戦う運命
「う……く、あ」
瓦礫の下に埋もれて、外の状況が見えない真琴。彼はやっとのことで目を覚ますと、ぼんやりとした頭で状況の確認を行っていた。衝撃のせいで、真琴は前後の記憶が欠落していた。
俺は、一体何でこんなところにいるんだ……。
とりあえず、外に出なければならないと思った真琴は瓦礫を押しのけて外の空気を吸いながら周りを見渡した。ここは丁度二階に当たる場所だろうか。幸いにも使用されていない教室だったので、今は真琴一人しかいない。だが、それも時間の問題だろう。音を聞きつけて先生方がやって来るのは確実だ。
真琴はズキズキと痛みが走る頭を抱えながら、二階から地面を見下ろした。
「未来! どうして奏と未来が戦って……そうか!」
ここでようやく真琴の記憶が戻ってきた。彼は、未来によって二階へ飛ばされたことを思い出す。
その時、彼を呼びかける声が後ろから聞こえた。真琴はすかさず後ろを振り返る。ツインテールが特徴的な髪型の少女、諫見が真琴を呼びかけていたのだった。
「真琴先輩。これはどういうことなの?」
諫見は壊れた窓から見下ろして未来の変貌を目にしながら唖然としている。その原因は真琴にも分からない。ただ、彼は曖昧な返事をすることしかできなかった。
「悪い、俺も分からないんだ。八戸都と戦っていたら急に……」
「……その八戸都、今は下にいない」
「何だって?」
真琴は改めて目を凝らして見る。しかし、八戸都を発見することはできない。
諫見は真琴の袖を引っ張り、眉毛を逆八の字にして真剣な表情をしている。
「行こう真琴先輩。奏先輩たちを助けないと」
「……ああ」
真琴は諫見の体をお嬢様抱っこして抱えて二階から飛び降りた。普通ならば骨折をしてしまうところだが、真琴は着地の瞬間に衝撃を『転換』させてないものとさせた。
一方、奏と明日香は未来と対峙している。苦笑いを浮かべながらも奏は未来の内に潜む悪魔を挑発し、明日香はうずくまりながら未来に悲壮な視線を送っている。
そこに真琴と諫見も合流し、さながら仲間同士が集まったという微笑ましい場面となっている。が、そのうちの一人は神に飲み込まれ仲間のことなど厭わない人物になってしまっている。
能力を持った全員が揃ったことで、未来のテンションが上昇する。笑顔になって思わず拍手してしまうほどだった。
「素晴らしいっ!! これで能力が集まったんだね!」
「未来……いや、その内に秘めた神と言った方が正しいのかな。あなたがこの能力を創りだしたの?」
奏はすでに未来とは思わず、敵とみなして話しかけている。未来は奏の方を向いて大きく腕を伸ばした。
「そうだよ。私がTSFという能力を世界に放った」
「理由は何なの未来先輩。何が目的で……」
「ふーむ……しいて言えば、子作りのお手伝いと言ったところかな? TSFという新たな能力で人間の性欲が刺激されて、子供が多くなればいいかなって思っただけ。さすがにこの世界の常識として『TSF』を適用させるのは辛いから、一つだけ能力を決めようと思ってね」
「何だと……?」
真琴は潜めていた眉を一瞬だけ緩めさせてしまった。もしかすると、この神とは話し合いができるかもしれない。その僅かな希望が真琴を油断させてしまった。
しかし、その瞬間の未来の表情は歪んでいた。
「……ってのは今考えた冗談で。本当のところは退屈してたから何か面白いことないかなーっと思ってね。ちょうど面白い能力があったからこの世界に放っただけさ!」
「……ふざけんなよ」
「はい?」
奏の方向からおよそ彼女の声とは思えない低い唸り声が響いた。未来はわざとらしく耳を手に当てて奏の方向に耳を向ける。
拳を震わせ、唇からは赤い血が流れ出てくる。奏の表情は完全に崩れ、怒りが全身を支配していた。即座に剣を召喚させて、奏は未来の首筋に向かって剣を振るった。
しかし、剣は未来の首筋に当たるだけで切断ができない。奏は悔しそうに喉仏をすり潰すような唸り声を上げていた。
「返せ……! 未来を……私の親友を返せぇ!!」
「私、物覚え悪い人は嫌いなんだよね。それっ」
未来が奏の剣を人差し指で触れると、剣が瓦解して消滅する。奏はそれでも未来に掴みかかっていくが、未来は片手で奏を空へ吹き飛ばすと、光の弾を空中に生み出してそれら全てを奏に襲わせた。
「あああああああっ!!」
「奏!!」
奏は光の弾に体を撃ちぬかれている。次々と襲いかかる光の弾に避ける暇はなく、奏の体はボロボロになってしまっている。
「私を倒そうとしても無駄無駄。あなた方が生き残るただ一つの手段は戦い合ってTSFを一つに決めること」




