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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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ドキドキの誘惑⁉︎

「真琴ちゃん、調子はどうかな? 治った?」


「ああ……治っ――!?」


 回想が終わった真琴を呼んだのは、彼の様子を見に来た未来だった。心配そうに覗き込んだ未来に、思わず真琴はドギマギしてしまう。星柄の普通の水着でも、彼女の大きな胸が強調されれば爆発的に刺激的な水着へと早変わりする。

 誰でも着ていそうな水着にもかかわらず、真琴は目をそらしてしまった。若干頬を染めている真琴を勘違いした未来は、さらに彼に近づいてくる。


「顔赤いけど、ホントに大丈夫?」


「お、おお! ってちょ――」


 不安げに未来は真琴の顔に接近する。真琴はすぐさま後ろに顔を退けさせるが、未来の方が早かった。

 未来は自分の額を真琴の額に当てて上目遣いをした。数秒の瞬間だったが、真琴の心臓は確実に止まっていた。そしてこの時ほど、真琴は女の子に変身していて良かったと思ったことはない。男の子にはあって、女の子にないものが爆発していたかもしれないからだった。


「熱は……ないか」


「な、ないんだよ! だから早く引いてくれ。なっ?」


「……はは~ん」


「な、なんだよ?」


「この私のセクシーな体に惚れたなぁ!?」


 立ち上がった未来は真琴の目の前でセクシーなポーズを取った。小悪魔のような目つきで真琴を誘惑する未来だが、真琴はガン見をしながら必死に否定していた。


「バ、バカ! そんなんじゃねーよ!!」


「じゃあ何でジロジロ見てるのかなあ? というか真琴ちゃん、自分の体も女の子に転換できるのに女の子の体に慣れてないの?」


「慣れるわけないだろ! 女の子になってても心は男の子なんだぞ!?」


 口をパクパクさせながら必死に弁解をしている真琴を横目に、未来は海の様子を見た。奏や諌見たちはまだこちらの様子を忘れて遊んでいる。

 ……これってチャンス?

 指をパチンと鳴らして、未来は悪巧みしている表情を見せた。

 何のことだか分からない真琴は彼女の表情の変化に何やら悪い予感を抱き始める。


「何を考えてんだお前は」


「真琴ちゃん、今なら私を好きにしてもいいよ?」


「へっ!?」


「ほーらー、こんな可愛い女の子が目の前にいるんだよ?」


 猫なで声で再び接近してくる未来に、真琴は何故か体が動かなかった。

 引き笑いで固まっている真琴を安心させるように、未来は彼にしか聞こえないように耳元で囁いた。


「大丈夫だって。今は女の子同士だし、傍から見たらただのじゃれ合いにしか見えないって」


「う……うう……!!」


 未来は思い切って真琴に抱きついた。その衝撃で、真琴はビニールシートの上に倒れてしまう。

 いつもより大胆な行動を取っているのはセーラー服じゃなく水着を着ているからだろうか。それとも、奏よりも先に真琴を奪おうとしてる焦りからだろうか。

 いつもならば服越しで感じる未来の温もりが、今は薄い生地で小部分しか肌を守っていない水着のせいで直に感じられた。

 そして、いつもより柔らかい胸の感触が真琴の目をグルグル回して思考能力を破壊していく。


「あ……あ……」


「ねえ、真琴ちゃん。私と奏ちゃん、どっちが大好きなの?」


「や、止めろ。今、そんあ、こと、言われても、正常な、判断が、できない」


「ダメ。今決めてよ。というか……今なら勝てるかもしれないから言ってるの」


 未来は悲しそうな表情をして真琴の胸に自分の顔をうずめさせる。


「やっぱり、私のこと嫌いになっちゃった?」


「ば、バカか、お前は。俺は、おれは……」


 友達だ。それが彼女をどれだけ傷つけるのだろう。

 確かに、最初真琴が好きだった人物は未来だった。それが間接的に明日香を殺し、彼女の運命を変えてしまった。そして、次第に彼は奏の方に心を移し始めていた。

 だが、時折見せる未来の表情にも真琴は心を惹かれてしまう。

 端的に言えば、真琴は二人のどちらにするか迷っていた。明日香を亡くしてしまった責任として、真剣に考えなければという真琴の思いもあった。

 どちらかを選べば、どちらかは悲しむ。しかし、選ばなければ男としても最低で、両方を悲しませることになる。

 両方が好意を持ってしまった瞬間、少なくともどちらかが悲しむことは決まっているのだ。

 奏に会わなければ、今この瞬間、真琴は未来を抱きしめていただろう。しかし、奏という存在が、真琴に一線を超えさせないストッパーの役割を果たした。


「……まだ決められないんだ」


「……ごめんな。まだ、迷ってる」


「分かってる。奏ちゃんが悲しむのは私も嫌。だけど、この気持ちは本当なの」


「未来……」


 真琴はバツが悪そうに未来から目を逸らして空を眺めた。そこで彼は気づいた。

 自分を見下ろしている奏に。奏は笑顔になっているが、額には血管が浮き出ている。必死に自分の表情を取り繕っているといった感じだ。


「なーにやってるのかなー二人とも……!!」


「か、奏!」


 奏は拳を震わせながら、目を閉じる。そして、クワッっと見開いて真琴の顔面目掛けてパンチを繰り出した。


「死にさらせぇー!!」


「強制脱出装置、起動!」


 未来は即座に真琴から離れる。


「おい卑怯だ――グハァ!!」


 真琴は奏の拳を顔面に受けて、顔面がめり込んでしまっている。

 制裁を加えたことを確認した奏は離れた未来に即座に目を移した。


「未来も未来よ! アンタ、私がいない間に何エロイことやってんのよ!」


「え!? いやー、チャンスかなって思ってつい」


「『つい』でアンタは自分の胸を男に押し当てんのかぁー!!」


「まあまあ、胸がないからって嫉妬しないでよ」


「気にしてること言うなぁー!!」

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