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現実主義者の精神ダメージ

さて、どう言い訳しようか?

頭の中でぐるぐる考えてみたが、結局どれを答えても自分の望む結果にはならない事が分かった。

えーい、ままよと思い、私の発した言葉が「趣味」だった。

「え?」

団長と副団長が、みごとな美声二重奏で聞き返してくる。

いやね?

どうせ迷ってどんな言い訳をしても、自分の不利な方にしか状況が運びそうにないし。

とか、

どうせなら、うまく運ばないんなら私が楽しい方がいいよなぁ。

とか、色々考えた結果が上の言葉として出たわけで、決してナリアッテのドレスの胸の部分が余りに余っているので、詰めて詰めて寄せてあげて誤魔化して、それでも誤魔化しきれなくて誰がどう見ても偽乳にしか見えなくても、外見だけはどこからどう見ても女な私を女装とのたまった団長に、ちょっとした意趣返しができるかも?とか考えていたわけではないですから。

ええ、決して。

多分、きっと。

うん、お酒飲もう。

そして、もう一度きっぱりと言う。

「趣味です」

団長はなぜか納得してたが、副団長が思いっきり変な顔をしている。

うまく誤魔化せと言われてもねぇ、何をどう誤魔化していいのやら。

だから、後は任せますという意味も含んだ笑みを副団長に返しておいた。

動揺している。

どうやら、私の目が笑っていなかったかららしい。

それにしても、なぜそこで団長が納得してるのかが解らない。

それほど、男が女装したようにしか見えないんだろうか?

結構傷つくんだけど?

確かに胸はあれでこれだけど、着こなしとか仕草とかメイクとか、ぱっと見は女性らしくしたつもりなんだけどなぁ。

ナリアッテも太鼓判押してくれていたし。

やっぱりあれかな、数年前に自棄になって女捨ててきたのが悪かったんだろうか?

異世界に来てまで、こんな事を考えさせられるとは思わなかったよ。

あ、使用人の人発見。

今度はワインもどきのエアエイをお代わりした。

うまい。

心にしみる。

「はは、よく飲むなぁ」

団長が笑いながら言う。

「とてもおいしいですから。団長は飲まれないんですの?」

「女言葉はよせ、気持ち悪い」

…気持ち悪い…

なんだろう?

こう自分の奥の方から何かが湧き出る様な、呼び覚ましてはいけない何かが表へ出ようとしている様な、けれども必死で抑えつけなきゃならない何か。

「・・・・・」

これを人は"怒り"と呼ぶ。

気のせいだ。

怒っているのは、気のせい気のせい。

社会人にもなってこれ位の事で感情をあらわにするなんて、ねェ。

うふふふふ。

笑顔を張り付けて、手にあった杯を一気にあおる。

これはやけ酒ではない。

断じて違う。

副団長が一人アワアワしているのを横目に、空になった杯を通りすがりの使用人に交換してもらう。

今度はウィスキーもどきのエウェジークをもらった。

これも一気に流し込む。

「ほう、お前いける口だな。今度酒につきあえ」

団長が感心したように言う。

ついて行ったら、いい酒奢ってくれるんだろうか?

「はぁ、私でよければ」

と、思わず返事をしてしまう私は、現金だと思う。

「アンヴォイド近衛三官とかキースとかアリーオとかいるじゃないですか。なんでレイなんです?」

まさか私が承諾するとは思ってなかったのか、副団長が慌てて団長に言う。

「いつものメンバーと飲んでもいいんだが、飽きた。ヴォイドは酒には付き合うが話には付き合わないし、キースは酔うといい酒ばかり頼むし。アリーオは泣きが入るし、お前は酔うと手に負えん。それに、たまには違う連中とも飲みたいからな」

「ちょっ、手に負えんって。私がいつ酔ったと言うんですか」

副団長が抗議するが、団長は何とも言えない顔をして、「…お前、いつも記憶なくすからな…」とどこか遠い眼をして呟いた。

「そんなことよりお前は、レイ何という名前だ?」

遠い眼をしていた団長が、現実に戻ってこちらに向いた。

女装だと思われているので、名乗るのは偽名でいいや。

「レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンです。ちなみにこの姿の時は琉生と呼ばれています」

今更だけど名前を名乗る。

「そうか」

団長が何かを言おうとした時に、会場内がざわめく。

何だろうと思って周りを見ると、新たな招待客が到着したようだ。

会場内に名前が響く。

『キョウキーニ=ウェン=シェオインク=ジェジュミ様』

団長の顔が心持ち引きつっている。

「あ、偽13番」

思わずそう言った私の顔も、団長と負けず劣らず引きつっていた事だろう。

昼間のバトルジャンキーの登場だった。

やはり、来たか。

VIPだし招待されてても不思議ではない。

今は女装中(?)だし、多分すれ違っても気付かれる事はないだろう。

ましてや、話しかける事もないと思う。

自信ないけど。

万が一ばれても、こんな人の多いところでまさか勝負は挑まないだろう。

常識的に考えて。

いや、団長のこの顔の引きつり具合じゃ、余興としてやってのけるのかもしれない。

それは、まずい。

注意が必要かも。

まぁ、何にせよばれなければいいのだ。

ああ、でもアリーオさんには見破られてたから楽観視はできないなぁ。

取り敢えず、視界に入らないようにしようと決意したそばからこっち見てるし。

思わず冷や汗。

正確には団長の方を見てるっぽいけど。

かの孫子も言っていたではないか、逃ぐるを上と為すって。

あれ?孫子だったっけ?

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