作戦会議
奏に自分の心を写すことに成功した諌見は奏を連れて自宅へと戻っていた。家に戻るまでの道のりで、諌見は奏と手を繋いで歩いていた。傍から見たら、仲のいい姉妹と思われただろう。どちらかを知っている人間ならば、親戚の子だと思ったかもしれない。
心は同じ諌見なため、両方とも何をしてもらいたいかは自ずと理解できてしまう。その理解を生んだのが、手つなぎだった。いや、どちらかというと諌見の体が望んだことだったのかもしれない。大人と手を繋いだ安心感を確かめたかった。それを無意識に欲していたのかもしれない。
家の前についた諌見は手つなぎを止めて、ドアを開ける。奏は諌見が中に入ってから遠慮なく侵入してくる。
そんな二人を迎えてくれたのは、諌見の母を人質にとっている女性だった。諌見の母は未だに女性の監視下にあるため、女性はこの家に居候しているのだ。
女性は諌見に向かって笑顔を振りまき、そして奏に手を振った。
「お帰り。どうやら作戦は成功したようね」
「……ああ。次はどうするんだ?」
「それよりも、奏をもっとよく見せて」
女性に言われた奏は、仕方なく女性の元へ歩いていく。心は諌見なため、目つきを強めて彼女の動作に警戒していたが、女性は奏を抱きしめ、頭を優しく撫でた。その包容力に呆気にとられた奏だったが、悪寒が走りすぐに女性から離れた。
「止めろよ気持ち悪い。俺はお前の母じゃないんだぞ」
「いやー、あまりにも可愛かったからついね」
「ついって……まさかアンタ」
「それ以上言うと、あなたのママは死ぬけどいい?」
そこまで言われれば諌見も口を閉じるしかない。余計なことは言わない方がいいと、諌見は女性に対して思った。
女性は咳を一つして、おかしくなった場の空気を元に戻す。それから、女性は奏を抱きしめながら言葉をしゃべった。
「次は……別の能力者だね。できるかな?」
「無茶言わないでくれ。能力者は一人が限界だ。後は一般人だけだ」
「ふむ……」
女性は奏の頭を撫でながら考え事を始める。
出来るなら能力者が良かったけどまあいいか。真琴の近辺で親しい一般人は一人いるし。
そう考えた女性は自分が思い描いていた予想図を修正し、新たな計画を諌見に伝えた。
「それじゃあ、次はこの娘ね」
女性は再び写真を諌見に投げつける。今度はちゃんと受け取った諌見が写真を眺める。そこには、奏とは違う女の子の姿が映っていた。
おしとやかでみんなから愛されていそうな笑顔をしている女の子を、諌見はどこかで見たようなデジャヴを感じた。
いつ見たんだ? そうだ。確か、奏と一緒に武道場へ行くときに……。
「で、この子の名前は?」
「神野 未来。奏と同じ高校生よ。見たかもしれないけど、同じ高校にいる」
「なんとなくは、見覚えがある」
しかし、諌見が記憶していた未来と、写真の未来は何かが違うような気がしていた。
あの時の未来は、もっとはっちゃけてたような気がしてならないのだ。だが、自分の見間違えだろう、気のせいだろうということで諌見は自分の心の奥へと仕舞い込んだ。
写真を見つめ、諌見は再び罪悪感に苛まれる。
次の犠牲者はこの人か……。本当にすまない。
「未来を奪い、奏と諌見で真琴に戦いを挑む。苦戦しそうになったら未来を出して彼の戦意を破壊するのよ」
「結構エグい作戦を考えるもんだな」
「どういたしまして。真琴にはそろそろ死んでもらって欲しいからね」
写真をポケットに仕舞いこんで、諌見はため息をつく。
いつまでこんなことすればいいんだ。いつになったら、母は救えるんだ。
諌見の諦めきった表情を見て、女性は彼女を元気づける言葉を選んだ。ここで意気消沈してしまっては計画が無駄になる。メンタルケアも、リーダーには必要なのだ。
「安心しなさい。この戦争が終われば自由になれるから」
「……本当か? 俺には嘘をついているようにしか思えない」
すでに女性との信頼関係は皆無になってしまった諌見は女性を睨みつけて威嚇をする。こんなことをしても、母は戻ってこないことは諌見が一番分かっている。
……とりあえず、明日だ。明日、真琴を始末すればいい。そうすれば状況も良くなるはずだ。
「お風呂入っていいかな。なんかこの体くたびれちゃってさ」
奏がセーラー服の襟をパタパタさせながら体に風を送っている。
「じゃあ、おれ……私も入るよ」
女性と話しているうちにいつの間にか口調がおかしくなっていた諌見は、それに気づいて元に戻した。




