまま去って行った。
見事な手際だった。
ナリアッテの視線が怖かったのかもしれない。
「大した傷じゃないので、すぐ治ると思うよ。心配してくれてありがとう」
というと、ナリアッテが真剣な顔をしてこちらに向きなおった。
「本当に心配しました。気づけばルイ様が、暴漢たちのすぐ近くにいたんですもの。しかも逃げずにそのまま立ち向かわれて、思わず見と」
ナリアッテが軽く咳払いをして言い直す。
「ハラハラいたしましたわ」
「うん。本当に心配かけてごめんね」
なんだか、他の人から心配されるのはくすぐったい。
申し訳がないのと、嬉しいのとで、どういう表情をしていいのか判らなくなってしまった。
「ルイ様…」
ナリアッテが優しく言う。
「今回は許して差し上げます」
そう言って、ツンと上を向く。
その仕草がおかしくて、つい笑ってしまった。
「あはは、ありがとうナリアッテ」
くすくすとナリアッテも笑う。
お互い暫らく笑いあった。
「それにしても…」
ナリアッテが口を開く。
拳を握りしめ胸元に持ってきて続きを言う。
「許せないのは、団長ですわ」
「ん?」
「どこをどう見て、ルイ様が男に見えるというのです?ルイ様を綺麗に着飾る為に集う会は、今日の為に気合を入れて来たんですのよ?」
ちょっと待て、なんだその何とか会とやらは…
「ルイ様のドレスだけではなく、髪型やドレス飾りに至るまで、完璧に仕上げたというのに、これ程の侮辱はございませんわ」
「ちょ、ちょっと待って、ナリアッテ。まずその何とか会って何?」
「ルイ様の美しさをより一層高める為に集まった、同志たちによって作られた会の事ですわ」
「…」
「合言葉は、さり気無くそして美しく、ですの」
ついていけないのは私だけでしょうか?
思わず脱力する。
「今日のルイ様は、その点で完璧な仕上がりでしたのに…この屈辱…まぁ、それはいいとして、ルイ様もどうしてあの時、反論されなかったんですの?」
「それは…あまりの事で反論する気もおこらなかったからかな?」
まぁ、反論しなかったのはこちらの都合もあったんだけど。
この事態は結果オーライだったのかな?
「あ、そうだ。いっその事、意地でも団長の前では男で通してやろうかと思っているんだけど、ナリアッテどう思う?」
あ、あれ?
ナリアッテの目の色が変わった様な気がする。
獲物を見つけた野獣のような目に見えるのは気のせいかな?
きらんって、効果音が聞こえそうな目つきはやめて下さい。
思わず後ろに下がってしまったから。
私は相談先を間違えてしまったのだろうか?




