現実主義者のエスコート
ノックがなったので誰何をしたら、ヴォイドの返事があった。
ナリアッテが、扉を開けるときちんと正装したヴォイドが立っていた。
髪が後ろになでつけられ、目の色と同じ青を基調にした服がよく似合っている。
顔がいいと何を着てもよく似合う。
その見本みたいだなぁと思った。
しばらく動かなかったので、入るよう促すと入ってきた。
今日のエスコート役はヴォイドだ。
事前にそう決められていた。
ヴォイドはどうやら、この夜会に招待されているらしく警護もできてちょうどいいという事でエスコート役に決まったらしい。
ヴォイドが目の前に来ると、口を開く。
「御機嫌麗しく、ルイ様。今日のルイ様のドレスとてもお似合いです。エスコートは、私にさせていただけますか?」
「御機嫌よう、ヴォイド様。お世辞でも嬉しいです。ありがとう。私のエスコート役は、ヴォイド様しかいません。頼みましたよ」
と、にっこり笑って返した。
騎士が女性をエスコートをする時は、当日に伺いを立て、女性に許可をもらうのが習わしだとか。
まぁ、事前にオファーを入れOKをもらった上で、当日このようなやり取りを行うらしい。
今では形骸化しているが、何でも昔の物語の踏襲だとか。
好きな相手をエスコートする時は、このやり取りに加え又別の事をするらしいと聞いた。
それがなんなのかは知らないが。
夜会本番では、ヴォイドが今言った様な、お世辞の応酬みたいなのがあちらこちらで見られる事だろう。
そこで先日作成した、ナリアッテ監修の質問主意集とその答弁集の出番だ。
役立つのを祈る。
そうしてヴォイドのエスコートされながら、大広間に向かって歩いていく。
この間も感じたが、迷子になったら即遭難。
これは確実だろうな。
やはり中央に向かって行く度に、調度品がいいものに変わっていく。
戻る時は調度品を目印にすればいいかもしれないと思いついた。
入れ替えがあったら判らなくなるけど。
そうして、そうこうしている内に2階の大広間の入口にたどり着く。
立っている人物に、ヴォイドが招待状を私の分と一緒に見せた。
広間内にヴォイドと私の名前が読み上げられる。
これは結構恥ずかしい。
広間内にざわめきが走る。
うん、解ってたけど女性陣の視線が痛い。
顔良し・資産あり・性格よし
と、揃ってたら狙われるよね。
ヴォイド。
友人のような肉食系女子はここにもいたか。
ヴォイド、気の毒に。
でも、資産ありには、ちょっと不安要素がありそうだけど。
家の資産はあっても、個人資産は少なそう。
賭けとかにつぎ込んでそうだ。
破産しないようにな。
「あの、ルイ様。心の中だだ漏れです。破産なんかしません、今回のはたまたまです。仲間に無理矢理一枚かまされただけで。ルイ様が俺のことどう思っているか、今のでよく解りました」
「げ、だだ漏れだったか。無意識だったんだ、すまない」
「余計悪いです。それから、口調がレイモードになってます。ルイ様に戻って下さい」
ヴォイドが拗ねた。
性格が後輩の堂島に似ているからか、ヴォイドに対してつい弄りたくなる。
これからは気遣ってあげよう。
後、レイモードの方が実は私の地なのだという事を、教えた方がいいのだろうか?
レイと琉生を使い分けようと決めてから、対外的に、琉生の時は言葉遣いだけでも女性らしくを目指してたから。
今ではレイの方が楽だ。
ま、いっか。
「あらあら、いけませんわね。気をつけますわ、ヴォイド様」
にっこりと微笑んで見せると、ヴォイドが面くらっていた。
「では、そろそろ私たちも、広間へと降りませんこと?」
ヴォイドを促す。
「そうですね?では、お手をどうぞアイエネイル」
うわーーーーー!!
やめてーー。
もうお嬢様とかいう年齢じゃないから。
ヴォイドの顔を見ると、素で言ったらしい。
嫌味で言われるより、攻撃力あるよ。
これだから、素直系生真面目坊ちゃんは手に負えない。
「謝りますから、アイエネイルだけはやめて」
思わず懇願してしまった。




