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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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忍び寄る影

 真琴たちの楽しげな様子を、ずっと伺っている少女がいた。彼女は海の家でバイトをしており、真琴たちのようにはしゃぐことができない。

 少女はトレードマークの小さなリボンを少しだけ触ってため息をついた。


「いいなぁ……。私も、あの人たちみたいに遊びたい……」


 お金を稼ぐだけでこんな場所に来ている少女は、仕事に対するやる気は皆無に等しい。それが、真琴たちのような客が来てしまえばテンションは更に落ちること必須だった。

 今の少女の髪型は後ろを丸く括っている。元々は長髪なのだが、食品を扱うバイトだったため、衛生面を考慮してのことだった。

 彼女は店の中に立って焼きそばを販売している。レジ&食品を手渡す係で、今は少女一人だった。それ故、ボーッとすることもできた。


「カナデさん。一体どこに行ってしまわれたんだろう……」


 一目惚れした人物の顔を思い出す。野球の試合の助っ人として来てもらって以降、彼の姿を見たことがない。全てのクラスを調べてみても、彼と同じ名前の人物はいてもその人物は女子で、彼の情報はなかったのだ。


「私が見たのは幻? ううん違うよね。だって、私のチームは勝ったんだもん」


 ガックリとうなだれ、もう探す宛がないことを残念に思う少女。

 その時、一人の女性が少女の前に立った。


「ふふっ、少しいいかしら?」


「ふぇ? あ、すみません! どの食品をお求めですか!?」


 少女は即座に顔を上げて接客スマイルを女性に向ける。女性は少女の表情に少しだけ唇を上げた。

 キレイだ。少女は女性の印象に一目惚れしてしまう。日本の女性を象徴するような絹の糸のような黒髪に、清純そうな出で立ち。ある意味、この場所には不釣り合いだと少女は思った。

 少女はポスターに写っている食品を眺めながら、口を開いた。


「さっきの話……気になるのだけれど」


「さっきって……もしかして、聞いてました?」


 クスクスと笑う女性に、少女は顔を赤らめてしまった。

 いくらサボっていたとはいえ、自分の中で会えない彼に恋い焦がれるところを見られてしまった。しかも、美しい女性に。

 しかし、女性は突然おかしなことを口ずさみ始めた。それは確かに少女にとってはメリットの大きい話だったのだが。


「ねえ、カナデさんにもう一度会いたいのですか?」


「え?」


「私なら、簡単に会わせてあげることができますよ」


 最初は夢だと断定し、少女は思わず自分の頬をつねる。


「痛い……ってことは夢じゃない?」


「夢じゃありませんよ。私にはツテがありましてね」


「ほ……本当にカナデさんに会えるんですか!? 信じて良いんですか!?」


 女性はしきりに頷いて少女を肯定する。少女の顔から笑みがこぼれてくる。こんなに嬉しい出来事は初めてカナデに会った時以来だろうか。

 とにかく、少女の気持ちは舞い上がっていた。


「――では、目覚めてもらいましょうか」


「え? 目覚めるって夢じゃないんじゃあ……」


「ええ。夢ではありませんよ。ただ、あなたの中の潜在力を引き出すだけ」


 その瞬間、女性は手を少女に向かってかざし始めた。女性の手が光り出し、少女は思わず叫び声を上げる。


「キャッ!!」


「大丈夫ですよ。あなたを前世の姿に……『転生』させるだけですから」


「ど、どういう――っ!」


 少女の体が熱くなる。決して、上から降り注ぐ太陽の暑さではない。体の内からこみ上げてくる熱さだった。しかし、体は寒気を訴えている。少女は自分の体を抱きしめてその場にうずくまった。

 外は寒く、中は熱い。その奇妙な感覚に酔いつつも、少女は必死に吐き気を堪えている。


「あらあら。早く楽になった方がいいですよ?」


 少女の記憶に知らない記憶が追加されていく。人々を襲い、殺した人間を食す記憶。自分がしたことに後悔と恐れを抱き、少女はその場で吐いてしまった。

 吐けば楽になるかというとそうではない。段々と追加され、上書きされていく記憶に恐怖しながら、少女は涙目になっていた。


「い……いや……! 助けて……誰か――」


 そこで、少女としての記憶は途絶えた。

 少女の体が光り輝き、まったく別の存在へと変化する。

 背中から翼が生えて、爪は鋭利になり、耳はエルフのように長く鋭くなる。足は三本足となり、まさに鳥と人間が合体したような風貌をしていた。


「あら。前世はセイレーンだったんですね。中々可愛いじゃないですか」


「キィー!!」


 およそ人とは思えない奇声を放ち、女性を襲おうとした元少女だったが、急に動きを止めた。


「頭のいい子ですね、自分の立場が分かっているなんて。そう、あなたが戦うべき相手はあそこに……」


 女性が頭を使ってその場所を指定する。そこは真琴や未来たちが海水浴を楽しく遊んでいる場所だった。

 セイレーンは真琴や側にいる凛音を見ると、大きく翼を羽ばたかせた。


「ふふっ。どう戦うんでしょうね、真琴さんたちは。元人間だった存在を倒してテンプレの如く鬱るのか、はたまた浄化させてしまうのか……」

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