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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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作戦、そして抵抗

 真琴と明日香がケンタウロスとラミアの二体と戦っている時、凛音は隙を見て逃げ出した。このままでは拉致があかないだけでなく、未来を殺すこともできず形勢は不利になるばかりだと判断したからだった。

 しかし、それを見逃す奏ではない。


「待ちなさい!」


「クッ、気づかれたか」


 凛音は手のひらで生成させた炎の弾丸を奏に向けて発射する。弾丸は弧の軌道を描いて奏に襲い掛かってくる。奏は弾道を読みながら弾丸を全て回避する。弾丸は奏を撃ち貫けず、学校の壁や大木に弾着して爆発する。木が燃えてあわや大惨事となるところだったが、魔法の炎は勝手が違うのか、すぐに焦げ目をつけて消えていった。


「そんな弾じゃ当たらないわ!」


「やるな、親友……!!」


「確かに私と凛音ちゃんは親友よ。だけどね、あなたと親友になった覚えはないわ!」


「……目覚めてもらうしかないようだな」


 真琴たちから離れることには成功した凛音はその場で立ち止まった。

 逃げるのを観念したのだろうと思った奏は凛音と距離を取りつつ、様子を伺う。奏の表情は少しだけ唇を上げて喜んでいた。


「さあ、凛音ちゃんを返してもらう」


「……僕の魔法をあまりナメない方がいい」


「魔法だって……あの炎の弾丸だけでしょう? その技はもう見切ったの」


「僕は……勇者なんだぞ!!」


 凛音はそう叫ぶと、両手から魔法を繰り出した。右手からは水流が、左手からは電撃が発射される。

 先に水が奏を襲い、水の膜が奏の頭上の空を覆い隠す。奏は身構えたが、水は奏でを濡らすだけで何のダメージもなかった。しかし、それは単なる布石に過ぎない。

 凛音の本命は電撃なのだから。電撃は凛音が繰り出した水に触れると、空中を辿るよりも早く奏の元へと近づいていく。水が道を作ったように、電撃は一直線で奏を襲う。


「その技だって分かってる! そっちこそ高校生をナメないで!」


 水が電気を伝う。そんなことは奏もよく知っている。奏は自分の体を乾かすために自分の周りに熱を生成させて、自分の体を乾かした。

 道が絶たれた電気は水たまりが出来ている地点で暴れまくってしまっている。


「……魔法が使えないが、それ相応の知識は持っているようだな。現代人とやらは」


「あなたの前世を悪く言うつもりはないけど、こっちだって今を生きてる」


「なるほど。普通の魔法では無意味そうだな」


 普通?

 奏がその言葉に引っかかりを見せると、凛音は素早く新たな呪文を唱える。魔法が勇者である凛音を認めているのか、凛音の手のひらは神々しく光り輝く。そして、光は一つの剣を形作った。

 奏が見る限り、その剣は実体を持たない虚像である。しかし、剣の柄はしっかりと凛音の手に握られている。


「これが光魔法というものだ。聖なる者にしか扱えない奇跡の魔法」


「へー、少しはやるみたいね」


 奏も剣を持って、凛音の物と鍔迫り合いを始めようと立ち向かっていく。

 痛いけど、少しだけ我慢して。後でいっぱい謝るから!

 奏は剣を振り下ろし、凛音の肩を斬ろうとした。凛音は余裕そうな表情で奏の剣を自分の剣で弾いた。


「嘘っ!?」


「これが光魔法の力だよ!」


 一瞬にして奏の剣が消滅した。手に残っていた感触すらも過去の物となり、奏は丸腰になってしまった。


「これに斬られるとどうなるかな……?」


「――っ!」


 防御しようにも遅く、奏は凛音の持っている光の剣によって斬られてしまった。肩から下にかけて切断された奏の体。剣は明らかに奏の体を貫いて切断していた。

 だが、奏の体が分離することはない。血も出ることもない。

 ただ、斬られたという感触が奏の神経を伝って脳に刺激を与えた。


「グゥ!?」


「どうだ? 斬られた感想は。聖なる光は血を好まない。だから、斬っても体から血が出ることはないのさ。痛みはそのまま痛覚するがね」


「……まさに、生殺しってやつね」


 ゼイゼイと体中を使って呼吸をして痛みを少しでも和らげようとしている奏を、凛音が笑う。


「どうした。さっきまでの勢いはもうないのか?」


「そりゃ、剣で斬られたら……少しは痛がるフリをするのが筋ってもんでしょう……?」


 弱気はみせない。あくまで奏は凛音を挑発していた。

 凛音はため息をついて、それから手を奏にかざした。その行為だけで、奏はこれから自分の体に何が起きるのかを察知できた。


「そろそろ思い出してくれ。僕も、親友である君を傷つけるのは忍びない」


「……嫌よ。前世の記憶が戻ろうとも、私は絶対に未来を守ってみせる」


 そう。今までそう言って、何度自分を保って、未来を守ってこれただろうか。

 奏は過去の自分を思い出して一度もないことを確認する。

 情けないよね。ずっと真琴くんや明日香ちゃんや諫見ちゃん……果てには守るべきはずの未来にまで私は守られていたなんて。……だけど、今度こそは負けない。


「う……あああっ!!」


 光を浴びて、奏に知らない記憶が蘇っていく。それは、今対峙している勇者と一緒に旅をした記憶だった。

 あ、私、前世は男の子だったんだ……。

 前世に飲まれそうになるが、必死に今まで真琴たちと作ってきた思い出を思い返していく。

 最初は真琴くんと戦ったんだっけか。真琴くんが私を説得してくれて、お父さんが私の能力を奪って、真琴くんが取り返してくれたっけ。懐かしいなあ。次は明日香ちゃんのせいで未来と入れ替わったんだよね。温かい家族がいるってこと、本当に大事だなって思って。次は諫見ちゃんがお母さんのせいで戦うことになったよね。お母さんは、私を守るために一生懸命だった。

 こんなに大切な記憶を、絶対に上書きさせたくない……!! だったら……!

 光が無くなり、奏は地面に膝をつく。


「これで親友が蘇った。……さあ親友、一緒に未来を殺そう」


 凛音は奏が前世の記憶を取り戻したことを確信し、ほくそ笑んでいた。

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