諌見ちゃんの分析
八戸都がいなくなったことを確認した奏は、すぐに諌見を呼び出した。八戸都の能力を受けていない他の能力者は諌見しかいなかったのだ。
呼び出されてからすぐに高校へと到着した諌見は、周りの現状に思わず唖然としてしまった。開いた口がふさがらないとは、まさにこのことなのだろうと諌見は思った。
「あ、諌見ちゃん。よく来たねー」
いつもより元気のなさそうな未来が諌見に話しかける。諌見は頭をかしげながら、彼女の様子を伺った。未来は腕を組んでずっと考え事をしている。思い出すはずのない記憶を必死に探している。棚ごと入れ替えられた記憶は、未来の脳内には存在しない。
「ど、どうしたんですか未来先輩」
「うーんとね、ずっと考えてるのさ。諌見ちゃんの能力て何だったかなーって」
「私の能力……?」
何かど忘れしたのだろうか。諌見はそう考えた。
そして、諌見の度肝を抜いたのが奏の言葉づかいだった。
「あ、諌見ちゃん! 待ってたです」
「で、で、で、ですぅ!? 一体何があったんですか奏先輩!?」
「これには深い訳があるんです。あまり聞かないで欲しいです」
「奏先輩……なんでこんな……」
何やら、諌見にとっては見知らぬ人もいたが頭の処理が追いつかないため、敢えてスルーした。
各々集まっているその中で、唯一無事だと思われる明日香に向かって、諌見は口を開いた。
「明日香先輩、端的に話してもらえないかな?」
明日香は先ほどあったショッキングな出来事を思い返して、諌見に分かるように状況を伝えた。
「それが、いきなり敵が現れてみんなの色々な部分を入れ替えたんだ。例えば知識とか力とか……」
「入れ替えた、か」
諌見は深く頭をもたげて、唸っている。
「明日香先輩、それって明日香先輩の能力とは違うってこと?」
「みら姉が言うには違うって。でも今のみら姉は……」
そう言って、明日香は未来を眺める。当の未来は苦笑いをするだけで、彼女たちの会話に入ろうとしない。何故なら、今の未来には全てが新しい情報で、頭が追い付いてないのだ。
諌見は悲しそうな顔をしていた。
「そっか。対策も立てられないってことか……」
対策。その言葉に、明日香は声を上げた。
「いさみー! それなら、僕が対策になる!」
「ん? どういうこと?」
「僕だけ、入れ替わりの能力が効かなかったんだ。多分、同じような力を持っていたから大丈夫だったと思うんだけどさ。それで、僕といさみーが協力すればいいと思うんだ!」
「なるほど……」
諌見はその可能性を考える。それで勝機はあるのか。少しの時間黙って考えをまとめた諌見の答えは、明日香にとっては辛いものとなってしまった。
「ごめん明日香先輩。その案だけど……私は戦えないよ」
「え? どうして……」
「考えてもみて。入れ替わりの能力は強力で、奏先輩や未来先輩だって避けられなかったんでしょう? だったら、私じゃ無理だよ。私の能力は、私自体はあまり動けないから恰好の的になっちゃう」
「そんな……」
自分の浅はかな計画が諌見に否定されて、シュンと元気がなくなった明日香はがっくりと肩を落としていた。
何か思うところがあるようだった諌見は、決意をしたのか明日香と向き合った。
「明日香先輩……いや、明日香ちゃん。俺は、君にしかその能力者を倒せるものはいないと思う」
「でも、僕一人じゃ何も……」
「もし、君が戦わなかったら今までの平和な日常はもうやってこないだろう。それでもいいのかい?」
「それは……嫌だよ」
「そうだろう? ……いや、君には酷なことを言ってると思うけど、現状で頼れるのは君しかいないんだ」
「……分かった。僕、頑張る」
「よーし、それでこそ男の子だ。俺も見つからないように最低限のサポートは行う。一緒に頑張ろう」
明日香は諌見の言葉に元気よく頷いた。
「明日香ちゃん。君は八戸都を倒すまで奏の側にいた方がいい」
「かな姉を殺そうとしているから……だよね?」
「うん。その通りだ。だから、出来るだけ奏ちゃんからは目を離さないようにしてほしい」
「分かったいさみー。絶対にかな姉を守ってみせる!」
とりあえず、心配はないだろう。そう思った諌見は元の口調へと戻して真琴の方を眺めながらため息をついた。
さわやかな笑みの真琴が諌見の心を曇らせる。
「……で、真琴先輩は何やってるのさ」
「何もしていないよ。俺は争いが嫌いな男だからね。君たちも話し合おうじゃないか」
「……殴ってもいい?」
「ダメだよいさみー。叩いても正気に戻らないんだ、まこ兄」
「未来先輩から噂として聞いていたけど、やっぱりちょっとウザいね、今の真琴先輩は」
「はっはっは。いけないよ諌見ちゃん。君のような小学生がそんな汚い言葉を口にしたら」
「ああ、そう。気を付けますよ一応ね」
とりあえず、適当にあしらっておくしかない。諌見は真琴に対してジト目をしながら大きなため息をついたのだった。




