衝撃の疑惑!? 真琴ちゃんは三股!
真琴の家の居間は、ただ今修羅場になっていた。真琴の父が仁王立ちで構え、真琴はその正面で正座になっている。真琴の後ろでは、怯えながら冷や汗を垂らす奏と未来の姿があった。特に奏は自分の父のトラウマもあるのか、眼に涙を浮かべて震えてしまっていた。
高校生であるにも関わらず、真琴は父の前で意気消沈してがっくりとうなだれてしまっている。情けない姿だったが、さすがの真琴も父には逆らえないのだ。
真琴の父は腕を組み、低い声で真琴に話しかけた。
「真琴……何故こんなことになっているか、分かるな?」
分からない。とここで言ったらどんな反応をするのだろうか。この緊急事態で真琴は現実逃避したいがためにそんなことを想像してしまう。だが、下らない妄想をしても現実は変わることはない。むしろ、それを実行してしまえば状況はさらに悪化することは明白だった。
真琴は素直に、そして反省の意を込めて発言した。
「はい……女の子とお付き合いしてしまったからです」
しかし、ここまで厳格な父だとは真琴自身思っていなかった。比較的自由な雰囲気を出していた父がここまで怒ったことなど今までで一度もなかったのだ。
真琴の父はため息をついて、腕組みを止めた。
「違う。俺はそんなことは言ってない。女の子と付き合うのは構わん。それ自体は大いに結構。だけどな真琴、三股はないんじゃないのか?」
「三股!?」
「後ろの二人と、あと明日香ちゃんがいるじゃないか。お父さんな、流石にそれはいけないと思うぞ」
「待て父さん! 明日香とはそんな関係じゃないぞ!」
「え? だって小さいときに言ってたじゃないか。『大きくなったら明日香ちゃんのお婿さんになる』って」
「本当に言ったのか……?」
真琴は自分の脳みそをフル回転させて過去の記憶を掘り起こす。しかし、何度考えてもそんな記憶が浮かんでくることはなかった。
え……? 父さんが嘘を言ってるのではないか。ハハハ、きっと嘘に決まってらぁ。
真琴は半笑いを始めて、自分の父に確認をした。
「ウソだろぉ。まさかとは思いますが、その記憶というのは、あなたの想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか」
「真琴君。衝撃の事実でちょっとヘンになってる……」
珍しくも、未来が真琴に対してツッコミを入れている。
乾いた笑いで場の雰囲気を壊していく真琴に、さすがの奏も涙を止めている。それどころか、真琴に対してジト目で睨みつけ始めていた。
「じとー……」
恋のライバルに未来がいたが、真琴は未来に対して呆れていたため余裕だと思っていた。しかし、幼なじみがいるとなれば話は別だ。それは新たなるライバルの出現を意味している。いや、ライバルではない。奏はすでに『負けている』のだ。真琴の父が言ったことが本当だとすれば、幼い頃からすでに婚約を交わしているということになるではないか。
婚約済みの幼なじみがいるにも関わらず、恥ずかしいセリフで自分を救った真琴に対して、奏は少し残念な気持ちが出てしまった。
「ほら真琴君。こっちに戻っておいで」
未来は未だに呆然している真琴に対して頭を叩いて蘇らせる。
「……ハッ! 俺は今まで何を……」
「真琴君。後ろを見なさい」
「え?」
正気に戻った真琴は、未来に言われて後ろを振り向く。すると、ジト目で自分を睨んでいる奏の姿があった。何故自分が睨まれているのか理解できない真琴は奏にいつもの調子で話しかける。
「どうしたんだよ奏。俺、何かしたか?」
「……した。すでに婚約相手がいたのに、私に手を出して、私を弄んだ」
「ブッ!! 落ち着け奏! 明日香とはそんな関係じゃない! 異性を超えた友情で固く結ばれてるんだよ!」
奏は、明日香という名前の人物は真琴の約束を覚えているはずだと確信している。何故ならば、女の子にとってそういった些細な出来事が宝物であり、かけがえのないフラグなのだと思っているからだ。
まともに男の子と接してない奏は乙女思考が少々強いのかもしれない。
自分の気持ちの整理がつかない奏は突然立ち上がった。
「真琴くんのお父さん。私と真琴くんはそんな関係じゃありませんから心配しないでください。真琴くんには立派な幼なじみがいますから、立ち入る隙がありませんよ」
奏は未来の手を引いて玄関へと出て行く。先ほどとは逆になってしまったが、未来もここにいる理由はなかったため抵抗せずに引かれていく。
そして、バタンと閉まったドアの音が真琴の耳に入っていった。それは二人が本当に帰ってしまったことを意味する。
終わった。俺の数ヶ月間が。
奏といい感じになれたのに、父という存在のせいで崩壊を迎えてしまったことに真琴はがっかりしてうなだれてしまった。
「ああ……おしまいだ……これで完全に奏から話しかけられなくなった……」
「何というか……悪かったな真琴。俺が変なことを言ってしまったからかもしれんが」
うん。父さんのせいだよ、全て。
真琴のハッキリしない態度にも問題があるが、真琴はこの場の嘆きを全て自分の父にぶつけた。




