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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第二章 前半
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入れ替わりは突然に

「一人目、ゲットっと」


 明日香は気絶した奏を投げつけて大木に張り付けた。もちろん、腹部に刺さった赤い鞭はそのままに。

 明日香の攻撃にショックを受けていた真琴は、奏が意識を無くしてようやく目を覚ました。


「かな……で? な、何だよ。何が起こってるんだよ……」


「真琴、安心して。あなたを狂わせてたあの女は私が始末してあげる」


「明日香……お前がやったのか……」


「うん。次は……っと」


 明日香が向ける視線の先。それは未来へと向けられている。未来は冷や汗をかいて、さすがに焦りを見せている。


「か、奏ちゃんはどうなったの……?」


「さあ? 死んじゃったかもね」


「これにはさすがの私も逃げることを考えたいんだけど……」


「ダーメ。貫かれちゃいなよ」


 未来にも明日香の鞭が襲う。鞭は動けない未来の胸部へ真っ直ぐ向かっていた。

 しかし、その鞭は未来には当たらなかった。走ってきた真琴が未来に抱きつき、地面に倒れたからだった。

 間一髪で未来を助けることができた真琴は即座に立ち上がって自分の性別を転換させる。そして、明日香を睨みつけた。


「明日香……お前、能力者だったのか」


「そういう真琴も能力者だったんだね」


『能力者同士は惹かれ合う』

 かつての味方だった、ボロボロのコートをきた中年男性の言葉を思い出す。最近になって幼馴染の姿が見れたのは、その幼馴染が能力者だったから。なんて酷い運命のいたずらだろうか。真琴は再会を喜んでいた自分を悔しく思った。自分が明日香と出会ったために、白き怪物の出現頻度が上がっていたのだ。まだ人を襲っている姿は目撃してないが、もし白き怪物が人を襲うのだとしたら……。

 歯ぎしりをした後、真琴は明日香に問いかけた。


「もう止めてくれ明日香。俺たちはこんなことをする仲じゃないだろう?」


「真琴には分からないよね。だってさ、あの二人が私から真琴を奪ったんだよ。だからお仕置きは当たり前なんだよ」


「目を覚まさせてやる……俺がな!」


「できるならやってみなよ!」


 真琴はトランスサブデューフィールド――絶対変換領域――を発動させた。一回目はバッジが無ければ発動出来なかったこの能力も、真琴が願うことで自由に発動させることが出来るようになった。ただ、自分で思うように展開することはできず、時間が経たなければ解除もできないという不完全なものだが。これで鞭を無効化させようというのが真琴の考えだった。

 明日香の放った鞭が真琴を襲う。そして、鞭は真琴が発動させた半透明のシールドといえるトランスサブデューフィールドの中へと入った。瞬間、鞭は形を変えたが、その形は真琴にとってマイナスの変化となってしまった。鞭は鉄の鎖へと変化し、真琴の体にまとわりつく。鞭ならばまだ抵抗できたであろうことも、鉄の鎖では身動き一つとることができない。しかも、真琴の意思ではトランスサブデューフィールドを解除することができない。


「あれ? 何か形が変わったけどまあいいか。それじゃ、張り付けになって見ててよ」


「う……クソッ!!」


 明日香は奏と同じように真琴を別の大木へと張り付けた。これで、未来を守れるものがいなくなってしまった。未来は逃げずに、真琴が戦っている間に奏を助け出そうと奏が張り付けになってしまっている大木をよじ登ろうとしていた。

 その光景に明日香は思わず大笑いしてしまう。


「滑稽ね。逃げてれば良かったのにさ」


「悪いけどね、私は大事にしてるの」


「仲間を? それとも愛する恋人かな?」


「仲間? 恋人? 違うわ……TSFの能力をよ!」


 鼻で笑い、明日香は作業のように鞭を未来に向ける。途中まで登っていた未来は大木から飛び降りて一撃目を回避したが、二撃目は対処のしようがなかった。未来も奏と同じく胸を貫かれてしまう。奏と同様に眠気を発症させて、謎の快感に襲われる未来。彼女も何かを吸収されながら、目を閉じてしまった。


「未来……嘘だろ。目を覚ましてくれよ……!!」


「準備は整ったかな。見ててね真琴、これから面白いことが起こるから」


「何だと……?」


「スワップトレードスイッチ! なんてね」


 奏と未来を貫いた二つの鞭が独りでに動き出す。鞭はお互いを探し、触れ合って合体した。その瞬間、奏と未来の体が光を帯び始め、その光は鞭を通してもう一方の体の方に流れていく。光が交換しきった時、鞭はボロボロに崩れて消えていった。

