表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
126/156

海からの呼び声

 明日香と諌見は、真琴の指示通りに砂浜へと来ていた。昨日はあんなに楽しく感じられた砂浜が、今の二人にとっては不気味な静けさが漂う空間へと変化している。

 明日香は真剣な表情で砂浜の向こうの海を眺めていた。真琴の言いつけをちゃんと守るしっかりとした子どもだろう。諌見も明日香の態度には感心していた。


「真剣だね明日香先輩」


「うん! まこ兄のお願いだからね。僕がちゃんと見張るんだ!」


「おお。その調子だよ明日香先輩」


 意気揚々と海を眺めている明日香。諌見も安心して砂浜を歩いて昨日の怪物の手がかりを探して歩きまわることにした。

 彼女は最初に怪物が現れた中心点へと向かった。風の影響で砂の位置が変化してしまい大きな穴が縮小してしまっているが、確かにここが怪物が落ちた場所だった。


「何かないかな……」


 諌見は穴の周りを歩き、手がかりを探す。羽でもいい。何でもいいからわずかな物も目を凝らしてよく探した諌見だったが、手がかりは全く見つからなかった。

 あの時、凛音も一緒にいたのだが彼女は大丈夫だろうか。真琴の機転によって明日香、諌見、凛音は怪物に襲われずにすんだ。怪物を見た凛音は体を震わせて恐れていたが、何かにシンパシーを感じているようでもあった。


「凛音……今日は学校に行ってるのかな?」


 それは後で真琴先輩にでも聞こう。凛音の様子にも気をつけなくては。彼女が何の能力もなしに接近しているとしても、この集まりに積極的に接触することはある意味で凛音のTSF能力の目覚めが運命であるということ。

 これからは凛音の動きが少しでも怪しいと感じたら二人きりで話をしよう。

 ーーって、凛音のことばかり考えてちゃダメだよ。ちゃんと昨日の怪物の手がかりを探さないと。

 しかし、長い間探しものをしていると疲労も溜まっていくというもの。さすがの諌見も疲れで気だるさを感じ、休憩と様子を見る目的もあって明日香の元へと向かった。


「明日香先輩、そっちはどう?」


 明日香は諌見の言葉に反応することなく、砂浜に体育座りで海の向こうをしっかりと見ている。後ろからしか明日香の様子が分からない諌見は不審に思ったのか、彼女の前に出ることにした。


「明日香先輩?」


「……ぐぅ。ムニャムニャ、もう食べられないよ~」


「明日香先輩、起きろ」


 諌見は明日香の頭を軽く叩いて、彼女を目覚めさせる。目を見開いた明日香は諌見の姿を発見するとはにかんだ笑みを見せた。


「えへへ、ごめんいさみー。僕、寝てた」


「真剣にやってると思ったらこれか……。明日香先輩、ちゃんとしてよ」


「だってー、全然変化がないんだもん。つまらないよー」


 まあ、心は小学生だからしょうがないか。

 すでに飽きがきている明日香に鼻で大きく息を吐いた諌見は、彼女の隣に体育座りをした。休憩ついでに、明日香と海を監視するのも悪くないだろう。


「海……昨日の怪物は海に落ちたんだよね?」


「そうだね、明日香先輩。真琴先輩たちが言うなら間違いないよ」


「海に入ったら死んじゃうんじゃないのかな?」


「普通の人間ならそうかもしれないね。だけど明日香先輩。昨日の相手は得体のしれない存在だった。その存在が人間の常識が通用するかな?」


「うーん……確かに」


「だからさ、ちゃんと監視しよう? ね?」


「……うん。分かった」


 良かった。これでまた手がかり探しに行ける。休憩もしたし、いい頃合いだ。

 そう思って諌見は立ち上がって歩もうとしたが、次の明日香の言葉で立ち止まらざるを得なかった。


「あ、あれって昨日の怪物かな!?」


「何だって?」


 明日香の指差す先を、よーく目を凝らして見る諌見は、海に顔を出している何者かを発見した。

 何者かも明日香たちを発見したのか、明日香たちに向かってきている。


「いさみー、近づいてくるよ!」


「とにかく、真琴先輩に連絡しない……と……」


 諌見がスマホを取り出して真琴に連絡しようとしたその時、諌見の手が止まった。

 諌見の耳に、この世のものとは思えないほどの美しい歌声が侵入してきたのだ。思わず諌見はその歌声を聞き入ってしまう。


「いさ……みー。この歌……何かヘンだよ……」


「そー……だね……」


 明日香に同意することくらいしか、諌見の意思を表現は限られてしまっている。すでに諌見は歌の虜となってしまっていた。もっと聞きたい。近くで聞きたい。その欲求に従って諌見は周りをくまなく探す。すると、歌は海の向こうから聞こえてきたということが分かった。

 諌見はボーッとしながら、おぼつかない足取りのままで海へと歩き始める。


「きのーの化け物が歌ってたんだ。凄くキレイ……もっと見たい……聞きたい……」


「いさみーがおかしいよ……。と、とにかくまこ兄に連絡しなきゃ……」


 自分も歌声に飲まれそうになりながら、明日香は諌見が落としたスマホを拾って未来に電話を掛けた。数秒のコール音の後、未来の元気な声が聞こえてきた。


「はいはいこちら未来! 何かあったの諌見ちゃん」


「怪物の……ヘンな歌に……僕たちおかしくなっちゃって……」


「歌!? それって――」


 スピーカーの奥で真琴と奏の声が聞こえてくる。慌てているようだが、音声は明日香からは聞き取れない。


「――マズイよ明日香ちゃん! 早く耳を抑えて!!」


「もう……ダメ……」


「明日香ちゃん!」


「……はぁ~、いい歌だよー、どこから聞こえてくるのー?」


 明日香はスマホを砂浜に落として諌見の後を追う。スマホからは、未来の必死な声が聞こえてくるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