進む先は希望か絶望か
奏は神妙な面持ちで自分が倒れていた場所へと戻る。明日香に真琴の居場所を教えてもらう。それが奏の行動だった。
奏は明日香を発見したかと思うと、すぐさま彼女の元へと近づいた。疲れきっていた顔を見せていた明日香は、奏に発見された瞬間から努めて笑顔を見せた。
「どうしたのかな姉?」
「さっき言ってた真琴くん。どこにいるの?」
「もしかして、かな姉も一緒に作戦を考えてくれるの?」
目をキラキラとさせて期待の眼差しを送っている明日香に少しだけ心を痛めながらも、奏は嘘をついた。
「……ええ、そう。だから、場所を教えてほしいの」
「それなら……」
明日香から場所を聞いた奏は、彼女に別れを言ってその場所へと向かった。明日香が言った場所は奏が今いるこの場所からそう離れてはいない。足を引きずりながら、奏はようやく真琴のいる廃屋へ到達することができた。溜まったつばを飲み込み、奏は意を決して中へと入り込む。
一軒家の中は未来が破壊し尽くした影響からか至る所が破損しており、普通に住むには無理な家へと様変わりしてしまっている。
奏は慎重に床を歩いて、声が聞こえる居間へと足を踏み入れた。
居間にいる二人は足音に反応して一斉にその方向を見た。
「奏先輩、意識が回復したんだね」
「奏……」
居間で何かを喋っていたのは、真琴と諫見だった。それぞれ思い思いの安堵を見せて奏を迎え入れる。
諫見は奏に椅子を提供し、奏は礼を言って座り込んだ。
「真琴くん、それで、未来を救う方法は見つかったの?」
もし、ここで何か方法があるなら、私は思いとどまろう。その方法を試して、ダメだったら業を背負おう。
しかし、真琴の表情は固くなるばかりで沈んでしまっている。
「悪い。まだ見つからない。だけどさ、きっとある。あいつを……未来を元に戻して救い出す方法が」
そんなんじゃ遅い。周りの景色を見て? この景色を見て、まだそんな寝言を言ってるの?
「え? か、奏……」
奏自身、声に出しているつもりはなかった。だが、無意識に心の声を口にしてしまっていた。
ハッとして奏は真琴と諫見を見るが、二人はバツが悪そうな表情で奏を見ていた。
「確かにそうかもしれない。俺たちが戦わなかったからこの惨状がある。だけど、俺はどうしても未来を救い出したいんだよ」
「真琴くん。でも、これ以上神様を怒らせないようにするには私たちが戦うしかないと思う」
「それは俺も最初考えた。だけど、今まで親しかった相手と殺し合いだなんてできるかよ」
「……私ならできる」
「奏……!!」
「真琴くん、まず最初はあなた。大丈夫、能力が無くなっても記憶が無くなるだけ。この街を崩壊させた業は私が背負うから」
そんなことを口にしながら、奏は剣を生成させて手で握りしめた。椅子から立ち上がって、真琴の体へ剣を向ける奏。彼女の表情は最初男の子の状態の真琴と出会った時と同じ、冷たい眼差しだった。
「本気か、奏……」
「ええ。私は本気よ」
「おかしいよ奏先輩! これじゃあ、あの神様の思う壺だよ!」
「それでも、これ以上の街の破壊は防がれる」
「真琴先輩からも何か言ってよ!」
諫見は真琴に助け舟を出してもらおうとしたが、真琴の眼差しも真剣なものになっていた。
真琴は諫見を下がらせて、奏と対峙する。
「こいつは頑固だからな。俺が倒すしかないだろう」
「もう、あの時のような弱い私じゃないのよ? 倒せると思って?」
「ああ。想いは俺の方が強いからな」
「そう……じゃあ見せてもらおうかな!!」
奏は剣を振るって真琴を一刀両断しようとする。すかさず真琴は距離を取り、奏から繰り出された太刀を見切って避けた。
ブンッと空気を切る音が鳴り響いたかと思ったら、奏は間髪をいれずに真琴に剣をなぎ払う。
真琴はアクロバティックな動きを見せながら剣を回避しつつ、部屋を移動する。こんな狭い部屋で戦えば、奏が有利なのは必然だった。
真琴は窓の後ろへ行き奏の隙をつき、跳躍して窓をぶち破った。体を丸めてガラスの破片で切らないよう対処しつつ、外へと出る。
奏も真琴が割った窓から外へと飛び出した。
「奏、もう一度考えなおせ。例え俺たちが戦い合ってTSFが一つに決まっても、あの神様がそんな約束を守る保証はあるのかよ? 未来なら守ってくれるかもしれない。だけど、あいつはもう未来じゃない。未来の記憶を持ってる神様に過ぎないんだ」
「うるさい! それでも、こんな辛い記憶、私以外無くなった方がいいよ!!」
辛い……か。
真琴は心の中で奏の言葉を復唱しながら、彼女の動きに注意する。




