想いの因果
一度に様々なことが起こりすぎて頭の整理がつかなくなっている真琴たちは、状況を整理するために放課後の誰もいない教室で整理を行うことにした。
凛音の体は外傷が特になかったため、保健室で寝かせている。時期に目を覚ますだろうというのが真琴の見解だった。その際には何故自分が保健室にいるのか疑問に持つだろうが。
八戸都に命を狙われている未来はすでに意気消沈して顔を俯かせており、いつもの元気の良さはまったく見当たらない。そして、奏も能力の副作用を知ってやり切れない気持ちを顔に出してしまっている。
ある程度元気なのは生き返った諫見と、明日香だけだった。
「……能力を使うと副作用があるのは、奏も同じだったんだな」
司会進行をしなければならないと思い、真琴はいつも以上に周囲に気を遣いつつ奏に話しかける。奏は声には出さず、ただ頷くのみだった。
奏に関することが話題に上がったのが功を奏したのか、未来は顔を上げて奏に訴えかける。
「奏ちゃん。もう、あの能力は使わないほうがいいよ」
「……分かってる。でも、嫌」
「どうして? あれを使ったら、奏ちゃんにも悪影響が……」
「次、八戸都と戦うためにはあの能力は絶対に必要だよ。それに、未来を守るために必要な力……お父さんを乗り越えた力だから」
「守る対象の私が使っちゃダメって言っても……使うの?」
目を潤ませて自分を見つめる未来に、奏は苦笑いをしながら指で彼女の涙を拭った。
「そんな顔しないで。私だって真琴くんみたいに抵抗できるかもしれないんだよ? 落ち込む未来は、未来らしくないよ」
「ごめん。最近色々あったから……調子が出ないのかな?」
奏の励ましに少しだけ元気を取り戻した未来は、応えるために彼女へ向かって精一杯笑ってみせた。
「それにしても、未来を狙う八戸都……か」
諫見は真琴に視線を向けてそう呟いた。
「ああ。あいつ、能力が無いにもかかわらず俺たちと戦った記憶が残っていた」
「未来先輩と同じイレギュラーって言ってたけど……未来先輩は催眠の能力が効かなかったんだっけか」
「そんなイレギュラーな能力が、八戸都にもあるってことか」
「とにかく、今後は八戸都が未来に接近しないように私たちで注意しないと、だね。真琴くん」
「そうだな」
未来以外は全員頷き合っているが、当の本人は困惑した表情を見せていた。そして、必死に早口で言葉を紡いでいく。仲間を頼りたいが、自分のせいで迷惑を掛けたくない。しかし、八戸都の存在は恐怖だということは、未来の様子からして誰の目を見ても明らかだった。
「あ、あの。申し出はとっても嬉しいんだけど、そうなったらみんなに負担が掛かっちゃうよ。だ、大丈夫だって! 私は死の淵からも生還した不死身の未来ちゃんなんだよ! 八戸都に襲われてもマジシャンの如く脱出してみせるから! だからみんなは――」
真琴は口をパクパクさせながら身振り手振りで話している未来に、ただ黙って彼女の頭に手を伸ばした。ちょっとだけ怯えて目を瞑った未来だったが、すぐに目を開けて真琴を上目遣いで見上げる。
「何、今更強がってんだよ。催眠術師の時に俺たちは凄く助かったんだ。そのお礼くらいさせてくれよ。なっ?」
「う……うう……」
自分の意志とは関係なく、未来の目から涙が溢れてくる。それをみんなに見せまいとするために、未来は真琴の胸に飛び込んでひっそりと泣き始めた。
「まったく、泣くんだったら最初から俺たちを頼れよ」
「バ……バカァ……! 泣いてるってみんなに言わないでよ……! 恥ずかしいんだから……!」
奏はそれを見て、何故か嫉妬が芽生えていた。本来ならば未来を祝福しなければならない立場なのに、自分の心からは憎しみが生まれ始める。
その感情が生まれてしまう原因は、八戸都の言っていた能力の副作用なのかもしれない。自分の望んだことと反対のことが起きてしまう。つまり、真琴への思いは……。
「ん? どうした奏?」
「え? い、いや、何でもないよ真琴くん」
奏は相反する自分の感情を必死に抑え込んで、真琴たちに向かっていつもと変わらない冷静な表情を見せるのだった。




