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作戦会議だああああ!

 昼休み、奏は真琴と未来の二人を呼んで昨日あった事件を話した。目新しい発見である、白き怪物が人を襲う危険性を話すのが目的だったのだが、いつの間にか話題は別のものへと移っていく。


「ほーん、奏ちゃんがスカウトされたってこと。野球の部員にねぇ」


 未来は明らかに奏を挑発しているような見下した表情をしている。何故彼女がそんな表情をしているのか奏はまったく分からない。しかし、ムカついた奏は未来に対して口を尖らせて抗議した。


「な、何よ未来。何か文句でもあるの」


 未来はニヤニヤしながら含みを持たせている。


「んーん、何でもないよ」


「何か気になる……」


 ムスーっとした顔をしながら未来を睨みつける奏だが、未来にはまったく効果がない。むしろ、余計に彼女を増長させる原因になるかもしれないのだ。

 今まで黙って聞いていた真琴は、話を進めるために奏に問いかける。


「その白き怪物が人を襲ってたってのが、ヒントになるかもしれないな」


「ヒント?」


「ああ。そのマネージャー、能力者だったり……ってのはないか?」


 奏は昨日の出来事を思い返す。あの野球部のマネージャーは奏が逃げろと言っても逃げずに後ろでずっと引っ付いていた。更に、怪物を対峙した奏を恐れず部員に勧誘していた。真琴の言うとおり何かがあるのかもしれない。そう思った奏は、昨日より部員になることを真剣に考え始めていた。

 あまりにも深く考えすぎている奏に対して、真琴は少し彼女をなだめるように言葉を繋いだ。


「ま、まあ。あくまで俺の予想だからな。あんまり考えるんじゃないぞ」


「うーん……でも、ちょっと怪しいかも……」


 私が潜入して調査する必要があるかもしれない。そう思い込んだ奏は誰にも止められない。決心した奏は真琴の目を力強い目で見つめて真剣さをアピールした。


「分かった。私が潜入調査する」


「あっちゃー、やってしまいましたなぁ真琴ちゃん……。奏ちゃんがマジになっちゃったよ」


 未来が頭に手を当ててがっくりとうなだれる。全ての責任を真琴に押し付けるように言った未来の言葉で、真琴は罪悪感が生まれてくる。

 そのバツの悪そうな表情をしている真琴に、奏は笑みを返した。


「大丈夫だよ真琴くん。私、今まで真琴くんに迷惑掛けちゃってたし、ちょっとでも役に立ちたいの」


「あれー? 私に対しては何もないの? 一応体育館の倉庫で命を狙われてたんだけど」


「ハァ? 特に無いんだけど(ごめんね未来ちゃん。私、あなたにも迷惑をかけてたね)」


「本音と建前がぎゃくなんだけどまあいいか。建前がちゃんと謝ってるなら私は許そう!」


 それでいいのかお前は。

 二人は何とかやっていけそうだな。未来が騙しとったお金の件は凄く怪しかったけど、仲良くやってってくれ。

 真琴は遠くから見守るような目で二人を蚊帳の外で眺めていた。

 奏は未来にため息をつきながら、重大な事項を思い出した。それは忘れてはならないイベントだが、奏はつい、うっかりと忘れてしまっていたのだ。


「あ……あああああああー!!」


 大きな声を上げた奏にびっくりした二人。未来は体をビクつかせて一瞬心臓が止まる思いがした。真琴はベンチから立ち上がろうとした瞬間に奏の声を聞いてしまったためにバランスを崩して地面に尻餅をついてしまった。

 そんなこともお構いなしに、奏は頭を抱えてうなだれてしまっている。


「ど、どうしたのさ奏ちゃん」


「野球の試合の日に……テストがあるんだった」


「……いかんのかい?」


「いかんに決まってるでしょう!? ヤバイ……あのテストはすっごく重要なテストなのに……」


 若干未来のペースに飲まれてしまっているのは奏がそれほど焦っている証拠でもある。

 しかし、未来は奏の危機的状況に含み笑いをしていた。それは奏を嘲笑っているわけではない。シンプルかつ効率的な答えが導き出せているからだ。


「フッフッフッ。安心なさい奏ちゃん。未来ちゃんはすでに答えを用意してある」


「な、どういうこと?」


「奏ちゃんの代わりは女体化した真琴ちゃんが受け持とう!」


「……ハァ!?」


 今までズッコケてた真琴が急に立ち上がって未来に抗議する。


「ちょっと待て! どうして俺が奏の代わりにテストを受けなきゃならないんだ!」


「大丈夫だって。奏ちゃんと真琴ちゃん、体型もちょっと似てるし、胸は同じように小さいし、ウィッグ……言い換えてヅラを被れば問題ないって」


「胸は余計よ。……でも、いい方法かもしれない」


「か、奏……お前もか」


「結局迷惑かけてばっかりだね。ごめんね真琴くん」


「いやいや、何で二人してその作戦に乗り気なんだよ! 第一、俺が試合に出れば良い話なんじゃないのかこれって!」


「ほーう……では奏ちゃん。バットとボールを生成しなさい」


 命令口調に文句を言いたかったが、変身した奏は仕方なく近くの小石を使ってバットとボールを作り上げた。それを未来に渡して、奏は腕組を始めた。

 未来はバットやボールの状態を見て何かを確信し、バットを真琴に、ボールを奏に手渡した。


「これより一打席勝負を行います。バッターは真琴ちゃん。ピッチャーは奏ちゃんね」


「つまり……何をするんだ」


「嫌だなー真琴ちゃん。野球部のマネージャーちゃんは変身した奏ちゃんの類まれな才能を見込んで勧誘したんだよ。普通の男の子の真琴ちゃんにそれが務まるのかなっていうテストだよ」


「なるほど。真琴くん……私、真剣だから」


「審判は私、未来ちゃんがさせていただこう!」


 あんな重たそうな本物の剣を軽々と振り回している男の状態の奏がボールを投げたらどうなるのか。一応バットを構えた真琴だったが、その足は心なしか震えていた。笑顔も引きつり、形だけバットを振る練習をする。しかし、腰が入っていない真琴のバッターは下手くそそのものだった。

 奏は真剣な眼差しでボールを持って、投球フォームを始める。


「いやああああ!」


 ビュン!


「うおおおおおお早ええええええ!」


「ストライーック!」


「まだまだいくよ!」


 ビューン!


「待てこんなの打てるかぁー!」


「ッッッッッッッスートライク!」


「真琴くん、次で三振だね」


「そのニッコリ顔が怖い」


 奏は自分の勝利を確信して笑顔を見せながら、ボールを真琴に向かって投げた。当然、真琴が反応できる速度ではなく、真琴はバットを持って突っ立ったままストライクを入れられてしまった。


「ストライーッッッッッッッック! バッターアウトォ!!」


 結果、真琴はバットを降る暇もなくスリーストライクをかましてしまった。

 バットを手放して落ち込んでしまう真琴。奏のフリをしてテストを受けることが確定してしまった瞬間だった。

 無理に決まってる。奏の投球を打つことなんて……無茶だ。

 ある意味で無理ゲーを強いられてしまった真琴は諦めるべきなのかもしれない。

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