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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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頑張れ明日香ちゃん

「みんなをイジメるな!!」


 明日香は精一杯大きな声を出して八戸都を怒鳴った。明日香の中に入っている精神は小学生である。その精神が目上の人間に向かって大声を出すその行為がどれだけ高い壁であるだろうか。

 しかし、尊敬できる未来、奏、真琴が悲惨な目にあっているのを黙って見ているほど、明日香は臆病ではなかった。

 彼女は震える足で一生懸命立ち続けている。真琴が戦いを好まず、奏も弱くなっている現状、この場所では彼女は一人で戦わなければならない。


「虐め? 違います。これは戦いなんですから」


「う、うるさい! 僕は怒ってるんだ!」


 記憶の混濁が無くなってから今まで明日香は常に誰かの役に立ちたいと思っていた。しかし、敵にやられてばかりだった。それも今日で終わらせる。明日香は鞭を取り出して八戸都に構えた。


「それじゃ、あなたも入れ替えてあげましょうか。そうですね……そこの小学生の力と入れ替えてあげます」


「……やれるものなら、やってみなよ」


 明日香は未来の知識が奪われる前に彼女から入れ替わりの能力について聞いていた。自分と八戸都の能力は似通っていると未来は言っていた。だったら……。

 八戸都は明日香と凛音に向けて手をかざしたが、すぐに八戸都は顔をしかめた。異変に気づいていたのだった。


「おかしい。入れ替わりが発生しない。あなた、どんな細工を施したというの?」


「僕にそんな能力は効かない」


 何だか、みら姉になった気分だ。

 明日香は心で安堵した。もし効いてしまっていたら全てが終わっていただろう。

 恐らく、当たり前過ぎて未来に思いつかなかった能力の盲点。もちろん、未来の知識を持っている八戸都も気づかない。所詮、人から奪った知識だった。その人が気づかない発想、考えは八戸都の脳内に思い浮かぶことはない。奪った知識では、その人の上をいくことはできない。

 八戸都はため息をつきながら、地面に落ちた剣を拾った。今の奏には重すぎて使えない剣も、彼女の腕力を手に入れた八戸都には扱える。

 しかも、八戸都は再び奏と自分に手をかざして、何かを奏から奪ったのだ。

 その瞬間から、八戸都の剣の捌き方が変化した。まるで、剣道を最初から経験しているかのような剣の扱い。


「さてと、奏さんの剣道の腕も手に入れたし、あなたをやっつけて差し上げます」


「僕はお前を倒してみせる!」


 でも、僕に出来るのかな?

 一瞬だけ弱気になる。しかし、そんな明日香の瞳に未来と奏が映る。

 ……ダメだ。今は僕しか戦える人がいない。勝つことを考えなくちゃ!

 八戸都は剣を使って襲い掛かってくる。それを明日香は鞭を叩きつけて近づけさせまいとする。


「……ぐ」


 真琴は涼しい顔をしている中で、明日香の決死の戦いを見ていた。全身に汗が滴っている明日香の真剣な表情を見つめて、真琴の中で何かが訴える。


『おい、いつまで寝ぼけてんだよ俺。いい加減起きろよ!』


 その訴え続ける声は真琴を固く閉ざしていた心を少しずつ溶かしていく。

 何を考えているんだ俺は。ケンカはダメだ。やってはいけないんだ。


『くそ。転換の力を使ったがためにこんなことになっちまって……!』


 うるさい心の声を必死に押し留め、とうとう声は真琴の心に届かなくなってしまった。


「うふふ、面白いですね剣道というのも。どうしたの? 動きが鈍いですよ。あなた、奏さんに一度も勝ったことないんじゃない?」


「勝ったこと……あるもん」


 但し、記憶が混濁した状態で初対面の時のみだが。

 八戸都はクスリと笑って、明日香の注意を剣のみに注がせる。その隙に、八戸都は明日香の腹部に蹴りを入れたのだ。


「あグゥ!?」


「これで最後ですよ」


 バランスを崩した明日香に向かって、剣が斜めに入る。胴体を斬られた明日香は血を流しながら、膝をついてしまった。


「弱いんですね、あなた。それであんなご高説を垂れていたとは恐れ入りますね」


「……う」


 明日香は目に涙を溜めた。小学生としての精神が八戸都の言葉に耐えられなかった。

 さすがに不憫だと感じたのか、八戸都は剣をしまい込んだ。


「何故でしょうか。あなたと戦っていると弱い者いじめをしているように思えます。同じ年なのに……不思議ですね」


「グスッ……僕は……絶対に勝ってみせるんだ……!!」


「止めた方がいいですよ。あなたは弱いんですから。まあ、素晴らしい技術は手に入れましたし、今日は疲れたのでここまでにしておきます。次は奏さん、あなたを殺しますから」


 奏は足を震えさせながら立ち上がった。その顔色には青色が見え隠れしている。


「……そんなこと、させないです」


「そんな口調で言っても全然怖くないわ。それに、あなたの力は全て頂きましたから。もう一般人なんですよあなたは」


「――ふざけるなです!!」


「あなたが何をしようと勝手ですけど、リスクを考えて下さいね。あの真琴さんのようになりたいなら、話は別ですけどね」


「……っ!」


 完全に技術という力を奪い取った八戸都は、勝利を確信した高笑いをしながらこの場から立ち去る。

 後に残ったのは、戦いを拒否した真琴と八戸都によって搾り取られた人々、そして八戸都に負けた明日香だけだった。

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