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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第二章 後半
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作戦失敗

 作戦が失敗した。それは、諌見にとって死を意味するものとなる。未来に憑依できないのはまだ良かった。彼女の存在さえ居なくなれば、挽回するチャンスはいくらでも作れたからだ。しかし、奏を手放してしまったことは痛手だった。

 再び憑依しようにも対策が立てられるだろう。そして、奏は諌見の予想以上に意思の強い人間だった。また憑依するならば精神的なショックを与えなければ無理だろう。

 諌見は学校の敷地内を歩いて校門へと向かっていた。この状況ならば走っていきたいところだったが、奏の憑依が解けた影響で奏の痛みがそのまま諌見にもトレースされたことが原因だった。高校生の奏で、剣道という部活をしている奏ではある程度耐えられる痛みは、小学生で体も鍛えてない諌見にとっては激痛そのものだった。


「フッ、これからどうすればいいのかな……?」


 目から零れ落ちる涙は自分の母が始末されてしまう悲しみか、それとも腹部の痛みか。

 よろよろと歩いている諌見はやっとの思いで校門前に辿り着くことができた。あと少しでこの高校から逃げられる。そう思った諌見は安堵した。

 しかし、校門前には諌見の母を人質に取った女性の姿があった。スーツ姿の女性は諌見に向かって眉間にしわを寄せて不愉快な表現をしていた。身長差があるため自然と見下すような体制になってしまっている。


「あらあら? 奏はどうしたのかしら?」


「奏は……真琴のせいで目を覚めてしまった」


 嘘を言っても意味が無い。諌見は覚悟を決めて全ての真実を話した。

 女性は肩をすくめて胸ポケットから自動小銃を取り出した。その意味するものは、諌見は大方察しがついている。

 自分を始末するのだろう。もう、母さんには会えないのか……。あと、ごめん諌見。俺、お前にちゃんとした生活をさせてやれなかった……。

 女性は諌見の額に銃口をくっつけてニヤリと笑った。


「残念ね。有望な人材だと思ったんだけど」


 すぐには殺さないのか、女性は銃口をつけただけで何もしない。諌見にはその時間が永遠に感じられてしまう。引き金一つで生きているこの状況。覚悟していた諌見も時間が経てばその鉄壁の想いも簡単に崩れ去っていく。

 覚悟はしてる……してる。でも……でも死にたくない! 俺は、諌見に幸せになってもらわないとダメなのに! こんなところで!


「……や、やめてくれ。俺は……し、死にたく――」


「ざーんねん」


 命乞いをした瞬間に女性は引き金を引いた。

 諌見は目を閉じて死を覚悟した。……しかし、諌見の意識はまだ続いている。恐る恐る目を開けると、女性は拳銃を回しながら冷たい笑みを浮かべていた。


「これはおもちゃだからあなたは死ねない。だけど次は本物の銀の弾丸をぶち込んでやるからそのつもりで」


 額に引っ付くものが気になって手を伸ばす諌見。すると、自分の額に吸盤でできた矢が刺さっていた。諌見は矢を引っこ抜いてその場にポイ捨てした。


「まだ俺を生かすというのか」


「ええ。こっちも人材不足で困ってるからね。ただ分かってほしいのは、あなたの命は私が握ってるってこと」


「母さんは無事なんだろうな……。俺が、奏や真琴を始末すれば、無事に返してくれるんだろうな!?」


「それは約束するわ。私は約束を守る人間だから。ああ、でも奏だけは殺さないようにね。彼女の能力はとても使い勝手のいいものだから」


 すでに死の恐怖とかけがえのない存在を捕らわれてしまった諌見は女性の言いなりになるしかない。今までは奏や真琴ともしかしたら話が出来るかもしれないと思っていた諌見の心も崩壊し、彼らを始末していつも通りな生活を送りたいという気持ちのみ強くでていた。

 第一、奏や真琴が生きているから俺が狙われるんだ。だったら、あいつらを殺せばいい。もう、俺には迷いはない。

 完全に迷いを捨て、殺人鬼へと変化してしまった諌見を止められるものはいるのだろうか。


「……いた!」


「あら、見つかったみたい。じゃ、後は頼んだわよ」


 奏の姿を確認した女性は全てを諌見に託してそそくさと立ち去っていった。

 不運にも、奏の立ち位置から女性を見ることはできなかった。奏には諌見が一人で校門前で立ち止まっていたようにしか見えなかったのだ。

 諌見を発見した奏は明日香と未来に連絡を取る。

 奏の中に希望があった。諌見を説得すれば戦わなくてもいい。この間の人質の件を聞いてしまえば、本当は戦いたくないということが理解できる。それに、マジメに戦っても相性の悪い奏の能力では太刀打ち出来ない。


「諌見ちゃん……。お願い、戦いを止めて」


「……この間も言ったでしょう? 無理なんだよ」


「いいえ、そんなことない。お願い、話を聞かせて。私だって前まで――」


「俺はお前たちを殺さなきゃならねーんだよ!!」

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