現実主義者の世話人めぐり(第5世話人)
この国に伝わる話に、月の女神と太陽の神というものがある。
月には女神がいて、非常に嫉妬深い性格をしていた。
その太陽の輝きに嫉妬していた女神は、太陽の神を殺してしまい、後には戻れない罪を犯してしまう。
その時から地上には闇が落ち、自らの輝きも失われてしまう。
結局太陽の子が、太陽の周りを固める星々にこいねがい、神を死の淵から救いだしてもらい、事なきを得るというストーリーだ。
恐らく日食か月食をヒントに描かれた、昔話だろう。
文字を覚える為に、童話の本をナリアッテに紹介してもらったのはいいのだが、子供に読み聞かせるにはかなり疑問のある書物だった。
これ童話じゃないから、ドロドロの愛憎劇だから。
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ファインさんに近づいていたら、こちらに気づいてくれたらしい。
数多の女性を尻目に、こちらに近づいてきたファインさん。
えーと後ろの女性怖い怖い。
きれいな人達に睨まれると迫力が違いますね。
「ご機嫌はいかがですか、ルイ。今日の装いはとても貴女によく似合っておられますね」
何たらのこうたらお世辞云々。
あまりのお世辞攻撃に、聞くことを途中放棄してしまった。
すみませんファインさん。
「こんばんは。ファイン様の今日のお召し物もとても素敵です。これでは、月の女神に嫉妬をされるかもしれませんね?」
クスッと笑って、それから扇子で口元を隠し、先程の壁際の位置に視線を流す。
「おや、月の女神に嫉妬されては、大変なことになってしまいます」
私の視線につられたのか、ファインさんもその場所に視線を移す。
私が再びファインさんの顔に視線を戻すと、目があった。
ファインさんが、一度目を伏せる。
「ええ、女性の嫉妬は甘く見ていると命取りですもの」
私が少し拗ねた表情を作りながら言う。
「これはこれは。貴女に妬いていただけるとは、男冥利に尽きますね」
ファインさんが楽しそうに笑う。
「女神様にやかれてしまえばいいのですわ」
扇子で顔を隠しながら拗ねた口調で言うと、ファインさんが更に笑みを深めた。
それを遠巻きに見ていた女性陣から、次々と溜息が漏れている。
ファインさんよ、あんたはなんて罪作りな顔なんだ。
「では、星々に助けを求めなければ。このままでは、女神様に太陽が隠されて世界が暗闇になってしまいますね。ルイや他の女性の顔が見られなくなってしまうのは、私にとって苦痛でしかありません。それは、私の本意ではありませんから」
ファインさんが、少しおどけた口調で言う。
「でしたら、早くなさるといいですわ。太陽の子が顔を出してしまいますと、誰も身動きがとれなくなってしまいますもの。まぁ、私はファイン様の顔が見えなくても平気ですけれども」
パチンと扇子を閉じ、ファインさんを見てにっこり笑った。
「また、そのようにつれない事をおっしゃる。これでは、女神様でなくても嫉妬してしまいそうだよ。そうは思わないかい?ジャミニ近衛三官」
ファインさんが、私に向かって周りに判らない程度に頷いた後、ヴォイドに向く。
「忘れられたかと思いましたよ、アークオーエン宰相補。お久しぶりです」
ヴォイドがファインさんに挨拶する。
「お父上とは先日会ったよ。ますます若返っていて驚いた」
「ええ、相変わらずのようです」
「本当を言えば、ルイをエスコートするのは私でありたかったのが、今日はアンヴォイド君の方が適任だな。では、私はそろそろ失礼するよ」
そう言ってファインさんは、私の手をとって手の平にキスを落とした。
本来は甲の方に落とす。
が、手の平だった。
確か、この国では手の平の時の意味は安全の祈願だ。
ちなみに手の甲は敬意。
この国のボディーランゲージは初めの方にあらかた覚えた。
「はい、ファインさんも無理をなさらずに」
扇子を広げてこっそり囁いた。
ファインさんは、小さく頷いて去って行った。
嫉妬に染まった視線を向ける女性陣を残して。
うげ、これをどうしろと?




