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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第一章
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記憶喪失の奏

 真琴はすぐに奏を保健室に運び込んだ。女の子を背負う真琴に対する視線はとても辛いもので、真琴を見ながらヒソヒソ噂を立てる者もいた。本来ならば真琴も女の子に変身して運ぼうとしたのだが、小柄で力が無くなってしまうのを懸念して敢えて変身はしなかった。

 真琴に対する視線が厳しいのはもう一つ理由があった。それは未来の存在だった。ガラスの破片が手のひらに刺さって血が出ている未来が後ろから付いて来ているのだ。当然、未来を知っている者からすれば緊急事態で、最近未来と一緒にいる真琴までいるのだから話は大きくなる。

 後ろにいる未来に対して悪態と怪我の心配を心の中でしながら、真琴は保健室に到着した。

 保健室にいた保険の先生が出迎えたが、気絶している女の子と怪我をしている女の子が二人、一人は何故か男の子に背負われているという異様な光景に驚いてしまう。真琴はすぐに事情を説明した。


「……自分がふざけていたら未来がガラスに激突してしまい割って怪我してしまって。それで、それを見た奏が気絶してしまったんです。自分が全部悪いんです」


 保険の先生は自分がやるべきことを最優先させる。奏をベッドに寝かせるよう真琴に指示し、先生は未来の応急処置を始めていた。

 奏をベッドで寝かせ、その様子をジッと眺める真琴。すやすやと何事も無かったかのように寝息をたてる奏に、真琴は静かに謝罪した。


「ごめん奏さん……。俺、君を守れなかった。力になんて全然なれねーじゃねーか……」


「本当にだらしのない男の子だこと」


 真琴の後ろから声をかけてきた未来は椅子を小さな丸い椅子を持ってきて真琴の横に座った。

 片手には応急処置として包帯が巻かれてあり、大事には至らなかった様子が伺えた。未来はため息をついて真琴を説教し始める。


「あのねぇ、私という可愛い彼女がいるにも関わらず、あんな大胆な告白したんだからもうちょい努力したらいいじゃん」


「き、聞いてたの!? てかお前いつからいたんだよ!」


「んーとね、『さて、あなたの勝利条件だけど……私の顔に傷をつければ勝ちとするわ』からかな」


 未来が吐いたセリフを真琴は脳内で過去を探し始め、見つけた瞬間に声を上げた。


「最初からじゃねーか! 何でぎりぎりまで入ってこなかったんだよ!」


「最初は空気を読んだんだよ。でも奏ちゃんが過去を話した当たりからこの空気をどうやってぶち壊してやろうか考えててさ。入ろうとしたんだけど扉は閉まってる以上侵入できないしどうしようかと思ったら最後の手段があったんだよね。ガラスをぶち破るって手段がね! いやー見覚えある景色が新しく見えたねあれは」


 真琴は呆れに呆れて思わず頭を抱えてしまう。

 本当に、何で最初は好きだと思ってしまったんだろうか……。

 自分が話したかった話題から逸れたことに未来は、一言置いて本題に戻させた。


「そんなのはどうでもいいんだよ。要は真琴君、君しか奏ちゃんは救えないってこと。その君がうじうじしてたら、助かるものも助からないってこと」


「未来、俺を励ましてくれるのか? ある意味で俺はお前を裏切ったのに……」


「私は男の子の真琴君は興味ないから良し。女の子の方は譲れないけどねっ!」


「色んな意味でブレないお前が羨ましいよまったく」


 だが、未来のおかげで真琴は決意することができた。奏を救えるのは、未来の言う通り自分しかいない。俺は奏を救い……記憶を取り戻させてみせる!

 その意気と共に、奏が長い眠りから覚めた。まぶたを動かしてゆっくりと目を開ける奏。

 ボーっとして天井を見つめている奏に真琴はドキッとさせつつ、未来は彼女に対して話しかけた。未来はすでに猫をかぶっていた。


「大丈夫? あなた、倒れてたんだよ」


「私が……倒れてた? ……?」


 記憶の整合性が取れないのか、冴えない目をしながら奏は重い頭をゆっくり持ち上げて起き上がる。それから、自分の頬の違和感に気づいてふいに触ってしまった。その瞬間に痛みが奏を刺激する。痛みに少し涙目になりながらも、奏は未来に話しかけた。


「ごめんなさい。質問してもいいですか?」


「いいよ。何?」


「私……今まで何をしてましたか? ほっぺたが……痛くて……。また、剣道で怪我しちゃったのかな……」


「奏さん!」


 彼女の弱り切った姿に耐えられなくなった真琴は彼女に対して大声で名前を呼んだ。男の子に名前を呼ばれて一瞬体をビクつかせた奏だったが、真琴の顔に見覚えがあるのか、妙な既視感に襲われた奏は首をかしげた。

 真琴は彼女の手を握り、そして決意を述べた。


「絶対にあなたの記憶を取り戻してみせます! だから見てて下さい。俺の戦いを」


「ほえ……は、はい」


 能力が離れて記憶を失ったならば、能力を取り戻せば記憶が元に戻る。そう確信した真琴は男性と戦うことを決めた。そこには彼への尊敬の念はない。奏を蔑ろにし、挙句の果てに踏みつけた男性を真琴は信頼するはずがなかった。

 奏のよく分からないといった困惑の表情を見てから、真琴は保健室を飛び出していった。

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