現実主義者の足がかり
ヴォイドに案内され、兵の訓練場を脇目に通り、士官(?)の執務室や宿舎のある建物まで来た。
でかい。
中に入ると、意外と静かだった。
「この時間は、ほとんどの者が訓練に行っているか、夜勤明けで寝ています」
との事だ。
3階部分の一番でかい部屋に行くと、ヴォイドが立ち止まる。
「こちらにいらっしゃいます」
ヴォイドがノックをしようとしたので、それを制止し私がノックをする。
あ、いい音。
「レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンです。ヴォクィッツ騎士団補佐官に、」
あ、重大な事聞き忘れた。
あの人なんて名前だっけ?
うわ、社会人失格。
この年になって、なんてへまを。
今どき、新人でもこんなへましないって。
取り敢えず、無理やり続けちゃえ。
「お届け物をお持ちしました」
ヴォイドが変な顔をしている。
あはは、偽名はあった方がいいよね?
うん。
「…入れ」
あ、このいい声は隊長だ。
「失礼します」
扉を開けると、その正面に隊長、脇に見知らぬ人が立っていた。
恐らく立っている人物が、アリオイエさんだろう。
こっそりヴォイドに聞くと頷いた。
一礼して中に入る。
「ヴォクィッツ騎士団補佐官、こちらをお預かりしています」
と、持っていた物を渡す。
アリオイエさんが受け取ると、がん見された。
「え~と…」
取り敢えず笑っとくか。
「見ない顔ですね」
アリオイエさんが言う。
「はい、はじめまして。レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンと申します」
と言って、一礼した。
普通ここで所属とか言うんだろうなぁ、とか思いながら頭をあげる。
なってない、一般兵で通すか。
とか考えていると、
「…ルイ」
隊長が呆れた感じで小さく呼んだ。
その声を拾ったアリオイエさんが、すかさず隊長に尋ねる。
「副団長、お知り合いですか?」
隊長はそれには答えず、ヴォイドに問う。
「ジャミニ近衛三官、説明を」
「はッ」
ヴォイドが姿勢を正す。
凄ーく困った顔をしながら。
うは、ごめんね。
とりあえず謝っておく、心の中で。
ヴォイドが隊長に、うまく説明をしてくれた。
私の身分やらなんやらをうまく端折って。
隊長が頭を抱えている。
「アリーオ悪いが、少しだけ席をはずしてくれ」
アリオイエの愛称はアリーオになるんだ。
等とどうでもいい事を考えていたら、アリーオさんが好奇心いっぱいの目でこちらを見ていた。
そりゃそうだろう。
使いっぱで来た一見タダの一般兵の私が、明らかにエリートなヴォイドと一緒にこの部屋に入ってきて、なおかつ隊長と私が知り合いかもしれないとなったら、何かあると勘ぐってもおかしくはない。
普通知りたいよねぇ?
でも、教えてやんない。
アリーオさんは非常に名残惜しそうな顔をして、この部屋を去って行った。
「さて、ルイ。お前は一体何を企んでいるんだ?」
おお、凄みを増すとますますいい声になるな隊長。
「ん?何も?」
一応とぼけてみる。
「ウソをつけ。偽名を使っている時点で怪しいだろう」
「あ~、まぁ、そうですけどね?」
あはは~、と私は笑った。
「だったら、吐け」
うーん、なんて言おうか。
ああ、これはあれだ、転職活動において、面接で転職の目的を尋ねられた時に困るパターンだ。
正直に金の為と言うか、その会社に憧れてとか訳の判らないウソをつくか、キャリアアップと言うか…
まぁ、実はどれも地雷なんだけど。
さぁ、私は何と答えるべきか?
人脈確保か、地位獲得か?
敢えて、言うのなら転職活動の為?
うーん困った。




