揺れ動く心
真琴たちが八戸都の生存を知ってから数日が経った。それ以降、八戸都は真琴たちの前に現れることはなかった。
しかし、いつ自分たちの前に現れるか分からない。その日から、真琴は常に周りを気にするようになった。少しでもおかしな動きをした人を真琴は睨みつけ、監視をする。その行動が他人から不快感を持つと言われることがあったが、真琴は気にしなかった。未来の命が掛かっているのだから。
真琴は八戸都が言っていた『万全の体制ではない』という言葉が引っかかっていた。万全の体制なら、何が違うというのか。
「考えても分からない……か」
真琴はため息をついて、周りの監視を続けた。
「まこ兄、おはよー」
「おう、明日香」
明日香がカバンを片手に持って真琴の後ろから走ってくる。そして、真琴と並んで歩き始めた。最近は、真琴と明日香の二人で登校していた。
真琴はしきりに後ろを気にしているが、明日香はその様子を悲しげに見ていた。
「まこ兄、みら姉を待ってるの? それともかな姉?」
「どっちもさ。だけど……」
その二人はどちらも真琴の視界に入らない。あの日から、二人は真琴と会わなくなってしまった。未来に至っては不登校ぎみになってしまっている。
真琴は一度だけ未来の家へと向かったが拒否をされてしまった。
「みら姉とかな姉、どうしたんだろうね……」
「……分からない。どうすればいいんだろうな」
「あ、真琴先輩に明日香先輩、おはようございます」
通りの途中で諫見と鉢合わせになった真琴と明日香。諫見は二人のテンションが沈んでいることについて首をひねったが、すぐに合点がいったのか苦い顔をした。
「二人がいないんだ。何があったんだろう」
「さっき明日香にも言ったが、俺には分からない……何か悪いことしたのかな、俺」
「いや、真琴先輩は何もしてないと思うけど……未来先輩は、やっぱり八戸都に命を狙われているのがショックだったんじゃないかな?」
「ショック……?」
「うん。最初、未来先輩って私たち能力者のオマケみたいなものであんまり狙われることなかったじゃん。それが、最近は未来先輩を狙っている敵が増えてきているような気がする。次々と狙われてちゃ、私だって参っちゃうよ」
確かに、諫見の言う通りかもしれない。未来を狙った敵が次々と現れ、さすがの未来も疲れきっている。しかも、仲間に迷惑を掛けてしまう。その罪悪感も未来を苦しめてたのかもしれない。
「じゃあさ、みら姉を喜ばせようよ!」
明日香はうきうきわくわくしながら真琴の腕を引っ張る。その行為が真琴には意味の分からないものとなっているため、真琴は彼女に怪訝そうな表情を向けた。
明日香はいたずらっ子のように目を細めてニヤニヤし始める。
「嫌だなーまこ兄は。みら姉が喜ぶのは、まこ兄が何かするってことじゃん!」
「お、俺? 明日香は? 諫見は?」
「いや……私たちじゃあ……ねえ、明日香先輩?」
「うんうん」
「……あっ、そういう事かお前たち!」
真琴が理解すると、とたんに顔を赤らめる。恥ずかしそうに必死に両手を振って否定する真琴だったが、二人はにやけ顔を崩すことはなかった。
「いい加減に決めたら、真琴先輩」
「そうだよ。じゃないと二人とも可哀想だよ」
「バ、バカ! こういうのはだな、ちゃんと段階を踏んでいかないとダメなんだよ!」
「ふーん。まあ、それもいいでしょう。でも真琴先輩、どっちがお気に入りなん?」
「えっ……!?」
ずいずいっと前に迫ってくる諫見にたじろぎながら、真琴は額に汗を流す。
ふと、その時未来の姿が特に思い返された。奏も同じくらい思っているのだが、真琴の脳内には未来の元気な姿が焼き付いてくるのだ。
……俺、未来の方が好きなのか?
今までは、未来に呆れて奏が好きになったとばかり思っていた。だが、この瞬間で考えるとしたら、自分は未来に好意を抱いていたということになる。
真琴はその事実に驚き、思わず考えこんでしまう。
「どうしたの真琴先輩? 優柔不断ってやつ?」
「いや……意外にも、俺は最初から決まってたのかなって」
「え? 誰々その人は!? 未来先輩? それとも奏先輩!?」
「何で気になるんだよ、諫見」
「そりゃあ気になるよ」
「くそっ……」
諫見と明日香には言うべきだろうか。戸惑う真琴を諫見は笑った。
「アハハッ、そんなに無理しなくてもいいよ真琴先輩」
「う……」
「とにかく、真琴先輩が行って未来先輩と遊べば、いい気分転換になるよ。きっとね」
「……そうだな」
放課後、未来の家に行ってみるか。それと、奏も誘ってみようか。もしかしたら来るかもしれない。
「奏先輩も誘うの?」
「何で分かったんだよ!?」
「フフフ……最近、女の子の勘というものも身についてきてね。でも、止めといた方がいいと思うよ」
「そうか?」
「うーん、でも、奏先輩なら大丈夫かな。まあ、真琴先輩に任せるよ」
「何だよ、それ」
明日香と諫見の意見により、真琴は放課後に未来の家へ行くことが決まった。
諫見は奏を誘うことに対して複雑な表情を呈していたが、真琴は奏を誘うことは決まっていた。奏も未来と会うことで元気になってくれればいいと思ったからだった。




