疑問の提示
二人のテンションも落ち着きを見せ、口論はようやく終わりを告げた。ホッとした真琴は、先ほど現れた白き怪物について尋ねることにした。
「奏、覚えてたらでいいんだが、さっきの白い怪物……」
「うん。最近多いよね。今までだとそんなに出なかったのに」
そう。奏の言うとおり、白い怪物の出現頻度が多くなってきていた。これが意味するものとは一体。
最近の出しゃばりもそうだが、そもそも真琴たちは白き怪物の意味すら不明瞭である。これが白き怪物の正体に近づける一歩となればいいのだが……。
真琴は話し合いの場を設けたいと思った。白き怪物もそうだが、もし真琴と奏以外の能力者が出てきた場合の対処の方法も一緒に考えられればいいと思ったのだった。
「奏、ちょっと会議しないか? これからのことで」
「作戦会議? 私は別に構わないけど……」
「よし、じゃあ俺の家でやろう。両親は海外旅行中だからな」
「分かった。行こうよ真琴くん」
「はいはーい。私も行きたいなー」
奏は未来が関わってくるのを拒絶しようした。しかし、真琴はそんな奏を止めた。
真琴も未来には呆れていたが、奏の正体を突き止めたのは間違いなく未来なのだ。真琴は何もできず否定していただけだった。その功績からしても、未来も会議に参加することは有意義だと判断したのだった。
「むう……それならしょうがないか」
「やたー!」
全身で喜びを表現する未来に、真琴は彼女をちょっと可愛いと思ってしまった。
真琴の家に着いた三人は、真琴の部屋へと行って会議を始めた。三人とも別々の場所に座り込んで準備を整えている。
そして、真琴が提案したにも関わらず、何故か未来が指揮を執っていた。
「始まりました。第一回TSF会議。今回の議題はこちらだ!」
「そんな仰々しくやらなくてもいいぞ未来。んで、今回は白い怪物について、またはこれから他の能力者に出会った時どうするかだ」
「まず怪物についてなんだけど……私たちは何も知らないんだよね」
「ああ。俺は最初……」
話をしようと思った真琴だったが、一瞬奏の方に目を向ける。彼女に配慮するべきかどうか迷ったのだ。しかし、その視線を察した奏は無言で頷いて見せた。
「……最初、奏のお父さんが操ってたのかと思ってた。だけど、お父さんがいなくなっても白い怪物は姿を見せている」
「はい質問です! 真琴ちゃん、奏ちゃんのお父さんは結局どうなったのさ?」
「え? どうなったって……殺すなんてできなかったからそれ以上は何も。俺は奏の能力さえ手に入れば良かったからな」
「ふむ、まだ生きている可能性はあると」
「生きてるんだ……」
少し怯えを見せた奏だったが、すぐに真琴の顔を見て落ち着きを取り戻す。
大丈夫だ。もしまた出てきても、真琴くんが守ってくれるって言ってくれた。だから、私も怯えずに戦わないと……。
「だったら話はまだ終わっちゃいないよね。奏ちゃんのお父さんが生き残って怪物を操ってるんじゃないの?」
「うーむ、そういうことになるのか……」
真琴の中は未来の言うとおり、奏の父はまだ生きているという結論に至った。そう考えるのが普通で、こじ付けも何もないもっともな理由だと思ったのだ。
だが真琴たちはまだ知らない。奏の父がすでに女性によって粛清されてしまっているのを。
間違っている結論に至った議題は、次に移ってしまった。次の議題は能力者について。
平静を取り戻した奏は早速議題について話し始めた。
「真琴くん。もし、私たちの他に能力者に出会った場合、どうするの?」
「どうするって……なるべくなら戦いたくない」
生徒会長が言っていた『勝ち残る』という言葉。そして、奏の父が言っていた『世界を統べる』という不可解な言葉。その二つが真琴を不安な気持ちにさせる。
いつか、俺は奏と戦わなければならないのだろうか。
「そうだね。私も真琴くんと同じ考えだよ」
「でもさー、何でそんな能力があるんだろうね? 目的は何だろう」
「目的か……」
もし、新たに能力者が出てきたらこの能力が存在している意味も分かるのだろうか。
真琴は、自分がまだ多くを知らないことに気が付いた。戦いの意味も、白き怪物のことも何もかも。だが、奏を守り抜くこと、これだけは真琴の心に深く刻まれている。
「ま、どうでもいいっか。私はTSF能力が実在したってだけで満足さ」
相変わらず自分を貫いている未来に真琴は苦笑するしかなかった。




