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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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ヤツの正体

 奏の心を救い、友情を再確認した後、彼女たちは真琴と合流した。それから真琴たちは未来を狙う八戸都の襲撃に備えて監視を続けていたが、放課後になるまで敵は現れなかった。

 真琴は自分たち以外誰もいない教室で深々とため息をついたのだった。


「結局現れなかったな……」


 周りに気を張った結果、精神を消耗しきって焦燥している真琴を労うように、未来がフォローした。


「ありがとうね、真琴ちゃん。私のために」


「ん? ああ、気にするなよ。もうここまで来たら、な」


 未来の励ましで、真琴は再び心の中に活力が生まれる。彼女が無事なら、真琴はそれだけで頑張れるような気がした。

 未来は授業道具をカバンにしまい込み、椅子から立ち上がってカバンを持ち上げた。


「帰ろう。真琴ちゃん」


「……そうだな、これ以上ここにいても仕方ないか」


「奏ちゃん、もう校門前にいるってさ」


「よし、じゃ行くか」


 未来はスマホを見ながら真琴に伝える。真琴も自分のカバンを手に取り、教室のドアを開けた。


「……あいつ、部活はいいのか」


「聞いてみる?」


 真琴が言うよりも早く、未来はスマホの画面をフリックしていく。彼女の手が止まったと思うと、すぐに声を出し始めた。


「サボったって。私を守るために」


「珍しいな、真面目なあいつがサボるなんて」


「ア、アハハ……」


 未来は苦笑いをしながら、今朝の出来事を思い返していた。もしかしたら、あれが原因で奏は自分を守るために……。そう思うと、奏には悪い気がしてきた未来だった。

 後で会ったらちゃんと部活には出るよう言わないと。これじゃあ八戸都を倒すまで奏ちゃんは私を守るために部活をサボりがちになっちゃう!


 ――自分より、他人の心配? それでいいのかな?


「え?」


 まただ。また、あの声が。

 未来は体を硬直させて頭痛の恐怖に苛まれた。だが、未来がいくら待とうとも、頭痛が起こることはない。

 いつまでたっても未来が動かないことから、真琴は怪訝な表情を浮かべて未来に呼びかけ始めた。


「未来? どうした?」


「真琴ちゃんには聞こえないんだ……」


「聞こえないって……何か喋ったのか?」


「ううん。何でもない」


 真琴は「何だそりゃ?」とでも言うような呆れとも苦笑とも違う微妙な顔をして未来に笑いかける。これ以上真琴を心配させるわけにはいかないと、未来は気分を変えて努めて笑ってみせた。

 校門前まで、未来と真琴は二人で歩いていた。すでにクラス公認の仲となっており、二人に違和感を持つ者はいない。未来のクラスメートも、陰ながら未来を応援していた。

 今の未来に表の顔を演じる心の余裕はない。かと言って、今までの努力を水の泡にしてしまってはもったいない。だから、未来は出来るだけ自分から話しかけることなく生活を送っていた。

 自分の中で余裕が無くなっていく感覚、自分の心の中で誰かが呟いている不安、原因不明の頭痛。それらが重なりあった結果、未来は心の拠り所を求めていた。

 いけないと思いながらも、未来は顔を赤らめながら真琴に呟いた。


「ねえ……手、繋いでもいい?」


「ど、どうしたんだよ急に。いいけどさ……」


「……ん」


 未来はおずおずと真琴に手を伸ばして、真琴は何を気にするものでもなく未来の手を繋ぐ。

 手と手が繋がり、真琴の想いが未来の手の中へ、そして心へと溢れていく。それだけで、未来は心が穏やかになっていくのを感じた。

 校門前までもう少しといったところで、二人を呼び止める影があった。それは、二人が警戒を強めていた八戸都だった。


「ごきげんよう、みなさん。日が経つにつれて秋が深まっていき、秋風が心地よい素晴らしき好季節となりました。皆様はお変りなくお元気でいらっしゃいますでしょうか」


「何の真似だ。八戸都」


 八戸都の冗談に付き合っている暇はないと、真琴は未来を下がらせて自分が盾になった。

 八戸都はスカートを少しだけ持ち上げてお嬢様のような挨拶を交わし、それから肩をすくめてため息をついた。


「この国で言う、最上級の敬語挨拶を述べたというのに……真琴は学がないのですね」


「お前に見せる学はないんでね」


「あらあら。それじゃあ、私の名前は別に教えなくてもよろしいということでしょうか?」


「何?」


 真琴は八戸都の表情を見る。何もかも見透かしているような透明な視線と、階級が一段階上と勘違いできるような振る舞いと出で立ち。今の発言がただの挑発なのか、本気で言っているのか、真琴は混乱していた。

 ……こいつ、目的は一体何なんだ。


「……私、知りたい。八戸都の名前」


「未来?」


 未来は何故か八戸都に妙なシンパシーを感じ始めていた。自分自身その湧き出た感情の意味が分からなかったが、少しでも体の異変の原因を突き止めたいという思いだったのかもしれない。

 八戸都はクスクスと笑いながら、深々とお辞儀を始めた。


「申し遅れました。私……八戸都(やえと) 華子(かこ)と申します。以後、お見知り置きを」


「華子……それがあなたの名前……」


「ええ。あなたは『ミライ』、私は『カコ』。お互い、中々洒落てる名前ではありませんこと?」


「たったそれだけが……私とあなたの共通点だって言うの?」


「いいえ」


 その瞬間、八戸都は自らの力を開放した。突風が吹き荒れ、真琴と未来は腕で風を防ぎながら八戸都を凝視する。天から伸びた光によって輝いた八戸都は空へと浮かび始め、閉じていた目をゆっくりと開けた。


「私たちは……高次元生命体。この世界を司る『神』」

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