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肝試しに行こう!

 諌見は例の時間になる前に、真琴たちに相談することにした。彼女は高校へと向かい、真琴たちを呼んだ。深刻な表情をしている諌見だったため、仲間はすぐに集結した。

 真琴と未来が集まり、そして偶然にも部活がない奏が一番最後にやって来た。

 相変わらず真剣な表情をして言葉をためらっている諌見に、奏は優しく声をかけた。


「諌見ちゃん、大丈夫だよ。ここのみんなはどんな悩みだって受け入れるから」


「そうそう! お、まさか女の子としての自覚が出てきたからお風呂に入りづらいとかってやつ?」


 諌見は首を横に振って否定した。未来は「ちぇー」と言いながら唇を尖らせる。

 もう、話すしかない。集まってくれたんだもの。何も言わないのは卑怯だよ。

 諌見は意を決して、三人に話すことを決めた。空気を飲みながら、諌見は一言ずつゆっくりと喋った。


「実はね……一人肝試しすることになったの」


「……は?」


 奏と真琴は、もっと深刻な話題が飛んでくると思っていた。しかし、諌見の口から語られたのはなんてことないイベントの一つ。思わず、二人の息はピッタリとあって同じ言葉を言ってしまったのだった。

 しかし、未来の様子は二人とは違う。二人とは逆にテンションを上げて目を輝かせていた。


「おお! 一人かくれんぼか! あれは怖いよねー。お人形を用意しなきゃダメだけど誰か持ってる?」


「あのう……一人肝試し、だよ」


 理解していなかった未来に対して、諌見は眉をひそめていた表情をほぐして優しく訂正した。

 未来は再び「ちぇー」と言いながら唇を尖らせた。

 未来が大人しくなったことで真琴に発言権がやってきた。真琴は自分の耳に入ってきた諌見の言葉を一語一句繰り返すかのように呟いた。


「一人……肝試し……?」


 諌見は頷いて、事の顛末を話し始めた。

 怖い話を聞いて実際に怖かったこと。それを男子がからかったせいで自分が肝試しに行くことになったこと。

 それを聴き終わった奏は諌見の手を握って励ますように瞳を潤ませていた。


「うん……うん……そうだよね。怖いのは怖いよね。私もね、そういうのちょっと苦手で……」


「奏。一応言っておくが、諌見の心の中は俺たちと同じとし――」


「何?」


 奏は言いかけた真琴に対して笑顔を向ける。それは心の内に秘めている怒りを抑えきれないというような暗い笑みだった。真琴はすぐに言葉を噤んで手のひらを口に当てた。


「いや、何でもないです」


 真琴が黙ったら次は未来が行動を始める。奏に対して勝ち誇った笑みを浮かべ、腕を組んで明らかに見下していた。


「ほーん……そうかそうか」


「な、何よ未来」


「さては怖いよーアピールで女子力を上げる魂胆なんでしょう!? ミエミエなんだから」


「……は、恥ずかしいけど本当に怖いのよ」


 顔を赤らめて未来を視線から外しながら少しふてくされたように言った奏。諌見はそんな彼女を可愛いと思ってしまった。

 もしかしたら、奏先輩と一緒に行けば大丈夫かもしれない。

 本来ならば呆れている真琴か、何故か誇らしげな雰囲気を醸し出している未来に頼むのが普通だと思うが、諌見は同じ悩みを抱えている奏を頼ろうとしている。

 未来はウンウンと頷きながら奏に近づき、彼女の肩をポンポンと叩く。完全に彼女は奏を下に見ているようだ。


「よしよし。分かった分かった。んじゃみんなで行こう!」


「う……うん!」


 やった。奏先輩だけじゃなくて、真琴先輩と未来先輩も来てくれるんだ。

 諌見は未来という素晴らしい先輩を尊敬し、心の底から礼を言った。同じくウキウキになっているはずだと思った諌見は奏に話しかけようとする。しかし、彼女の表情を見て諌見は言葉を失った。

 奏は未来のその提案に衝撃を受けていた。目を丸くして未来を凝視する奏は、彼女に向かって低い声を出して反論していた。


「……私が怖いっていうのをご存知でしょう?」


「うん。わざと」


「みらあああああああい!」


「ヤバイ! 眠れる獅子を目覚めさせてしまった!!」


 奏は男の子に変身して木刀を持って未来に襲いかかる。彼女の暴走に全速力で駆けて逃げていく未来を見ながら、真琴はため息をつきながらも平和な時だと安心した。


「……ま、平和が一番か」


「真琴先輩は怖くないの?」


「ああ。嘘に決まってるからな。大体、ポルターガイストなんて諌見ちゃんの能力でしか見てないよ」


「た、確かに私の能力は少し幽霊的だけど……」


「な? だったら怖がる必要なんかないだろ」


 確かに真琴の言う通りだが、諌見は何故か腑に落ちない。モヤモヤした気持ちを心に抱きながらも、諌見は未来と奏の追いかけっこをジッと見ていた。


 奏が未来を一発ブッたことで鬼ごっこは終了し、真琴たちは諌見の通う小学校へと来ていた。

 辺りはすでに夕暮れで、暮れた太陽が小学校をだいだい色に染め上げていた。しかし、その色も次第に黒へと塗り替えられていく。

 そんな、雰囲気バッチリの時間帯に四人はグラウンドに立っていた。

 未来がA4の紙を広げて真琴たちに見せた。その紙にはあみだクジが描かれている。


「さてと。ただみんなで行ってもつまらない。やっぱり肝試しと言えばペアでしょう! というわけでさっそく作ってみましたー」


「お、用意がいいな。じゃあ俺から選ぶか」


 真琴、諌見、奏の順にあみだを選び、最後に未来が残りを選んだ。未来がニヤニヤとしながら、あみだを進めていく。その結果、ペアは真琴と未来、奏と諌見に決まった。

 怖い派と怖くない派にきっぱりと分かれてしまい、諌見と奏の足は心なしか震えていた。

 しかし、奏だけは強がっている。腕組みをしながら強気のセリフを吐き捨てた。


「ふ、ふん。やってやろうじゃない。肝試しぃ? らっくしょうよこんなの」


「奏、お前恐怖でキャラが若干ブレてるぞ」


「あんな怖がりはほっといて、早く行こうよ真琴ちゃん」


 元気な未来は真琴よりも先に校舎の中へと入っていく。真琴は諌見に写真を撮ってくる場所を聞いてから、小走りで未来を追っていった。

 とうとう怖がりの二人きりになってしまった。奏は二人の影が見えなくなった後、へなへなと地面に座り込んでしまった。


「どうしよう諌見ちゃん……私、怖いよ……」


「だ、大丈夫だよ奏先輩! 私も怖いから!」


 何が大丈夫なのだろうか。何の励ましにもなってないと諌見はすぐに気づいて、二人の間には変な空気が流れてしまった。

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