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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第三章
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諦めない心

 決意を新たに固めた未来は自分の教室へと向かって椅子に着席した。兎にも角にも作戦を立てなくてはいけない。そう思った未来は本日の授業を全てすっぽかすことを決めた。

 ノートを取り出して、周りの目線も気にせずに自分が知り得ている情報を書き込んでいく。


「奏ちゃんは男の子が大嫌いになった。女の子には弱い……か」


 一見、奏は元に戻ったと思われる。しかし、前の奏はあくまで男の子を苦手としているだけで攻撃的ではなかった。しかも、恋愛対象が女の子へと変化させられている。


「明日香ちゃんは……どうなんだろう? あれが本来の明日香ちゃんなのかな」


 明日香は真琴を守る、まるでナイトのような存在になっていた。あれは悠太の人格ではない。さらに、悠太が頭痛を起こした時とも違う。


「そして……」


 未来は真琴について書こうとし、手を止めてしまう。一番変化の大きかった人物。未来にとっては直視したくなかった現実。だが、情報をまとめるためにも、未来はペンを持ち直して書き始めた。


「今は女の子の状態で暮らしてる。それが、真琴ちゃんが心の中で望んでたこと……。真琴ちゃんの本心……」


 本当にそうなのだろうか。あの時は催眠術師に言わされていたのではないか。

 そう思った未来だったがすぐに否定した。

 私が見た限り、あれは真琴ちゃんの本当の気持ちなんだ。じゃあ、目を覚ますのは一番むずかしいのかな?

 未来はため息をついて、ペンをノートに落とした。ポトンと音のない衝撃が未来の耳に響く。ノートに書かれた情報は未来の気持ちを沈ませるものばかりだった。

 そんな未来が教室のドアが開いた音を聞いたのは偶然かもしれない。そして、ドアに無意識に目を向けたのも偶然だった。


「え? どうして……?」


 その奇妙な偶然が、未来を驚かせた。教室へと入ってきた人物は和島――催眠術師――だったからだ。

 彼はこの場に相応しい格好、つまり学生服を着ていた。彼が教室という聖域に侵入した途端、教室中は女の子たちの黄色い声に包まれた。まるで目をハートにしながら和島に近づく女の子たちは、取っ替え引っ替え和島に近づいては挨拶を交わしていた。

 和島の方も爽やかに女の子たちに挨拶を送る。それだけでも、女の子は頬を赤らめていた。

 確かに、顔立ちは未来が見ても整っているとは思う。しかし、そこまでの人気が出るまでは考えにくい。未来はこの現象も和島の持つ催眠能力だと断言した。

 未来は注意深く和島の動向を監視する。和島の方は未来に見向きもせず、自分の席と思われる場所で椅子に腰掛けた。

 その後、未来は四時間目の授業まで和島を監視していたが、特に怪しい行動もせず授業を受けていた。まるで、最初から未来のクラスメートに所属しているかのような振る舞いで。

 和島の登場により、未来にも分かったことが一つだけあった。それは、未来の周りに寄ってくるクラスメートが男の子しかいないということ。思い返してみれば、昨日から女の子は誰一人として話しかけてくれなかった。

 それもそうだ。和島――イケメン――という存在がいれば、女の子はそちらになびくのが普通だろう。

 結局、尻尾を出さない和島に未来は自分から仕掛けることを決める。昼休みになると、未来は一目散に和島の元に向かった。クラスメートの前ということもあり、未来はまだ作り笑いをしていた。


「あの、和島君」


 和島は未来に話しかけられると、他の女の子にも送っていた人の良いスマイルを向けてくれる。


「何だい、神野さん」


「ちょっとお話があるんだけど……一緒に来てくれないかな?」


「オレが? ああ、いいよ」


 和島は意外にもあっさりと承諾して、教室から出て行った未来を追った。

 未来は屋上へと来た。ここならば、ある程度は二人きりで話せるだろう。未来は屋上に誰もいないことを確認して、本性を表した。


「……和島、どうしてアンタが私のクラスにいるのよ?」


「君がイレギュラーだからだよ、神野未来。どうしてオレの催眠が効いてないんだ?」


 答えは出せない。何故自分が効かないのか、それは未来にも分からないからだ。

 それを強情だと受け取った和島は未来に襲いかかった。未来は和島に押されて壁に叩きつけられる。逃げ場所はない。


「まったく……余計な手間は掛けさせないでくれ。じゃあ、もう一度掛けてあげよう」


「……っく! 離してよ!」


「ほら、このライターを見るんだ」


 そう言った和島はライターを取り出し、着火した。ゆらゆらと揺れ動く火の動きが催眠へと誘導していく……はずだった。

 しかし、未来は全然眠くならないし、心を和島に預けたくなる気持ちも湧き上がらない。

 未来は全力を尽くして和島から離れて距離を取った。


「どうしてだ神野未来。お前だけオレの催眠術が効かないなんて……」


「フッ……。真のTSF好きには催眠術なんてものは効かないのよ」


「フフフ……面白いじゃないか。やっぱりお前はイレギュラーだ。だが、たかが催眠術が効かない一般人に何ができるというんだ?」


「……友だちを助けることくらい、一般人でもできるわ。私はアンタを倒すために、もう一度真琴ちゃん達の記憶を取り戻してみせる」


「やってみろ。お前じゃ無理だ」


 そんなことない! 出来るわ!

 未来は歯ぎしりを立てながら、和島を睨みつけて屋上から去っていく。

 和島がこの学校にいるなら、まずはここにいない諌見ちゃんから目を覚まさせるしかない。こうしちゃいられない。

 未来は午後の授業のことを忘れて、すぐさま小学校へと向かっていった。

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