 支えがなくなった奏は地面に力なく落ちていく。気を失っている未来も地面に横たわってしまった。


「何を……したんだ」


「真琴の恋人候補を潰したの。これで私だけを見ててくれるよね?」


「ふざけんな! クソッ、この鎖さえ何とかなれば……!!」


「色々混乱してるのもしょうがないか。じゃ、また会おうか。その時は冷静になって私のこと好きになってくれるはずだよね」


 明日香は後ろで手を組みながら、神社の階段を一つ、また一つと降りていった。

 トランスサブデューフィールドを発動しているため、未だに能力を解除できないでいる真琴。彼は倒れている未来と奏を見ているしかなかった。だが、それでも声だけはかけられるため大声で二人に呼びかける。


「未来! 奏! 目を覚ましてくれ!! 死んだんじゃ……ないよな」


 真琴の中で最悪の結末を想像される。未来と奏の二人の死。まごうことなく自分の責任だ。自分がトランスサブデューフィールドの力を過信し、安心しきっていたため起こった悲劇だ。


「俺が……守ってやれなかった……俺のせいだ……!」


 目を閉じて涙が自然と出てくる。だが、流した涙はある意味無駄になったのかもしれない。

 その傍らで目覚めた二人が居たからだ。先に目覚めた奏が頭を左右に振って意識を覚醒させる。周りを見渡して真琴の姿を発見すると、元気な声を出した。


「あ! 真琴ちゃん! さっきの幼馴染はどうしたの!?」


「か……奏? 生きてたのか?」


 変わらない姿といつもより元気な声で自分に呼びかけた奏を見て、真琴は目を開いて独り言のように呟いた。貫かれた腹部はなんだったのか、そんな痕跡など無かった。


「大丈夫だ。とりあえず、引いてくれた」


「そっか。って真琴ちゃん張り付けになってるの!? 女体化した真琴ちゃんが鎖に張り付けになってるとか……ハァ……ハァ。ダメよ私。今はシリアス一辺倒なんだから」


「……はい?」


 鼻を抑えながらゲスい笑みを浮かべる奏に真琴は明らかな不信感を抱いた。

 というか、この行動は真琴が生きている中で一人しかしないはずだ。なのに、奏がしているとはどういう意味なのだろうか。

 奏のこんな姿は見たくなかったと真琴はがっかりし、奏も未来と同じような人種だったことに大きな失望を抱いてしまった。

 俺は本当に見る目のない男なんだな……。


「奏。そんな変態な妄想は置いといて、俺を助けてはくれないか?」


 こんな妄想する奏でも俺を助けてはくれるはずだ。そう思った真琴は奏に向かって助けを乞うた。

 しかし、奏から発せられた言葉は真琴を混乱に貶めていく。


「へ? かなで? 私は未来ちゃんです」


 今まで自分の中に妄想を貯めこんでいたんだろうか。それが明日香の攻撃を受けて妄想のダムが決壊した。その結果、奏は自分が何者か分からなくなってしまった。

 奏は自ら胸を触って驚きの声を上げている。


「おわっ! 胸がない! 自慢のCカップが平たくなってるー!?」


「うるさいな。頭痛いんだからちょっと静かにしてよ……」


 未来が起き上がって自分の頭をさすっている。明らかに不満そうな声をしているのに、真琴は新鮮さを感じた。未来は不満を訴えることはあったがテンションはいつも高かった。それが今はどうだ。ため息をつき、呆れた表情をしている。

 未来は立ち上がって砂埃を払う。その時、ぼんやりと奏を見つめたと思ったら自分の目を疑うような素っ頓狂な声を出した。


「え!? ……わ、私?」


「へ?」


 未来の声に反応して奏は彼女の方に顔を向ける。すると、目をパチクリさせて首をかしげた。


「……ドッペルゲンガー? まさか幼馴染の偽物か!」


「ハァ!? そっちこそ偽物でしょうが!」


 奏の元へ走ろうとした時、未来は違和感を覚えたのか自分の胸部を見る。そこで立ち止まって、未来は自分の胸を手で掬った。感触を確かめるためにやさしくゆっくりと揉んでしまった。

 未来の口元が一瞬だけニヤリと釣り上がった。


「これが……本物の感触なんだ……」


「おーい! 私の胸を触らないでよ! ってかアンタ奏ちゃんでしょ!?」


「……なるほど、そういうこと」


 未来は何かを察したのだろう。しかし、未だに大木に張り付けられている真琴は何がなんだか分からないといったように唖然としていた。

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