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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
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真琴に託された真なる力

 真琴は男性を追って学校の外へと出て行き、近くの商店街へとたどり着いた。夕日に照らされた町並みはどこかノスタルジーを感じさせるものがあるが、今はそれに浸っている暇はないことは真琴が一番知っている。

 ここで男性を探そうと意気込む真琴だったが、彼は男性を特定できる情報を持っていない。さらに、神出鬼没の男性を捜索する方法などなかった。

 真琴はとりあえず歩いて、男性らしき人物を探そうとする。仕事疲れのサラリーマンや、買い物をしている主婦に学校帰りの学生たち。どれも、真琴が見た男性とは程遠い姿をしている。


「やっぱりダメなのか……」


 弱音を吐く真琴に、先ほどの未来の言葉が蘇る。そう、奏を救える人間は真琴だけだという言葉を。

 諦めない。俺は必ず奏さんの記憶と能力を取り戻して助けになるんだ。だが、この状況で真琴が出来ることは限られている。

 相手が仕掛けてくるまで待つしかないのか……? これからのことに迷っていると、真琴に声をかけてくる女性が一人存在した。


「ねえ君、お困りなの?」


 振り返ると、真琴の視界には女性の大きな胸が目に入った。思わず凝視してそれからすぐに目をそらした真琴に、女性はクスクス笑い始めた。

 会社の帰りなのだろうか。スーツ姿の女性はとても頭の良さそうな雰囲気を醸し出し、大人の女という説得力がある。一切染められてない黒髪はまさに大和撫子と言えるだろう。

 女性から流れてくる香水の匂いに頭をクラクラさせながら、真琴は口を開いた。


「お、俺に何の用デスか?」


「だから、お困りって聞いたの。困ってない?」


「い、いえ。特に困ってることなんてないデス!」


 彼女に話したところで、所詮頭のおかしい人間にしか思われない。そう思った真琴は一部片言になりながら彼女の申し出を断った。

 だが、真琴は次の女性の言葉で彼女に対する認識を改めることになる。


「変身を奪った男性を探しているんでしょう? 真琴くん」


「……え?」


 何故彼女は自分の名前を知っているのか。いや、それよりも何故俺が考えていることが筒抜けなんだ?

 真琴は緩んだ気を再度引き締めて、女性をにらみつけた。もしかすると、女性が男性の味方である可能性も捨てきれないのだ。


「何者ですかあなたは。アイツの味方……なんですか?」


 態度が変わった真琴を、女性は優しい表情で諌める。その態度は最初とまったく変わらない。


「私はあの人の味方ではないわ。……君の味方でもないけどね」


「じゃあ何で俺に接触してきたんですか」


「私は中立の立場で君に会いに来たの。戦うんでしょう、あの男と。でも今の君じゃあ一瞬にして死ぬね」


 死ぬ。その言葉を直接言われた真琴に衝撃が走る。遊びじゃない、本当の闘いへこれから赴くのだ。

 女性は懐から拳銃を取り出して、真琴に照準を合わせて発射した。思わず目を瞑った真琴だったが、銃口からは何も発射されず、ただパンっと軽い音が発せられただけだった。


「これは単なるおもちゃ。だけど、今の男には本物を作れる能力がある。それが変身の能力」


「本物……」


「ね? 変身の能力はそれほど素晴らしいものなのよ。力さえあれば、何でも物体を任意の物に変化させられる」


「俺は勝てないってことですか……?」


「それを面白くさせるために私がいるのよ。あなたにも、眠っている力がある」


 女性は「場所を変えよう」と言い、真琴についてくるよう言った。罠かもしれないこの誘いに真琴は乗ることにした。他に手がかりがない以上、彼女を頼るしか方法はなかったからだった。

 女性が次に示した場所は近くにある喫茶店だった。机で教科書とノートを広げて勉強をしている学生もいれば、パソコンを広げて何かを入力している人間もいる。ここで騒ぎを起こすとは考えにくい。

 立ち話ではなんだから、という意味なのだろう。変な場所に連れられなかったことに、真琴は少し安心した。

 二人分のコーヒーを注文し、トレイに乗せて女性は空いている席に座った。向かい合わせに、真琴も席に座る。

 女性はコーヒーを真琴に渡してから、話を始めた。


「さて、君の眠ってる力だったね。それはトランスサブデューフィールド。日本語で言えば絶対変換領域みたいなものね」


「トランスサビュジュ……絶対変換領域ですか?」


 カタカナの正式名称を口ずさもうとした真琴だったが途中で噛んでしまい、日本語名の方を言った。

 女性はそれに思わず顔にえくぼを作ってしまったが、すぐに真剣な表情に変えた。


「そう。その力があればあの男に勝てるわ」


 もし、本当にそんな力があればありがたいことこの上ない。しかし、真琴には一つの危惧があった。

 今すぐ使えるような能力でなければ意味がない。仮に修行が必要ならば、その間に男性は自分を襲ってくるかもしれない。それでは遅いのだ。

 そんな真琴の不安を見抜いているのか、女性はニヤッとして話を続けた。


「すぐに使いたいって顔してるわね。でも安心して。その能力に無駄な特訓は必要ないわ。これさえあればね」


 そう言って、女性はバッチを差し出した。若葉マークのそのバッチを手に取り、真琴は不安を抱いた。


「これって、もしかして怪しい壺を買わされる商法なんじゃないですか……?」


「まさか。そんなあこぎな商売しないわよ。ロハ(ただ)よそれは」


「使い方は?」


「念じるのよ。トランスサブデューフィールドを使いたいってね。そうすれば応えてくれる」


 本当にそんなので使用出来るのだろうか。未だに疑心暗鬼になっている真琴だったが最後の切り札として、胸ポケットに忍ばせることにした。

 女性は顎を手のひらで支えて肘を机にくっつけて真琴を見ている。その視線が気になって、真琴は口を開いた。


「な、何なんですかその眼は」


「いや、私にも年頃の娘がいるからついね。あの娘も元気でやってるのかなってね」


 子持ちかよ。心の中でツッコんだ。その話を聞くと、今まで二十代に見えていたのが急に三十代相応の姿だと真琴は思えるようになった。


「会ってやって下さい。それで、あなたの子どもの元気な姿を間近で見てください」


「今度会ったらそうするわ。それじゃ、闘いに行こうか」


「え?」


「私があの男を呼んであげる。場所は……近くの公園でいいかな?」


 女性は携帯を取り出し、電話をかけた。

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