ミライとの決別
真っ暗闇の中で、未来は意識を取り戻した。目覚めたばかりでまだ頭が覚醒しきっておらず、ボーッとしたモヤがかかりながらも未来は光を探す。
「私……どうしてこんなところに?」
暗い周りを見ても仲間の姿は発見できない。彼らを呼んでみるが、反応はない。名前を覚えておらず、仲間が『いた』という記憶しかない。一人ぼっちでこの空間に取り残されているということが次第にはっきりとしてくると、彼女はとたんに心細く感じる。
「ねえ、みんなどこにいるの? 返事してよ……。あ、あー分かった。これってよくあるドッキリなんでしょう!? ぜーんぶ分かってるんだから!!」
虚勢を張るも、真琴たちのいない空間に未来の声が張り詰めるだけだった。
数キロ歩いたところで未来はその場に体育座りで座り込んでしまった。
「どうしちゃったの私? これは夢なの?」
涙ぐんだ声でほっぺたをつねった未来だが、目を覚ますことはない。何故なら、体は別の人物が使用しているからだ。
未来は嗚咽を混じらせながら、顔を腕の中へと埋めた。
寂しいよ……みんなに会いたいよ……。
どのくらいの時間泣いていただろうか。突然、未来は光を感じた。
思わず顔を上げると、奥の方で光が未来を迎えていた。すぐに立ち上がってその光へと走る未来。
光は剣から発せられているもので、未来は剣に触れようと手を伸ばす。
すると、暖かな光が未来を包み込んでいく。そして、未来に呼びかける声がしてくる。真琴たちと一緒にいた記憶。
「真琴ちゃん……奏ちゃん……。明日香ちゃんに諫見ちゃん……!」
思い出した。私はもう一人の自分に体を乗っ取られたんだ。
全ての記憶を取り戻した未来の前に現れたのは、もう一人の自分だった。
未来は、無意識に自分の名前を口にする。
「ミライ……」
「やあ、もう一人の私。いや、マリオネットの私」
未来は思わずミライに光の剣を向ける。しかし、ミライはそれに恐れを抱くことなく、呆れ返っていた。
「意味分かんない。どうして真琴ちゃんたちはこんなマリオネットの命を最優先したんだか……」
「どういうことよ、ミライ」
「その剣、真琴ちゃんたちの記憶の塊だよ」
「え……?」
「自分の記憶を犠牲にして、未来を守りたかったんだってさ」
未来は改めて剣を見つめた。すると、真琴たちとの楽しい記憶や悲しい記憶が頭の中に流れてくる。
ミライは未だにため息をして不機嫌な態度をとっていた。
「あり得ない。マリオネットを助けるなんて、どうかしてる」
「……証を持ってるから」
「え?」
「私が神野未来として生きた証があるから。みんなが、私に生きていてほしいって想ってくれたから……!」
「ほーん、そうなんだ。でもすぐに私が記憶を吸収して……」
そう言って未来に触れたミライだったが、それは光によって遮られてしまった。
バチッと電撃のようなものが走ってミライの手を傷つける光の剣。未来は剣をかざして、彼女に抵抗するという意志を示した。
「私が私でいる限りあなたの好きにはさせない。この体で生きてきた証を……もう絶対に渡したりはしない!!」
「はぁあぁあぁあぁあぁあ……マリオネットもかい。マリオネットも私に反抗するのかい」
大げさなため息をして、ミライは暗闇の空を仰いだ。
「分かった分かった……もうこの世界を襲ったりはしないわ。あっきれた、私の思い通りにならないんだもん。この腐った世界」
「腐ってるのは、あなたの目よ」
「ふふふっ。だといいよね、マリオネットからしてみれば」
「あなたがいなくなったらこの世界はどうなるの?」
「ん? どうにもならないよ。いつも通りの日常が始まって、終わる。ずっと変わらない日常が続くのよ。へいわーな日常がね。それはもうさながら萌えマンガのようよ。イベントがなければカタルシスもなし! ……永遠を堕落して生きていけ」
「変わらない日常なんてないよ、ミライ。どんな日常にだってイベントがあるし、カタルシスだってある」
「かんっっっっぜんに私とは袂を分かつようね。マリオネット」
「あなたのような未来は、こっちから願い下げ」
「マリオネットの独り立ちサービスってことで、破壊した建物とか色々は元に戻しておくわ。どう? 優しいでしょう、私は」
「……当然でしょ」
態度を変えないで凛としている姿を見たミライは、そんな彼女を鼻で笑って背を向けた。
そして、手を横に振りながら歩き始め、未来から離れていった。
「……ごめんねみんな。私なんかのために、記憶を犠牲にするなんて……」
ミライがいなくなった空間で、未来はやっと涙を流した。世界は破壊される前に戻っていく。しかし、そこには今までの彼らは存在しない。TSF能力は未来の中に収束され、記憶として変化してしまい、二度とその能力を発揮することはない。
それが未来には実感できてしまう。
未来のいる空間が光輝き、全てを包み込んでいった。




