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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第三章
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マインド・コントロール

 和島の異様な雰囲気に、今まで黙っていた真琴だったが遂に行動を起こす。女の子の姿へと変化して、未来をかばうように前に出た。それから、未来に向かって小さく呟いた。


「未来、俺が隙を作る。そのタイミングで逃げろ」


「真琴ちゃん……」


「催眠くらいなら、俺だって聞いたことがあるさ。要は諌見と明日香と奏が操られてるんだろ? 力のない未来は人質になる危険性もある。四対一じゃお前を守れる自信がない。だから逃げるんだ」


 四対一。さらに絶望的になってしまうワードを真琴は口にした。

 未来を納得させたと心の中で思うことにした真琴は一目散に和島たちへ向かっていく。和島に一発パンチをおみまいしてやろうと思った真琴だったが、それは飛び上がってきた奏によって防がれてしまった。


「……ダメじゃない真琴くん。和島を攻撃しちゃ」


「また戦うことになるのか。ったく、真面目すぎるから操られるんだよお前は!」


「ほらほら真琴先輩。奏先輩ばかり気にしてちゃいけないよ!」


 諌見は真琴に向かって蹴りを入れる。下腹部に当たった真琴だったが、小学生にしては衝撃の大きい蹴りつけに思わずうめき声をあげてしまう。

 奏は、諌見に向かって無数の鉄の剣を生成させて投げつける。諌見は念じて、奏から渡された剣全てに自分を憑依させた。

 空中に浮かぶ剣。今まさに、真琴の処刑を心待ちにしている。真琴は、自分の眼に反射する光が気になって天井を見上げて、苦笑した。

 これ全部襲い掛かってくるのかよ……。ひでぇなこれ。


「真琴先輩、下克上させていただきますよ!」


 諌見の合図で、剣が一斉に真琴に襲い掛かってくる。真琴はもちろん絶対変換領域の能力を解放させるが、疑問が浮かんだ。

 諌見はこのことを知っているはずなのに、何故こんな真似をしたのだろう。

 持ち主の記憶には制限が掛かっている。これが和島の催眠能力の弱点だとしたら、どこかで勝機があるかもしれない。

 真琴は心の中でかすかな希望を見出しながら、絶対変換領域を発動させた。

 剣は真琴の近くまで来ると、スポンジ状になっていく。それに当たった真琴がダメージを受けるはずはなかった。


「ほう……やるじゃん真琴先輩」


「お前は知っていたと思ってたんだがな」


「……だったらこれはどう!? まこ兄!」


 真琴の能力と相性の良い、明日香が襲い掛かってくる。明日香は鞭を振り回して絶対変換領域の中へ侵入した。すると、鞭は鎖状に変化して真琴の体を引っ叩いた。鎖になっている鉄と鉄の擦れる音が耳触りにも真琴の精神を汚す。

 あっちを気にすればこっちが攻撃を仕掛けてくる。休みなき波状攻撃が真琴の体を疲弊させる。

 いつしか真琴は地面に膝を付けて、そこから動けなくなってしまっていた。


「真琴ちゃん!!」


 まだ逃げていなかった未来が真琴に駆け寄ろうとするが、奏が彼女をはがいじめにしてしまう。どんなに力強く抵抗しようとも、奏は人形の如く彼女を離さなかった。


「く……う……」


「そろそろ限界かな? 佐伯真琴よ」


「和島……テメェは俺が許さない……!」


「そうかな? やがてお前はオレに感謝するようになる」


 そう言うと、和島は真琴の傍に寄ると、紐で括り付けられた手のひらサイズの鉄球を見せつけた。

 和島は紐を持ってゆらゆらとゆっくり鉄球を揺らす。右に、左に交互に揺れ動く鉄球を、真琴は何故か真剣に見つめてしまっていた。


「お前は次第に意識が薄れていく。そうだ、奥深く、お前の深層心理にまで深ーく入っていく」


 うめき声を出しているが、真琴は抵抗せずに和島の言葉を受け入れてしまっていた。


「今、君は夢の中にいる。そこでは全ての質問に正直に答えてしまうのだ。いいね?」


「あ……はい……」


 元は男の体なのに、今は女の体か。

 和島はそんなことを考えながら、質問を始めていく。


「何故、君はこの能力を手放さない?」


「……大切な仲間との記憶を消したくないから」


「そうかな? もっと深くまで自分の意識を探るんだ。真実の理由があるはずだ」


「……あ、明日香に告白されたのに、俺はそれを拒否してしまった」


「ほう?」


 興味深い話だ。ぜひ聞かせてもらおう。

 和島は真琴の体を引き寄せて、さらにリラックスさせていく。


「心が痛かった。明日香とは友達でいたかったのに、あれからおかしくなってしまって……。もし、自分が女の子だったら、こんなことはなかったんだろうって思ってて……」


「真琴ちゃん……」


 それが、真琴ちゃんが能力を持った理由だったんだ。

 未来は真琴の深層心理に触れて、初めて明日香に対する罪悪感が大きいことを理解した。

 それを聞いた和島は真琴を安心させるための甘言を提案する。


「辛かったんだね。だったら、もう一生女の子になればいいんじゃないか? 君の好いている神野未来や相田奏とは、男の子でなくても仲良くなれるだろう?」


 深い催眠状態に陥っている真琴は和島の提案をすんなりと受け入れてしまった。


「性格も変えた方がいい。今まで強気だったのを、物凄く弱気になれば、明日香は君を守るために行動する。つまり、明日香は常に君を傍に置き、君は明日香を常に求めるようになる」


「ダメ真琴ちゃん!! そいつの言葉に惑わされないで!! あなたまでいなくなったら……私……!」


「邪魔しないでもらえるかな神野未来? 後で君にも催眠をかけてあげるよ」


 大方の催眠を終わらせた和島は真琴から離れた。そして、未来へと足を伸ばす。

 奏に捕まっている未来は依然としてキツイ目を和島に向けていた。


「誰が……アンタの催眠にかかるもんですか!」


「そんな言葉も後数分で聞けなくなると思うと残念だよ神野未来。それじゃあ、催眠開始」


「う……! くぅ……!!」


 ――負けたくない! こんなヤツに……!!

 この日、真琴たちは敗北を知り、全員和島の手に堕ちてしまった。

 しかし、たった一人だけ和島の催眠から逃れた者がいた。その者の名前は――

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