現実主義者と誤解
『今の冷凍食品と人工皮膚の成分には、研究者の血と汗と涙が含まれている』
US○トゥデイだったか忘れたが、何気なくネットで新聞を読んでいるとそんな見出しで書かれた記事が載っていた。
確か内容はこんな感じだった。
食品の組成成分をいかに壊さず冷凍し、解凍時に鮮度を落とさず元の状態に戻すのか。そして何よりも消費者に、いかにしておいしいものを提供できるか。日々研究者たちの努力の積み重ねによって、この世に生み出されている。
(中略)
そして、研究者たちの冷凍技術に対する並々ならぬ努力により、新たな冷凍技術セルアライブシステムが生み出され、より細胞を傷つけない冷凍が可能になった。近年、その技術が注目され食品分野のみならず医療分野での応用研究も頻繁に行われるようになり、そしてついには、再生医療分野において最もなくてはならない技術の一つとなっている。この並々ならぬ研究者たちの努力が、今日の再生医療技術を支えていると言っても過言ではない。
(中略)
やがて、人間丸々冷凍できる日もそう遠くないだろう。
2021年に掲載された去年の記事だが、セルアライブシステムの開発が日本で行われたというところに興味が湧いて、記憶に残っていた記事だった。
確かこの技術のおかげで移植率が上がったとかなんとか。
再生医療は技術革新の目覚ましい分野で、金のなる木だから誰もが注目している。
それにしても、世界は広いと思う。
地球において今現在の技術では、体細胞の完全な冷凍保存と解凍技術がせいぜいだ。
それだというのに、たった一言で人間を丸々完璧に冷凍できる人間が存在するとは思わなかった。
さすが異世界。
まぁ、地球にもただ冷凍するだけなら"OYAJI"というフリーザーがあるらしいが、その性能は団長とは比べ物にはならないだろう。
その証拠に、未だに目の前の2人は固まったままだ。
だが、そろそろキョウキーニさんの手をはずしたい。
指先つままれたままなので、徐々に指先の感覚がなくなっている。
ゆっくりとはずしにかかるが、意外と外れない。
本当に凍っているのではと思って、キョウキーニさんの顔を見る。
げっ。
なんだかひどく顔色がお悪いようで。
見るんじゃなかった。
一方この状況を作り出した、張本人はというといたって普通だ。
何か腹が立つなぁ。
「もう一度言うが」
うわぁ、団長それをもう一度言うと、確かに皆一旦正気に戻りそうだけど、さらに事態が混沌としそうですぜ。
必死に、空のグラスを持った手で、首を切るジェスチャーを団長にしたが通じなかった。
あ、これ地球のジェスチャーだった。
「そいつはおと「2度も言うなー!」こだ」
キョウキーニさんがかぶせるように言い、私の手を思い切り払いのけ、後ずさる。
やっと指先戻ってきた。
が、状況は戻ってきていない。
「ルイとかいったか」
キョウキーニさんが言う。
うわー、地を這うような声ってこういうのをいうんだ。
「俺の前で女のカッコであらわれて見ろ、二度と男でいられなくしてやる。今すぐ着替えてこい」
えーと、私にとってさして困らない脅しだが、ここは大人しくしていよう。
だが、ひとつ問題がある。
「団長、この夜会は琉生の方に陛下から招待状があったんですが、男の恰好をしても問題がないもんでしょうか?」
「…問題大有りだな」
「おい、それはどういう事だ」
キョウキーニさんが問うので、団長が説明をする。
つまり女として出席しろと陛下から言われているという、団長独自の解釈付きで。
それを聞いたキョウキーニさんが「ふんっ」と鼻で笑った。
「まぁ、いい、取り敢えず消えろ」
絶対零度の眼差しで、私を見るキョウキーニさん。
言われなくとも、そうするつもりです。
ええ。
「では、キョウキーニ=ウェン=シェオインク=ジェジュミ殿下、団長、副団長、私はこれで失礼します」
手短にいい、騎士の礼をとって退散する。
全く、団長といいキョウキーニさんといい、軍のトップは見る目がないなぁ。
あれだけ触れてて、なぜ気付かないんだろう?
普通、骨格やらなんやらですぐに判るもんだろうに。
「まったくだな」
「ですよねぇ?」
あれ?
今声に出してた?




