最後の戦い
奏は、一人で崩壊した世界を歩いていた。賑わっていた商店街も、高層ビルも全て破壊され、瓦礫の山が出来上がっている。人も避難したのか歩いている人間は奏しかいなかった。
ボロボロのセーラー服を身にまとい、若干のおぼつかない足取りが彼女の状態を表している。奏は肩で息をしながら、彼女は神を探していた。
「出てきなさい……ミライ」
彼女の声が聞こえたのか、神は彼女の前に現れた。奏がミライと言ったその神は奏と同じセーラー服を着ていた。ただし、彼女との違いはボロボロではないこと。ミライが着ているセーラー服はまだ純白の色を汚すことなく、紺色のスカートも汚れてはいない。
ミライは奏の状態を察し、それから薄気味悪い微笑みをした。全てが自分の思い通りにいったという確信の笑み。
「私の言う通り、全員を倒したのかな?」
「……ええそうよ。私が全ての因果を受け止めた」
「ふふふっ……偉いじゃない奏ちゃん。やっぱり君は真面目さんだ」
よろめいている奏の周りを歩いて高笑いをしているミライ。彼女は奏の肩を叩きながら彼女の苦労を労っていた。
「――私だって、たまにはバカになるわ」
その言葉とともに、奏の目が光る。即座にミライの方向を向いて、剣を彼女に振るった。
すっかり油断をしていたミライは奏の剣を受けてしまった。無傷だったミライのセーラー服が、剣の軌跡を辿って破けていく。
しかし、ミライの肌には傷一つついてはいなかった。それでもお気に入りのセーラー服を傷つけられたという『未来』の感情に少しだけ支配されたミライは不快感を表していた。
「どういうことかな奏ちゃん? 話が違うんじゃないの?」
「……これが私の答え。私なりのケジメ」
「ほーん……じゃあ、奏ちゃんは死ぬしかないね。その能力は別の人間に譲ってくれないかな?」
「残念だけど、この能力はあなたに返すわ。……私たちの記憶と共にね!!」
その時、ミライを取り囲むように三人が現れた。真琴、明日香、諫見の三人だった。
全員が戦う意志を持ち、決して諦めない。いくらミライが絶望を見せても、四人は戦い続けるだろう。
ミライは四人の感情が理解できないのか、頭を傾けていた。
「何々? 戦う相手を間違ってないかな?」
「いや、間違ってないぜ神様」
「未来先輩を助け出す」
「……それが僕たちの戦いだから」
「人間ってアホばかりなんだね。そんなんだから、いつまで経っても同じ種族で戦争し合うんだ!!」
遂にミライは逆上し、衝撃波を広範囲に出した。
四人はそれぞれ後ろへと吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がってミライに立ち向かっていく。
その中で、奏は立ち止まって目を閉じて何かを念じ始めた。
奏が止まっていることを気づかせないために、真琴は剣を振るい、諫見は近くの瓦礫をミライに落とし、明日香は鞭をミライに叩きつける。
「無駄だってのが分からないのかな!? 一度学習したことは繰り返さないでほしいねぇ!!」
「うるさい! まだ俺たちの能力全てを試したわけじゃない!! 可能性は……まだあるんだ!」
「黙りなさいよ、真琴ちゃん」
ミライは鋭い目つきを真琴に向けて、光の剣を生成させた。右腕から直接伸びている光の剣で真琴を襲い掛かるミライ。真琴は前回の教訓を活かして、鍔迫り合いはもってのほか、絶対に触れないようにしていた。
間一髪のところで回避する真琴を不快だと思ったミライは、大人気なく空中に光の剣を出して真琴に向けて発射させた。
「まこ兄!!」
明日香が即座にフォローに回る。真琴の代わりに明日香が剣に刺さりにいったのだ。
口から血を吐いて地面へと倒れる明日香。しかし、彼女の表情は絶望に満ちていない。希望に満ちている。
「真琴先輩! 私が頑張ります!!」
「ああ!」
真琴は空に飛び上がってミライと距離を取る。もちろん、真琴を追いかけようとしたミライだったが、それは地面に塞がれてしまった。
諫見の能力により、意志を得た地面は突然せり上がって、ミライの侵入を阻む。
真琴はすぐに明日香の元へと向かい、手をかざした。すると、明日香の傷は立ちどころに治り、目を覚ます。
「行くぞ、明日香」
「かな姉の武器作成の時間稼ぎ、だからね」
「ああ。派手に暴れて気づかせないようにするんだ」
「うん!」
力強く頷いた明日香は元気になって立ち上がり、ミライに立ち向かっていく。
ミライと対峙した明日香。もう、明日香に恐れはなかった。心強い仲間がいる。自分の命を紡いでくれた人がいる。それだけで、明日香の心は強靭さを増した。
「明日香ちゃん……純粋な小学生の心を持つ君なら分からないかな? 世界を滅亡させる行為なんだよこれは」
「……分かってる。だけど、僕たちはみら姉も、世界も両方救いたいんだ!」
「アッハッハ……。ワガママなガキなんだねっ!!」
明日香はミライに向かって手をかざし、心で念じた。
もし、これが成功すれば……! ミライの心と近くにある岩の心を『入れ替える』!
しかし、ミライに変化はない。彼女は明日香の行為を理解し、失笑した。
「残念だけど、私には効かない。まあ、中から注入とかされたらどうなるか分からないけどねー」
「だったら……!」
明日香は近くの水たまりと瓦礫にそれぞれ腕を伸ばして手をかざした。
その瞬間、瓦礫は水のような流動性を持ってミライに襲い掛かっていく。
ミライは特異になった瓦礫に驚きながら、彼女に賞賛をしていた。
「へえ、こんなことになるんだね。凄い凄い」
「……く、バカにして!」
「そりゃね。だって、私には無意味だから」




