対決、転生獣
一気に形成が逆転し、凛音は少しだけうろたえる。しかし、凛音はラミアとケンタウロスの可能性に掛けた。
「ラミア、ケンタウロス! 未来よりも先にそこの二人を倒せ!」
その二体の怪物は凛音の指示の通りに、真琴と明日香を狙い始めた。
真琴は女の子に変身して奏が投げつけた木刀を真剣へと変化させる。明日香の方は鞭を召喚させて地面を叩きつけている。
「明日香、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよまこ兄。僕だって強くなってるんだから」
「そっか。じゃあ、一体は任せたぞ」
「うん!」
凛音は未来に向かって走るが、奏が立ちふさがる。奏は凛音を見てニヤリと笑った。
「これでサシで戦うことができるわね。凛音……いや、凛音の前世!」
「まさか親友と死闘をすることになるとは……だが、これも仕方ない。僕の使命だからな!」
二人の会話を流し気味に聞きながら、真琴はケンタウロスと対峙した。ケンタウロスは地面を蹴って助走の準備を進めている。
動かない対象なら、真琴の能力一発で元に戻すこともできる。しかし、動いていると照準を合わせづらいのだ。
ケンタウロスは真琴の迷いなど知らずに彼に向かって突進してくる。
「自分の足元を……転換!」
すると、真琴は予備動作無しに跳躍した。どちらかと言えば、地面と真琴の足が磁石のように反発したと言った方が正しいのかもしれない。
走るケンタウロスを見下ろしながら、真琴は空中で一回転して地面に着地し、すぐにケンタウロスに向かって駈け出した。ケンタウロスが地面を滑って足を止めるまでが勝負だった。
「いっけぇぇぇ!!」
真琴は剣を振りかざしてケンタウロスの胴体を斬りつけた。体からは青い血液が流れ出ていて、痛ましく感じられる。
「まだ、動くのか……」
斬られているが、ケンタウロスは先ほどと変わす、真琴を狙うために回れ右をして真琴と対面した。真琴は小さく舌打ちをして、再び剣を構えた。
「ったく、しぶといやつだな!」
真琴はケンタウロスが襲い掛かってくる前に片を付けるため、走り始める。ケンタウロスもまた、先ほどより助走を早めて真琴に突進してくる。
今度は一瞬で回避して、すぐに斬りかかる。
そんな計画を立てた真琴はギリギリのタイミングでケンタウロスの突進を避けようとした。
「――今だ!」
しかし、その瞬間にケンタウロスは真琴に腕を伸ばし、服を掴んだ。
「なにっ!」
掴まれてしまった真琴は足を引きずられながらケンタウロスと共に突進していく。その場所は学校の壁だった。
ケンタウロスは雄叫びを上げて真琴を学校の壁に押し付けたのだ。
壁が壊れる音が辺り一帯に鳴り響く。その音を聞いて、ラミアと戦っていた明日香も思わずその方向を見てしまった。
「まこ兄!」
真琴を助けに行きたい明日香だったが、ラミアがそれを許さない。ラミアは自分の下半身である長い尻尾を振り回して明日香を攻撃する。
明日香はラミアの尾を自分の鞭で弾いていく。その間にも明日香は真琴の心配しかできなかった。
……一方、ケンタウロスは真琴の死を確信していた。さらに真琴の体を壁に押さえつけてダメ押しをする。
「……へっ、丁度いいや。今ならお前を元に戻せる」
突然、真琴の腕がケンタウロスの胸元へ伸びる。間髪を入れずに真琴はセイレーンの時に行ったような転換をケンタウロスにもした。
ケンタウロスは光輝き、そして姿が戻っていく。ケンタウロスはセーラー服を着た女の子に戻り、気絶をして真琴に寄りかかった。
真琴は彼女を地面に寝かせて、すぐに明日香の元へと向かう。
「明日香、大丈夫か!?」
「無事だったんだね、まこ兄!」
「鞭でそいつを捕縛するんだ。後は俺がやる!」
「分かった!」
明日香はすぐに鞭をラミアに向けて放つ。ラミアは抵抗するが鞭はすぐにラミアに絡みついて離れない。動いて必死に解こうとするが、そんなので簡単に解ける鞭ではないことは明日香が知っていた。
「今だよ、まこ兄!」
「よし!」
真琴は動きの少なくなったラミアに向かって手をかざし、転生した女の子を元の姿へと戻していく。この女の子もまた先ほどと同じく気を失って地面に倒れる。
「よし……何とか元に戻せたか――うっ!!」
突然、真琴に激痛が走る。能力を使いすぎた弊害なのか、真琴は地面に膝をついてしまった。
「まこ兄!」
明日香はすぐに掛けより、真琴の背中を優しくゆっくりと擦る。真琴は痛みでぼやける目で周りを見渡し、肝心なことに気づいてしまった。
「明日香……奏や未来はどこに行ったか分かるか……?」
「え!? あ、そう言えば……」
「俺に構うな。早く未来を守るために奏の助けになってやるんだ」
「でもまこ兄は?」
「……大丈夫、すぐに駆けつけるって。言っておくがな、これは死亡フラグじゃないからな」
明日香は真琴を信じて力強く頷いた。立ち上がって、明日香は真琴から離れて奏たちを探しに行く。
明日香の姿が見えなくなって、初めて真琴は激痛に耐えられなくなってうめき声をだした。心臓が抉られるような感覚が真琴の全神経を敏感にさせ、微かな痛みでも大げさな激痛へと変えていく。
真琴は痛みが収まるまで、手のひらを地面の雑草に叩きつけながら声を圧し殺すしかなかった。




