現実主義者の入団テスト(1日目)
入団テストは騎士団の訓練所で行われる。
場所は事前に教えてもらっていたので、迷わずに行けた。
いつもならヴォイドがついてきたりするが、今日はこの世界に来て初めて1人で歩いている。
恐らく今の行動が、レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポン、以下"レイ"としての行動だからかな?と思ったりする。
ちょっと感慨深い。
取り敢えず、入団テストの受付で、書類を渡そうとすると、相手がえ?というような顔をした。
あれ?受付場所間違い?
と思い思わず周りを見るが、ここで合ってるはずだ。
相手の顔を見ると、朝ジョギングの時にたまに見かける人だった。
実は、今日も会った。
考えてみたら、隊服着てたんだよね、私。
あらら。
「詳細は副団長にお問い合わせ下さい」
と、言ってみる。
社会人の必須裏技No.3、丸投げ。
こういう時って、組織の命令系統がしっかりしてる所は楽でいい。
隊長~後はよろしくねっと。
無事受付も済まし、待合所で説明があるまで待機していると、よく知っている気配を近くで感じた。
思わず見上げる。
「・・・・・」
…髪の色しか変わっていないし。
これで変装しているつもりだったらどうしよう?とか、本人は気付かれていないと思っているかもしれないとか、声はかけない方がいいのだろうか?とか色々考えてしまった。
初対面の振りをするべきか、せざるべきか悩みどころだ。
理由も大体予測がつくので、あえてこのまま遊んでもいいんだけど…
いや、事情も直接聞きたいし、ここは直球で行くべきか?
う~ん。
本人には申し訳ないが、ここは正直に言ってみる。
「で?ここで何をしてるんですか?ヴォイド」
若干髪色がくすんだ金になって髪型もいつもと違うが、どこからどう見てもヴォイドだった。
「気付かれていたんですね」
少しがっくりしている。
いやいや、待て、まず変装をなめている。
髪色変えて髪型変えたら、確かに印象は変わるがそれは一瞬だけ。
今のヴォイドは、イメチェンの域を出ていない。
どうせやるなら、大胆にかつ別人になりきるぐらいはしなきゃ、ああ、私なら…
とか考えていたら、ますますへこみだしたヴォイド。
あ、口に出してた…
「ご、ごめん。もし合格したら、変装の協力してあげるから」
とか言ってみるが浮上してこない。
まぁ、彼の事を知っているのは、結局同期と上層部だけらしいので、普通にしてても問題ないらしいのだが、結構几帳面な性格なのか徹底主義なのか一応変装をしてみたらしい。
うん、まぁ気概だけは認めてあげよう。
今の髪型も似合ってるし。
さて、どうやら今から始まるらしい。
ちょっと緊張。
「今から健康状態のチェックと基礎体力を測る」
健康状態のチェックは、既往歴の問診記入と診察だけだった。
血を取ったりしないのはありがたいが、ここの医療水準をちょっと疑う。
かといって、詳細を調べられても困るけど。
血液型が存在しませんとかだったら、人外扱い決定だし。
で、基礎体力は単純に私がいつも走っているコースを1周する事。
脱落者は問答無用で落とされる。
後、遅すぎるのも問題外らしいが、タイムは重要視しないそうだ。
といっても、やっぱり競争するのが人の心理というもので、皆飛ばす飛ばす。
おお、ちょっとしたマラソン大会っぽいな。
私は自分のペースを判っているので、それほど飛ばさない。
いつもよりちょっと早めのタイムで走ってるくらい。
でもやっぱり、この池の所で、ゆっくり走ってしまうんだなぁ。
ここから眺める景色が本当にきれい。
木々の合間から漏れる光が水面に反射してとても美しい。
本当、いつ見ても飽きません。
そして、うっとりとしながら、ゴール地点に到着。
ヴォイドが遅れてゴール。
なんだか恨みがましい目でこちらを見てる。
あ、いつもゆっくり走ってたのばれたか。
まぁ、気にしたら負けって事で、苦情は受け付けません。
「ゴールしたら、名前を記入する事」
と言われたので、記入しに行く。
どうやらこれが、明日の試験順になるらしい。
私は16番目でヴォイドが17番目にテストを受ける。
結局その日はそのまま解散となり、あのファンタジー部屋に帰る事になった。
ヴォイドの視線が痛い。




