明日香、対立
言うが早いか、未来と諌見は早速と言わんばかりに未来の通う高校へと足を伸ばした。時刻はすでに放課後になっており、明日香がいるのかどうかも分からない。
計画性のなさ、思いついたことをすぐに実行に移してしまう自分の頭の悪さに未来は苦笑してしまう。
その表情で未来が何を思っていたのを悟った諌見は、未来の背中を軽く叩いた。本当は肩を叩きたかった諌見だったが、小学生の身長では未来の肩は叩けない。
「未来先輩は頑張ってるよ。だから落ち込まないで」
「うん。ありがとうね諌見ちゃん。でも、もっといい方法があればなーって……」
「反省は全てが終わってからにしようよ。それよりも早く明日香先輩を探そう?」
「……うん、そうだね!」
諌見と手を繋いで、未来は高校の敷地内を歩いていた。明日香はどこにいるのだろう。もしかしたら、すでに真琴と一緒に家に帰ったのかもしれない。だとしたら、ここを探すのは無駄なのだろうか。
……ダメダメ。そうやって考えもなしに行動するといいことない。今はこの場所を探さないと。
気を取り直して、明日香のいそうな場所を探す。とりあえず、未来は明日香と真琴の教室へと向かうことにした。校内に小学生は入れない。そう思った未来は諌見の手を離した。
「私、ちょっと明日香ちゃんの教室見に行ってくる」
「……あ、そっか。小学生が入っちゃダメだよね」
「ごめんね諌見ちゃん。校舎の裏で待ってて」
「分かったよ、未来先輩」
そう言って、未来は学校の中へと入っていった。諌見を長く待たせるわけにもいかない。駆け足で教室へと向かう未来。幸か不幸か、明日香は教室で友達らしき人物と喋っていた。一つの机を隔てて、合計三人で話している。
話しかけようとして、未来は少しためらってしまった。この間の彼女とは、良好とは言いがたい関係になってしまったからだ。未来は深呼吸して、明日香の近くに向かった。
「あの……明日香、ちゃん?」
声に呼ばれて後ろを振り返った明日香は、未来の顔を見て明らかに不機嫌そうな表情をした。彼女のそんな表情を未来は悲しく思った。
「何? 私になんか用?」
用がないのに話しかけるわけがない。そうツッコミを入れたかった未来だったが、状況が状況ということもあり、空気を読んだ。
「ちょっと来てくれないかな? 真琴ちゃんのことで話があるの」
こうすれば明日香は絶対に自分についてくるだろう。未来の思惑通り、明日香は真琴の名前を出しただけで表情を深刻なものにさせた。未来は彼女を学校の外へと誘導した。明日香はため息をつきながら、未来の後ろについていく。
未来は校舎の裏にある庭で立ち止まって、明日香を見つめた。未来を見る、明日香の目は冷徹で敵対をしている。
「……で、用件は?」
「明日香ちゃん。思い出してよ。あなたの心は悠太君で、本当は小学生だったじゃない」
未来の言葉に、怪訝そうな表情をして明らかにバカにしたような笑いを吐き捨てた。
「バカじゃないの? 何で私が小学生なのよ。それと、悠太君の名前をどっから知ったの? もしかして、ストーカー?」
「明日香……先輩」
その時、物陰から諌見が現れた。急に新たな登場人物が現れたことに明日香は驚く。だが、彼女はそれよりも何故この小学生が高校にいるのか気になった。
「誰? どうして小学生をここに入れてるのよ」
「う。面と向かって言われると凹むね。未来先輩の気持ちが分かったかも……」
気持ちが沈んだ諌見だったが、すぐに気持ちを取り直して明日香の記憶を呼び戻そうとする。
「明日香先輩、本当に私のこと覚えてないの? きっと知ってるはずだよ」
全てを見通しているような未来の瞳が、明日香は気に食わなかった。自分の知らない自分を知っているというような態度。それが明日香の性格では苛つかせてしまった。
「……アンタも悪趣味ね。こんな小さな子を脅してこんなことさせて……最低」
怒りの矛先は未来へと向かう。それもそのはず、明日香は、目の前にいる小学生は未来に無理矢理やらされているものだと勘違いしているのだ。
未来は必死に否定するが、他人になっている明日香が信用しようとするほうが難しいかもしれない。
明日香は依然として未来への心象を悪化させていた。再びため息をついて、明日香は踵を返して歩き出した。
「下らない。それだけのことで私を呼んだわけ? 帰るわ」
「待ってよ明日香ちゃん! お願い、話だけでも聞いて!」
「聞けるわけないじゃない。そんな小学生を使ってまで聞かせたい話なんて、私は聞きたくない」
「そんな……」
「じゃあね。どこぞの小学生ちゃん。あなたもこんな変人に付き合わない方がいいわよ」
明日香の記憶を取り戻すことはできないのか。未来は地面に膝をついてがっくりと項垂れた。
「私なんかじゃ駄目だって言うの……? 仲間を救うこともできない人間なの?」
「落ち込まないで未来先輩。私は未来先輩のおかげで記憶が戻ったんだよ!」
諌見はそんな未来に駆け寄って必死に励ます。しかし、未来には何の慰めにならない。
「でも……このままじゃ真琴ちゃんも救えない……。そんなの……イヤ……」
明日香が遠くなっていく。しかし、そんな明日香を呼び止めた存在がいた。それは未来がよく知っている人物、奏だった。
奏は明日香の顔を見て、それからニヤリと怪しい笑みを浮かべた。




