二人が元に戻ったぞ
「いやー、元に戻って良かったよー。何だかんだ言っても、自分の体が一番だね」
「そうだね。ちょっと残念だったけど」
冷静沈着な姿は鳴りを潜めてようやく本来の姿を取り戻した未来と、再び物静かで大人しい姿になった奏が、自分の体に一喜一憂していた。
「無事に戻って安心したぜ……ホントに」
「真琴くん。心配してくれてありがとう」
「ああ……」
やっと奏の照れくさそうな溢れるほどの笑顔が見れて、真琴も優しい笑みを向けた。
奏と真琴のいい雰囲気を醸し出しているが、気に食わない女の子が一人いた。未来は二人の間に割って入って腕を伸ばして二人を遠ざけようとする。
「未来、邪魔しないでよ」
「ふーん、だっていい感じなんだもーん」
「そんな理由でかよ!」
「だって卑怯じゃん! 二人とも女と男の両方に変身できるなんてさ! どんな組み合わせでも健全なんだもの!!」
「え……? あ、ああ……」
よく考えてみると、未来の言う通り……ってアホかー!
一瞬良からぬことを考えてしまった真琴は未来に向かって怒る。
「そんなに本気にしなくてもいいじゃん! 真琴ちゃんは私のものなんだからさ!」
「このアホ! お前のものじゃねー!」
奏は二人のやりとりから離れてずっと黙っている明日香を見つめた。
すると、彼女たちを元に戻した明日香はスカートの裾を握りしめながら、悲痛そうな表情を見せていた。
「未来さんに奏さん、ごめんなさい。僕、酷いことを……」
奏が先に未来を見つめ、それから未来は奏を見た。
明日香は怒られると思って目をギュッと瞑る。心なしか、スカートを握っている手も震え始めている。
しかし、奏は優しい顔つきになって明日香の頭にそっと手を乗せた。
「大丈夫、怒らないよ。ねえ、未来」
「まーね! 貴重な体験をさせてもらってこっちが礼を言いたいくらいだからね!」
「……え?」
いつも通りの変態ぶりをかました未来を見て困惑している明日香は、思わず言葉を失ってしまう。
そんな明日香に、奏は呆れ顔で未来を指差した。
「あー、この人は少し頭おかしいから気にしないで」
「ちょっとちょっと! 男の子に変身して部員をいじめてた人に言われたくないなー」
「なっ! だからそれは……!!」
奏は未来の煽りに反応して視線を未来に移して口論を始める。
いつものじゃれ合いが始まって、真琴はため息をつきながらもいつも通りの二人が戻ったことに心からほっとしていた。そして、二人を見て呆然としている明日香に話しかけた。
「あいつらはいつもああなんだよ。気にするな」
「そうなんだ……」
「違うってば!!」
「いぃ!?」
二人はタイミングよく真琴に向かって叫ぶ。たじろぐ真琴。
未来と奏は標的を真琴に変えて、それぞれ言いたいことをしゃべり始める。二人をなだめようとするが、真琴が何かを言うたびに未来と奏がそれに反論する。
明日香は仲のいい三人を見て、自然と笑みが零れた。
その光景を隠れてみている女性の影が一つあった。その影は絹の糸のようなしなやかさをもった黒髪をなびかせながら、スーツ姿で三人を監視していた。
「あの三人は戦わない……か」
あの男の言ったとおりか。真琴は奏を守るために戦っている。そして、明日香とも戦わずに救っている。
どうしたものか。このまま戦わずに停滞すれば、いずれアサーショナーがしびれを切らしてしまうだろう。
そう思ったその時、電話が鳴り響いた。女性はため息をついて電話にでる。
「どうだ? TSFは一つに決まりそうかな?」
声の主は優しくも威圧感のある声色で女性に話しかけた。
とうとうしびれを切らしたか。いつかこうなるとは思っていたが、こうも早いとは……。
女性はそれに恐れながらも事実をありのまま伝えた。
「いえ、全く。それどころか、戦いは停滞しそうな雰囲気です」
「ほお。それは困るな。それでは私の計画が進まないではないか」
「……私が何とかすると?」
「そういうことだ。新たな能力者を補足した。そいつを使え」
そういうことか。……新たな能力者を見つけて戦いを加速させる。
女性の脳内に新たな能力者の姿と場所が流れ込んでくる。小さな女の子に、小学校のような建物が見えた。恐らく、真琴と接点のない人物だろう。女性は思わずえくぼを作ってしまった。
「では、吉報を待っているよ」
「分かりました」
電話を切断した女性は体を翻し、神社から離れていった。




