現実主義者の世話人めぐり(第7世話人第8世話人)
キースと2人で酒談義をしながら副団長の元に行く。
途中キースは、やはりいろんな人に声をかけられていた。
意外だったのは、そのあしらい方だ。
もっとこう手間取ったり、いちいち相手にして時間を食うのかと思っていたら、意外とすんなり躱して行く。
経験のなせるわざか、はたまた性格によるものか。
まぁ、両方なんだろうな。
そうこうしているうちに、人が増えてきたせいか進むのが難しくなってきた所で副団長がこちらに気付いた。
何だか囲まれていて近付きにくいな、と思っていたらキースがその輪の中に入ろうとする。
置いて行かれそうだったので、私は慌てて後をついて行った。
もう少しでその輪の中に入れない、というところだった。
危ない、危ない。
辿り着くと、やはりまだ団長と副団長は一緒だった。
侍女さん's Networkによると、団長の人気は男女ともに凄いらしい。
身分が高いのに関わらず、気取らず一般兵にも公平で、面倒見が良く兄貴肌。
部下から下っ端に至るまで、信奉者がわんさか。
それでいて女性には優しく、ふと覗かせる品の良い笑顔に世の女性方はメロメロだという。
その話を聞いた時、「何、その完璧超人」と思わず言ってしまった。
それから、団長には劣るものの人気の高い副団長。
騎士団の最後の砦というキャッチコピーの元、日々団長の豹変モードに苦労されていると聞く。
部下から下っ端に至るまで、同情者が続出。
それでいて女性にはそっけなく、だが時折見せる艶めいた憂い顔に世の女性方がドキッとさせられるという。
それを聞いた次の日、思わず副団長の頭部を観察してしまったのだが、余計な心配だったようだ。
頭よりも胃の方を心配しないといけないらしい。
キースが副団長に近づいて、本題を切り出す。
前置ゼロ、いきなり本題です。
キースは先ほど私から聞いた話をかいつまんで話し出した。
で、時々私がフォローを入れる。
やはり、何故その人物を不審に思ったのか副団長たちは聞いてきた。
で、今度は私が掻い摘んで説明した。
ただし、あくまで私の一意見であり、その人物があくまでも少し浮いているだけの招待客だという事や、国外からの招待客の可能性などを念押ししておいた。
「ふむ、なるほど」
団長が呟き、副団長と目線を合わせた。
副団長が頷く。
そしてキースに何か耳打ちして伝えた。
「了解しました。では、アイエネイル・ルイ、私はこれで一旦失礼する。酒はほどほどにしておけよ」
キースは正式な騎士の礼をとって私に挨拶すると、他の2人に目礼だけして去って行った。
酒は余計だっての。
しばらく去っていくキースの後姿を眺めていると、団長が口を開いた。
「で、16番何故女装している」
「・・・・・え?」
何だって?
いや団長、それはもうご存じだったのでは?
あれだけ手合わせしてれば、普通判るものでは?
それに…。
思わず副団長を見やる。
あ、目を逸らしやがった。
私の聞き間違いではなかったら、半月ほど前一応上司にも了解を得るとか言ってなかったっけ?
副団長の上司といったら団長しかいないのでは?
という抗議の視線を副団長に送ったてみた。
「すまん。うまくごまかせ」
と、美声でぼそりとつぶやかれた。
…忘れてたな。
これは絶対忘れてたはずだ。
ごまかせったって、どうやって。
これはもうやけくそ?
いや、人生かかっているから、やけくそになってはいけない。
ここは、じっくり言い訳の選択肢を検討してみるべきだ。
1.正直に話す
2.レイと琉生が双子という話にする
3.レイと琉生は別人という話にする
うーん1.は話すのなら、まだ試験に受かっていない今しかない。
ただし、試験は落ちるだろうな。
2.の双子話は、名前がもう誤魔化し様がないので使えない。
3.は女装してるのか男装しているのかによって、言い訳が変わる。
ただし、男装してましたっていうと試験を落とされそうだな。
もう一度団長を見、副団長を見る。
団長はどうもこっちを試していそうなんだよな。
だけど、表情を見ただけでは分からない。
さて、どう言い訳しようか?




