思い出の反撃
ミライは空中で手を払うと、瓦礫は一瞬にして瓦解して砕け散った。
悔しげな表情をする明日香だが、作戦はこれで進んでいた。奏を意識させない。それが明日香の役目だったのだから。
だが、いくら戦っていても先ほどから三人しかいないのでは気づかないわけがない。ミライはハッとして奏がいないことに気づいてしまった。
「おやおや? 奏ちゃんはどこかなあ~?」
「しまっ……!」
ミライが周りを見渡すと、遠くで奏が目を閉じて立っている姿を確認できた。
「何を企んでいるか知らないけど、棒立ちじゃあ殺してくれって言ってるようなものだよねえ!!」
その時、せり上がった地面を飛び越えて、真琴が飛び上がってきた。彼はすでに女の子の姿へと性別を変えていた。真琴は剣を振るってミライの肩に叩きつけた。
「何の真似かな。真琴ちゃん」
「奏を殺す前に、俺を殺してみるんだな!」
「それは挑発と受け取っていいんだね?」
「ああ!」
「――じゃあ、お言葉に甘えて!!」
ミライは予備動作無しで剣を振るった。当然、避けきれない真琴は光の剣を全身に受けてしまった。血が噴き出る真琴の体だったが、彼は意識が無くなる前に自分の体に手をかざして、今の状態を『反転』させた。
真琴の体は生き返り、そして健康な体へと戻る。
「使いこなしているね、その能力」
「ああ。この能力に覚醒して良かったと思ったよ……」
ミライは光の剣を振りかざして真琴に剣先を向ける。
真琴の顔はいつになく緊張している。それは剣先を向けられているだけではない。
「未来……お前、俺に着せたい服があったよな?」
「急にどうしたの?」
『未来』の記憶を読み取り、そして理解をするミライ。彼女は真琴を冷笑した。
「ああ。あのこと。それが何か?」
「そして……俺は一度だけ、お前の言うことを何でも聞かなきゃならなかった。それを今……実行してやる!! おらああああああああ!! もってけドロボオオオオオオオオオオオ!!!」
真琴は自分の着ている衣服を脱ぎだした。すると、彼……いや、彼女には不釣り合いな水着を身にまとっていた。彼女が着ている水着、それはビキニとパンツが融合しているスクール水着だった。しかも、中学生が着るようなサイズの代物だ。胸には学年を表す文字が刺繍されている。
「な……何を――クッ!!」
ミライの中の『未来』が反応しないわけがなかった。
――ま、真琴ちゃんの……バカッ!
くそ、出てくるな……! お前の役目はもう終わったのよ!
激しく動揺しているミライを見て、もう少しだけ時間が稼げる。そう思った真琴だったが格好が格好だけに顔を赤らめて足を内股にさせてしまっている。
は、恥ずかしすぎる! 人生の一生の汚点だあああ!!
真琴は奏の方を眺める。
奏の近くには、すでに剣が出来上がりつつあり、あと少しというところだった。
刹那、奏の目が見開いた。そして、空中に浮かび上がっている剣を手に取り、真琴たちの方向へ走ってきた。
先ほどの水着のインパクトが強すぎて、立ちくらみをしているミライを尻目に、奏は真琴に剣を手渡しながら、最後の能力を発動させた。それは、真琴の服装をセーラー服に戻すこと。
「真琴くん……後は頼んだ。私が先に手放せば、これからの因果が歪むことはないから」
「ああ。任せろ。ってか、セーラー服に戻してくれてありがとうな」
「……ううん、どういたしまして」
奏は優しげな笑顔をして、全ての能力を手放した。三つの光が奏の体から出てくると、それらは全て真琴の持つ剣へと吸い込まれていく。
光を吸い込むごとに、剣の光は強さを増していく。
剣が光を吸収し終わると、奏は意識を無くして地面に力なく倒れこんだ。
もう、今の奏に今までの戦いの記憶はない。少し感傷的になる真琴だったが、すぐに意識をミライに向けた。
「今は……浸っている場合じゃない」
次に向かったのは明日香のところだった。明日香は真琴が剣を持って近づいてくるのを確認すると、手放す決意を固めた真剣な表情を彼に向けた。
「とうとう、僕がいなくなるんだね……」
「……悠太君。明日香がせっかく助けだしたのに、結果的に俺が君を殺すことになるなんて……正直、アイツに何て言い訳しようか考えてる」
「『殺す』じゃないよ、まこ兄。僕はあす姉の中で生き続けるんだから。本当の意味でね」
「そう言ってもらえると、俺もちょっとだけ嬉しいかな」
「じゃあねまこ兄……次に会うときはもっとあす姉に優しくしてあげてね」
明日香は微笑んで能力を手放した。二つの光は真琴の剣に吸収されていく。そして、明日香は奏と同じように意識を失って倒れこんだ。
高まる感情を抑えながら、真琴は諫見の元へと向かう。
しかし、ミライもずっと動揺しているわけではない。正気を取り戻したミライは激しく息巻きながら真琴を睨みつけていた。
「とんでもない方法で私を出し抜くなんてね……少しだけびっくりしちゃった……!!」
「く、もう戻ったのか!」
「なーにをしているのかなーあ!?」
ミライが真琴の方に走りこんできたその時、ミライの周りの地面が再び盛り上がって閉じ込めてしまった。意志を持つ地面は次々と加勢をし、巨大な古墳が出来上がった。
「真琴先輩、早く能力を」
「諫見……」
「記憶が無くなったら、接点がなくなるのは私だけかもしれないね」
「……そうかもしれない」
「ねえ、真琴先輩。諫見は俺がいなくても元気にやっていけると思うか?」
「大丈夫だ。心はお前なんだからな」
「……ありがとうな、真琴。君たちみたいな能力者に出会って、本当に良かった」
そう言って、諫見は能力を手放した。一つの光が真琴の剣に吸い込まれて、諫見は地面に倒れこんだ。すでに記憶を失った諫見の表情は、小学生のような無邪気な表情へと戻っていた。
これで、真琴以外の三人の記憶が剣に溜まった。最後は真琴の能力だけだった。
「最初は何とかして能力を手放そうと思ってたのに……いつの間にか、手放したくなくなっちまったな……」
自笑して過去の思い出に浸る真琴。ミライが古墳を割って這い上がり、普通の地面へ着地した。そして、真琴の持っている剣に目を向けた。
「その光……一体」
「これか? これは……みんなの記憶だ」
そう言って、真琴はミライに立ち向かっていく。ミライは余裕そうな表情をしながら真琴が来るのを待ち構えている。
「ほらほら、後ろから剣が飛んできているよ!」
剣が真琴の背後を襲う。だが、剣が真琴の体に触れたかと思うと、一瞬にして消滅したのだ。
全ての能力が真琴の周りに集まっている。それが、次元を歪めている結果だった。
「記憶……? もしかして!」
「もう遅せーよ!!」
真琴は剣をミライの胴体へと薙ぎ払った。剣は簡単にミライの体にめり込み、中へと入っていく。それと同時に真琴は能力を手放し、記憶をミライに叩き込んだ。
「みんなの記憶を送ったんだ……早く目ぇ覚ませよ……未来。後は……頼んだぜ…………」
最後の言葉をミライに送り、真琴の意識は完全に消滅した。




